「ゾア……? 聞きなれない単語ですね」
不意に聞こえた呟きに、ジェントが怪訝に眉根を寄せる。
「私たちの星の言葉よ。意味は……」
――怒り、憎しみ。
レディの視線の先、モニターが映すザジが、その言葉通りに“憎悪”の咆哮をあげていた。
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「シューター、ストライカーに異変!」
「判っています……ザジ! ザジ? どうしました!?」
呼びかけるブラストに応えることも視線合わせることなく、ザジの振るうムルチブレードが無軌道に銀線を描き、ドラゴリーに生えたプラズマソウルを斬り砕いていく。
「む……?」
ふと、ブライがその刀身の“異変”に気づく。シルエットも著しく変わったが、変貌はそれだけにとどまらない。
「プラズマソウル……やはりあの時光ったのは……!」
ブラストの疑念が確信へと変わる。先だって砕いたプラズマムルチのプラズマソウルの破片が――転送対象にもならないレベルの微細なものであるが――ムルチブレードに食い込んでいたのだ。
「元が同族であるムルチのプラズマソウル……さしたる抵抗もなく飲み込んだのでしょう。そこへムルチ因縁の相手の出現……厄ネタここに極まれり、ですねぇ」
「因縁?」
聞き返すブライにブラストがドラゴリーを顎でしゃくって見せる。
「ドラゴリーは、ムルチの天敵なのですよ。それも何万年の昔からの……ね」
「怨徹骨髄……武器に成っても、尚」
そういうことです……っ! と締めくくりながら、ブラストはドスドスと地面を鳴らしつつ突っ込む。今まさにドラゴリーの攻撃にさらされようとしていたザジを突き飛ばし、寸でで自らも離脱した。
「周りが見えていない……! いつものザジなら躱せるレベルの攻撃でしたよ今のは……」
あれじゃあまるで怪獣です。とブラストが呟き、ブライが頷く。
「これではハンティングもままなりませんね……致し方ありませんか」
そう言って通信を繋ぐ。ややあって応答したのはギルド常駐の宇宙商人であった。
『はいはーい。何用だガネー?』
「転送装置を。今私が使用しているライフルを戻してから……汎用で構いません、ハンドガンを寄こしてください」
『ハンティング中の武器の交換はペナルティ対象だガネよー。反則金払いたいってんなら構わんガネ?』
事務的かつのんべんだらりと返すカネゴンに、ブラストがややイラつきながらも続ける。
「構わないから連絡しているのです。それと雷属性の弾丸も。緊急です。追加料金はいくらでも払いますから、ウルトラ超特急でお願いしますよ」
『雷属性ー? 見たところそのドラゴリー、メタルでも水属性でもなさそうだけどー?』
間延びした商人の声に、いい加減堪忍袋の緒が切れたのはリフレクト星人……ではなかった。
「ゴタク並べてねえでとっとと転送しやがれこのスットコドッコイ! あと1ミリ秒遅く転送してみやがれ、てめーの口のファスナーブッこ抜いてガマグチにジョブチェンジさせてやるから覚悟しろよゴラァ!!!」
普段物静かなケムール人の激昂に、ブラストも通信機の向こうのカネゴンも目を点にする。
『たっ只今ガネ~っ!!!』
次の瞬間我に返ったカネゴンがあわてて転送装置を動かし、ハンドガンとサンダーバレットを送り込んだ。ライフルが返還され空いた両手に二つを受け取ったブラストが素早く装弾し、その照準をチームメイトへと向ける。
「なるべく危なくないところを狙いますが……当たり処悪くても恨みっこなしですよ、ザジ……!」
ブラストがトリガーを引き絞る。放たれた銃弾は寸分狂わずザジの右腕……ムルチブレードを握りしめるその手の甲をしたたかに打ち、衝撃と、次いで猛烈な電撃がブライの身体を突き抜けた。
「うがあぁぁぁぁっ!?」
ムルチブレードを取り落したザジ。満身創痍となりながらも、その眼には光が戻る。地面を転がりながら、どうにか意識を浮上させ、やがてよろよろと立ちあがった。星人ハンターならではのタフさである。
「っく……僕は、いったい……?」
「目が覚めたようですね。まったく、世話の焼ける」
「ブラスト……あれ? 武器変えた?」
ぽかんと呟くザジに、肩をすくめるチームメイトであった。
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「……良かった。正気に戻ってくれたみたいね」
「怪獣武装……武器化しているとはいえやはり怪獣ですね。プラズマソウルの影響を受ける可能性もあり……と」
ザジの無事を確認し、ほっと胸をなでおろすレディに、ジェントが酷薄に呟いた。
「今回の件はイレギュラー……とも言い切れないわね。この辺は改良の余地アリってところかしら」
