炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ラッシュSS】ガルム・ザ・ボディーガード/前編【オッサンとようじょ】


「ういーす!」

 ハンターステーションのサロン。
 ラッシュハンターズの溜まり場兼集合場所となっている、片隅のボックス席に、ふらりとマグナが現われる。

「ってアレ? ガルムのおっさん来てねえの? 珍しいな。いつもなら俺が来るなり『遅ぇぞひよっこ! いつまで待たせンだ!?』って怒鳴りつけてくるってのに」

 そう思うなら早く来ればいいのだが……と思いつつも口には出さないチームメイトのバレルである。

「遅ぇぞひよっこ! いつまで待たせンだ!?」
「うひゃあっ!?」

 不意に背後から怒鳴られ、マグナが跳びあがる。恐る恐る振り返ると、そこにはガルム……ではなく、彼と同族のガッツ星人の姿があった。

「と、怒鳴っておけばいいのかな?」
「……なァんだ、シーズの旦那か。脅かさねーでくれよ」

 すべてを見通す特殊ゴーグルが印象的な、ガッツウォッチャーことシーズだ。

「ってか、なんで旦那がこっちに?」
「ああ、ガルムさんの代理ですよ」
「代理? 今日はガルムは来ないのか?」

 バレルの問いに「ええ」と頷き、シーズがソファに腰掛ける。

「ジェントさんからの依頼で、別行動をすることになりましてね。私に代わりにハンティングの方に出てくれと頼んでいかれたのですよ」
「ジェントの旦那から? 一体何の用で?」
「なんでも……さるお方のボディーガードだとか」

 ウェイターの三面異次元人から受け取ったお茶を啜りながら、シーズが呟くように言った。



     ULTRA FRONTIA EXTRA
     ガルム・ザ・ボディーガード



「……で、ジェントよ?」
「なんでしょう?」

 ステーション内の廊下に、二人の足音だけが反響していく。この区画は普段ハンターの立ち入りを禁じられており、ガルムも入るのは初めてなのだ。

「俺の護衛対象ってのは何処にいるってんだ? さっきから行けども行けども廊下しかねえじゃねえか」
「もう少しですよ」

 そのジェントの“もう少し”も3回目の発言だ。普段自分たちが如何にステーションの一部にしかいないかを思い知らされるガルムである。

「すみませんねぇ。今回の貴方のクライアントは、プラズマギャラクシーにおいてはVIPでしてね」
「VIPねえ……だったらそれこそ、俺みたいなハンターには向かねえんじゃねえか? ジェント、お前みたいな七星剣の担い手くらいじゃねえとよ」

 そういうガルム自身も今やその“七星剣”の担い手の一人となっているのだが。ジェントが小さくため息をついた。

「そう思われるのも無理もありませんが、今回は先方からのたっての希望でしてね」
「希望ねえ……まぁ、こっちとしちゃ貰えるもん貰えりゃあ何でもいいさ」

 肩をすくめるガルムに苦笑しつつ、ジェントがどこまでも続く廊下の先への道案内を続けた。

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「おっさんがボディーガードねえ。よく引き受けたもんだぜ」
「ええ。最初は問答無用で断っていたんですが……ジェントさんが報酬を提示した途端に席を立ちましてねえ」

 その場に居合わせていたシーズ曰く、並のプラズマ怪獣のハンティング報酬の数倍の額だったという。

「……ああ、その光景が容易に想像できるな」
「まったくな」

 かつての自分たちラッシュハンターズ結成の経緯を思い出しながら、バレルとマグナが苦笑した。

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 果たして長い廊下の先にあった重厚な扉をくぐり、ガルムはクライアントと対面していた。

「……何の冗談だ、ジェント?」
「冗談ならもう少し面白いことをしますが?」

 しれっと言ってのけるジェントに、ガルムは青筋をこめかみに浮かべながら視線を下げる。
 大きなソファにちょこんと座った、異星の少女……というよりは幼女……の姿がそこにはあった。

「じゃあ何か? 俺はこのちんちくりんのボディーガードに雇われたってか?」
「ちんちくりんとはしつれーね。これでもりっぱな“れでぃー”ですのよ、このわたくしは!」

 ガルムの物言いにカチンときたのか、幼女はソファから飛び降りてガルムを睨みつけた。ジェントが彼女の前に跪き、一言二言とりなすと、機嫌をなおしてソファへとよじ登り先ほどと同じように腰かけた。

