炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

VERSUS_SPACE_PIRATE/シーン7


「このっ、このっ、このこのこのこのこのこのこの!!!」

 ゴーカイグリーンが銃を派手に撃ち鳴らす。

「っは、そんな豆鉄砲が俺様に効くかよ!? っだらあ!」


  -MA―――GIRANGER!-


 シーバクが一瞬で間合いを詰め、斧を振りかざす。それを受け止めたのは、同じく斧であった。マジグリーンに転じたハカセがマジスティックをアックスへと変形させたのだ。

「ぐぐ……ええっと……“マジ・マージ”」

 マジレンジャーの真骨頂、魔法の呪文を唱えると、その体躯は見る間にパワフルに筋力を増していく。どうにか膂力で拮抗したハカセが、どうだ! と言わんばかりにシーバクを睨みつけた。

「力比べか、おもしれえ……」

 シーバクがにやりと哂い、やおら背筋に力を込める。一息に圧し負けたハカセは、その足を地面に縫い付けられてしまう。

「っは! 力はあっても使い方がなっちゃいねえな……教えてやらぁ」


  ――壊し方ってのはなァ……こうやんだよ!!!


 大斧の一撃がわき腹を打つ。魔法で練り上げられた鋼の身体がそのダメージを抑えたものの、吹き飛ばされたマッスルマジグリーンの姿は掻き消え、ゴーカイグリーンへと戻ってしまう。

「うわああっ!?」

 自分の身体が放物線を描いていくのを自覚する。このままでは間もなく重力にひかれ落着するだろう。大気圏外から落ちるのよりはマシかな……とぼんやり思うハカセの身体が、不意にふわりと浮きあがった。

「え!?」

 空気のクッションが、ハカセを持ちあげ、軟着陸させる。目をぱちくりさせて、ハカセがとりまく空気の渦を見るが、無色透明の大気を見るには適わない。

「ちっ、風に救われたってか……妙な真似しやがる風だぜ」

 吐き捨てるシーバクが、苛立ちを剛刃に乗せる。振り抜いた断撃が地面を砕き、大きな岩礫をそのままの勢いでハカセに向けて放つ。

「っ!?」

 しかし、跳んでくる礫は急に失速しハカセのはるか手前で転がっていった。横薙ぎの突風が、まるでハカセを守るかのように吹いたのだ。

(風が……守ってる?)

 先のシーバクの呟きを思い出す。そして自分の危機が2度も風によって防がれたという事実。
 ただの自然現象、と断じるのは容易い。だが、それを心の隅で拒むハカセの意思があった。

(この風の力、あいつを倒すのに使えないかな……?)

 一瞬浮かんだ考えは、しかし容易くないとハカセにかぶりを振らせる。

(無茶だ! この星の気象情報が手元に無いよ……)

 風を利用するのであれば、気圧配置などを把握したうえでこの地点にどんな風がどのタイミングでどのように吹くのかを掌握する必要がある。が、それをするための材料が足らないのだ。

「どうすれば……んっ?」

 思考するハカセの耳朶に、モバイレーツの着信音が届いた。

「通信が回復? いや、この反応は……!」

 ハカセが空を見上げる。大気に阻まれ、その視界がとらえることは無かったが、その先……遙か高く、惑星ガルコンの衛星軌道上に、彼の相棒たるゴーカイマシンの機影が姿を現した。

「ゴーカイレーサー! マーベラス、直せたんだ!」

 知らず本人が聞いたら青筋立てそうなセリフを叫ぶ。モバイレーツからの通信も、ここまで近ければ妨害電波の影響を受けないようだ。ハカセが仮面の奥で破顔する。

「よおっし……ゴーカイレーサー、解析モード! この星の全てを閲覧するよ!」

 バックルから黒色のレンジャーキーを取り出しながら、ハカセは相棒に指示を伝えた。


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「何をぼーっとしてやがる……やられる覚悟が付いたのか、コラァッ!!!」

 シーバクが口を開き、高エネルギーのビームを撃ち放った。地面が爆ぜ、粉塵が舞う。
 ほどなく疾風が粉塵を吹き消していくと、その場には誰も立っていない。

「何?」
「こっちだ!」


  -ME―――――GARANGER!-


 黒いスーツ……メガブラックへと豪快チェンジしたハカセが、メガスナイパーを撃ちつつ跳び出す。

「どんなヤツにチェンジしたって変わりゃしねえよ! 豆鉄砲なんざ屁でもねえって言ったろうがぁ!」

 飛び交うビーム弾をものともせず、シーバクも光弾を吐いて応戦する。這う這うの体で躱しつつなおも銃撃を続けるハカセ……メガブラックのヘルメットで、通信衛星のエンブレムがフル回転できらめいていた。

「っは!」

 メガロッドの二股部分をシーバクの腹に叩き込む。ギリ、と筋肉がわずかに軋んだ。

「てめえも懲りねえな? もっかい力比べってか?」
「……たしかに僕は、力の使い方なんてよく知らない。壊し方なんか、知りたくもない」

 海賊らしくないよね。と自嘲気味に含み笑いを浮かべる。

「でも……お前の倒し方なら、もう解ってる!」

  ――ぃよいしょおっ!