「おや、想い人が危険だった割には懲りない御様子で」
「ちょっ、誰が想い……いや、その……」
今度は茶化すように言って見せたジェントに、レディが耳まで真っ赤にして抗議にならない抗議をぶつけた。
「まあ、とにかく無事で良かったですよ。ハンターの損失は、プラズマギャラクシー全体の損失と言っても過言ではありませんしね」
「……そ、そうね。うん。無事で……良かった」
「とはいえ、まだハンティングは終わっていませんよ? まだ気は抜けませんね」
「わ、わかってるわよぅ……」
ジェントに釘を刺されつつ、それでも……と胸を撫でた手をきゅっと握る。
モニターの向こうで少々間の抜けた顔をさらすザジを見つめて……「良かった」とレディが安堵に唇を綻ばせた。
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――グワォォォォォォッ
「!?」
大気を震わせる大絶叫に、3人が一瞬硬直する。ザジにいいようにやられてきていたドラゴリーの怒りが遂に頂点に達し、全身のプラズマソウルを震え猛らせたのだ。
「っと、息つく暇もありませんねぇ……」
まぁ、ハンティングとは得てしてそういうもの……と呟きながら、即座に再装弾した弾丸で牽制する。手早く差し替えたフルメタル・バレットが背中から露出したソウルの根元を撃ち貫き、巨大ソウルを苦も無く砕いた。
「はっ!」
瞬間移動を果たしたブライが跳び、ドラゴリーの頭部へと肉薄する。ナースジャベリンを素早く丸め、円盤状にしたそれを拳に合わせて一息に殴り抜いた。
「“シールドブレイキン”!」
額から角のように生えていたプラズマソウルが砕け、残すは胸部の一番の大物のみ。ザジは一呼吸をおいて、転がっていたムルチブレードを再び手にした。
「ザジ?」
「大丈夫……一発喰らって、頭も冷えたし」
柄をしっかりと握り、空いた手で、刀身をいつくしむように撫でるザジ。
「お前の想い、ちょっと強烈に過ぎたけど……受け取ったよ。でも、力任せにぶん回すだけじゃ、お前たちを引き裂いてきたあいつらと同じさ……だろう?」
どくん。と、語りかけるザジに呼応するかのように、刀身のプラズマソウルが煌いた。
「ちょっとだけ、僕の力を貸すよ。だから……お前の力も、貸してくれ」
ムルチブレードが、唸りを上げる。固定されて動かない筈の頭が、ザジにはうなづいて見えた。
「オーケー……じゃ、いこうか“相棒”」
地を蹴る。体が軽い。
握りしめた柄は、手に吸い付くように。
いつだったか剣の師が言っていた。“剣は腕の延長”であると。
今やムルチブレード……否、ムルチは己が体の一部なのだ。
人刃一体となりて、ザジの鼓動が咆哮となる。
ムルチブレードの刀身が、光輝に吼える。
「受けろドラゴリーッ! これが、僕とムルチの……一撃だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
振りかざされるムルチの……否、“ゾアムルチ”の刃が、真一文字に閃く。
――ゾア・スラアァァァァァァァァァッシュッ!!!
その一閃から数秒……あるいは、数十秒経ったであろうか。
音もなく着地したザジの頭上で。
断末魔とともに砕け散ったプラズマソウルの欠片が降り注いだ。
-To be Continued-
決着!
ムルチブレードがパワーアップでゾアムルチ化……というのはわりと当初からあったネタでした。
仮にゲームで出るとすれば、武器強化でカネゴンに貢いでいけば、レベル6か7くらいでなれるんじゃないですかね?(ド適当
一応裏設定としては、使用者(ザジ)とムルチの意思が呼応することでゾアモードになるって感覚でやってます。今後出すならそーいう感じで。
プラズマソウルの作用とドラゴリーへの憎悪が切っ掛け……ってのは作劇しながらの半即興ですね。ドラゴリーを出したメインの理由はこれね。
ウルトラマンメビウスの小説版「アンデレス・ホリゾント」で、“ゾア”という言葉に意味があるということを知り(作品自体は未読ですが)即座に採用。
うまいコトいっていれば重畳でありまするががが。
さて、もうひとつサプライズネタとして用意してた、ブライのゾアモード……もとい、ブチ切れモード。
当初の展開ではアレそのまんまブラストが会話の中で切れる予定でしたが、それはそれでブラストの出番が多すぎてブライかわいそすなことになってきたので急きょバトンタッチ。
ブライの口数少なすぎるデメリットのカバーになっていれば御の字で。
次回ー。
ハンティングを終えて凱旋するウェポンブレイカーズ。出迎えるのはいつも通りのあの人ですが……
さぁ、どう戦い抜くかな……?(