シーン3:Sとの対峙/ガイアメモリとドーパント
無人となったホールのステージでは、荘吉と蜘蛛男の格闘戦が繰り広げられていた。大降りに繰り出される蜘蛛男からの攻撃を、荘吉は難なく躱してハイキックを見舞う。しかし蜘蛛男もその蹴りを意も介さず受け止め、跳ね飛ばす。
人間とは明らかに異なる膂力が、荘吉にじわじわとダメージを与えるのだ。
「ぐっ!?」
「荘吉!」
蜘蛛男の腕から放たれた糸が荘吉を絡めとる。反対側の腕からも糸を伸ばし、天井の鉄骨にくくりつけると、蜘蛛男は自らの体と共に荘吉を吊り上げた。
「人間風情がぁ……<ドーパント>には勝てんぞ?」
「ドーパント?」
締め上げられながらも涼しい表情を崩すことなく、荘吉が耳慣れない単語を聞く。
「ガイアメモリで進化した……新たなる人類でありんす」
蜘蛛男のはるか上……照明交換用のキャットウォークを歩くレオタードの“女”が、荘吉の問いにそう答えた。
その姿には見覚えがあった。つい先ほども矢口の傍にいた女だ。
「わっちが売りんした……!」
女が手にしたトランクを開くと、小さな箱状の調度品が十数個収まっているのが見えた。
矢口がそのガイアメモリとやらで、目の前の蜘蛛男に変貌したのだろうか?
「お前こそメリッサの何なんだ?」
蜘蛛男の問いかけに、一時思考を中断する。ポケットから携帯電話を取り出すと、ガイアメモリに良く似た小箱を、携帯電話に設けられた“スロット”に滑り込ませた。
「保護者だよ……」
荘吉の告げる“答え”に、ステージで見守るメリッサの表情がくもるが、荘吉はそれに気づかない。
「近寄る“害虫”を払いのける……!」
動きを阻害された手の中で、携帯に装填した擬似ガイアメモリ……<ギジメモリ>を押し込む。
-S-T-A-G-
「ぐッ……!」
執拗に飛び回るクワガタを払いのけながら、蜘蛛男は荘吉を吊っていた糸を切り離した。重力の虜になった荘吉の体はまっさかさまにステージに落ちる。派手な音を立てながら、ステージ上に設けられたピアノ用ステージの床材が軋み割れた。
「お、おい! あんた大丈夫か?!」
観客の避難を終わらせた警官たちが再びステージに駆け寄る。荘吉は背中をしたたかに打ち付けられたものの、それをものともせず跳ね起きて、天井を仰ぎ見た。
「しかし、なんてバケモノだ……」
同じように上を見上げる警官たち。しかし蜘蛛男も、レオタードの女も見当たらない。
はたと気づき、荘吉がステージ上に視線を戻す。さっきまで傍にいたはずのメリッサが、忽然と姿を消していた……。
-つづく-
本当はシーン2でここまで書ききる予定だったのですが、どうしても翔太郎のシーンを組み込もうとすると無理が生じたので分割。
そのためかちょっと戦闘シーンが薄味に……いや、これは単に俺の力量不足だな。要精進。
さて、次回ではシナリオ順ではなく、ちょっと飛ばしシーンを挿入。まぁどんなシーンかは映画を見られた方なら大体見当がつく、かも。