 ロッドに力を込める。シーバクの身体が、ほんのわずかだが持ちあがり、足が地面を離れた。

「な……に?」
「メガロッドパワープレェス!」

 先端から放たれた衝撃波が、シーバクを衝く。さしもの巨体も今度は3メートルほど浮き上がった。

「3、2、1……ゼロ!」
「なめんじゃ……うおぉぉっ!?」

 反撃とばかりに斧を振り上げたその右腕が、急に持って行かれる。突風が地表を薙ぎ、その勢いにシーバクの身体は一息に上空へと舞い上がった。

「風だと? そんなんでこの俺様が……うごぉ!?」

 次いで強烈な上昇気流が、アッパーカットのようにシーバクを衝き上げる。かと思えば、今度は左右からのフックが如く烈風がシーバクを揉み、反撃の暇を与えない。

「どうだ! これでもうお前は、この星の“風”から逃げられない!」
「まさか、てめえ……!?」

 得意げに鼻を鳴らすハカセの頭上で、メガブラックのエンブレムに連動するかのように、ゴーカイレーサーが軽快にクラクションを鳴らした。
 ゴーカイレーサーが衛星軌道上を駆け回りトレースしたガルコン星全域の気象情報は、メガブラックのスーツ特性を利用してハカセに届き、それは彼の明晰なる頭脳でつぶさに計算式としてたたき出される。

 そして今。戦場を抉るように吹き抜けた暴風にシーバクを叩き込むため、ハカセが気象情報からその瞬間を割出し、その場に、その風にシーバクを圧し込んだ。

 ただ、それだけなのだ。

「こ、ン、のぉぉぉぉ……!?」

 あらゆる風に叩きのめされながら、シーバクが荒ぶる大気の中で何かを見た。
 風の雄叫びが。裂く空気の渦が形を成すのを。

「星……獣……!?」

 この星に住まう、力の具現を。

「っは!?」

 不意に、風の戒めが解ける。重力に引きずられるシーバクの身体。

 しかし、それを許さない銃口が、その照準で睨みつけた。

「お前は……この星を壊そうとした!」

 メガロッドをメガスナイパーと組み合わせ、ロッドスナイパーを構えるハカセ
 スーツの右手首に備わった強化ブレス・バトルライザーの【03】のキーを押す。エネルギーの奔流がロッドスナイパーを滾らせた。

「ロッドスナイパー・フルパワー! これが、僕と星の……怒りだ!」

  ――シュートォォォォォッ!!!

 雄叫びとともにトリガーを引く。ビームの一撃がシーバクを打ち、その勢いと吹き上がる上昇気流が、重力の楔から解き放つ。

「なにぃぃぃぃぃぃ!!?」

 星の怒りが、壊王を、大地から放逐した。


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「勝っ……たぁ……!」

 どさり、とあおむけに倒れ込む。同時に変身が解け、汗だくとなったハカセの素顔が顕わになった。

「っと、レーサーもお疲れ様。まぁ、もうちょっとひと働きしてもらうけどね」

 モバイレーツを操作する。ほどなくゴーカイレーサーがエンジンを震わせながらガルコンの地に降下した。

「さ、早く行かないとね。直してるとはいっても、多分マーベラスのことだから雑になってるだろうし」

 聞こえないことを良いことに軽口をたたきつつ、コックピットに着いたハカセが操舵輪を握る。

「目標、ギンガ星系・惑星“ガレオン”! ゴーカイレーサー……ファーストギア・イン!」

 アクセルを噴かせ、緑色の四駆が風の惑星を飛び出した。



   -つづく-



 おおよそ8か月ぶりですか……いやお待たせして申し訳ない(誰ともなしに

 展開自体は結構前から浮かんではいたんですが、組み立てるのに相当苦労しましたね~。
 一応作劇上、「すべてのレンジャーキーを入手する前」ということなのであまり種類は使えませんし。
 もっとも、なにがあって何が無いかまで明言して無いので、どうにでもなるっちゃなりますがw

 ちなみに実際に執筆するまでメガレンジャーの衛星担当をピンクと勘違いしてて「もったいないけど使うか……」と頭を抱えていたのはナイショ(
 ブラックになってくれて個人的には一応カラー系統繋がり(メガにグリーンはいないため)になったので善しと言ったところか。

 なお、ロッドパワープレスは実際にメガレン劇中で使った技ですが、ロッドスナイパーフルパワーはやってない筈……というか、バトルライザーの03キー(所持武器のパワーアップ)自体、レッドがドリルスナイパーカスタムで使用したきりですし。

 さて、次回はジョーVSカイラギ。
 今回のようなトリッキーなネタは使えそうにないですが……はてさてどんなチャンバラを魅せたものでしょうかね(