「……私の同族が、宇宙人会議常任理事を務めているのはご存知ですね?」
「まァな」
「彼女は……そのお孫さんでして」
「ああ?」

 言われてみればメフィラス星人らしいシルエットだと気づく。ジェントにとっても遠縁にあたるらしい彼女は、プラズマ怪獣のハンティングに強く興味を持ち、間近でそれを見たいと言い出したのだという。どこの宇宙にあっても孫の頼みは断れないらしい。そしてどこの宇宙にあっても、上役の指示には従わざるを得ないのだ。

「存外お前さんも大変だな……」

 珍しくジェントに同情的になるガルムである。

「ま、しょうがねえ。報酬も貰う以上、こっちもプロとして行動するまでだ。精々ボディーガードやらせてもらうぜ、嬢ちゃん」
「“嬢ちゃん”じゃないわ! わたくしには<メイリン>というキュートでエレガントななまえがありますのよ」
「……了解」

 ガルムも改めて自己紹介をする。どうやら先のベロクロンやPキラーザウルスとの一戦などを映像で見ていたらしく、ずいぶんとラッシュハンターズやガルムのことにも詳しく知っていた。

「貴方のファンだそうですよ」

 笑いながらこっそりとささやくジェントに、小さく「うるせぇ」とガルムが返した。

「んじゃ、早速行くか? そろそろシーズとひよっこどもが惑星に出張る頃合だ」
「それはいいけれど……そんなかっこうで?」

 そう言ってメイリンがじろりとガルムを頭の先から足の先まで見やる。

「わたしのよこをあるくというならむさくるしいかっこうしないでいただきたいわ。……ジェント!」

 いつの間にかメイリンの後ろに控えていたジェントが、ガルムに包みを一つ差し出した。

「……あん?」
「着替えてらっしゃい」
「はあ!?」

 包みを解くと、自分にはとんと無縁な上等な布で仕立てられた衣装であった。思わずジェントを睨みつけるガルム。

「……これを着ることも、貴方への報酬内と思っていただいて構いませんよ」
「ちっ」

 そう言われては反論もできない。ガルムはしぶしぶ包みをひったくって奥の部屋へと引っ込んだ。

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「しかし、おっさんのボディーガードの相手って誰なんだろうな?」
「さぁ……私もさるお方、としか聞いていませんからねぇ」

 ハンティング準備のため、武器を見繕いながらのマグナたちの話題は、いまだガルムのボディーガードの一件であった。

「ガルムの腕を見込んでのことだ。相当な重鎮だろうな。大方、常任理事あたりか?」

 バレルが中々に確信を突くが、一歩及んでいないことにはさすがに気付かない。

「うひー。お偉いさん相手か。おっさんも災難だねえ……」

 災難ではあるが、それがまったくの逆ベクトルであることは、マグナにとっても想像の範疇外だろう。

「さて、お喋りはここまでにしておきましょうか。ハンティングの結果が悪ければ、今度こそガルムさんにどやされてしまいますからね」
「っと、違ぇねえ」

 マグナがサーベルを、バレルがチャクラムを、そしてシーズがプラズマライフルを手にし、転送ポッドのスイッチを入れた。

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「……着替えたぜ」

 窮屈そうにつぶやきながら、ガルムが扉を開く。
 地球なる星でいえば、“モーニング”とでも名付けられたであろうフォーマルなスーツに身を包んだガルムが、所在無げに佇んでいた。

「あら♪」

 鈴の転がるような声で、メイリンが笑う。

「うんうん。けっこうサマになってるじゃない」
「そいつぁどーも」

 つかつかと歩み寄り、もう一度頭の先から足の先まで一通り見やる。にこにこ顔のメイリンが、ふと一点を見てふくれっ面に変わった。

「ちょっと、ネクタイどうしましたの?」
「ネクタイ? ……あぁ、この首のか」

 黒いリボン状のヒモを首からかけるだけにとどめていたガルムが、その端をひょいと持ち上げてみせる。

「どうしてソレつけてないんですの? そういうの、“がりょーてんせいをかく”と言うのですわよ!?」
「ドコの星の言葉だよそりゃあ……?」

 とにかく! ちゃんと着こなしなさーい! とメイリンがガルムの首元に手を伸ばす。が、絶望的なまでの身長差がそれを許さない。
 なんとなく、屈んだ方がいいのだろうかとガルムが考えた次の瞬間、別の部屋に引っ込んだメイベルが、えっちらおっちらと椅子を抱えてやってきた。
 その上に乗って、背伸びする。まだわずかに届かないと気づいて、再び椅子を持ってきて積み上げる。

 ふらふらと不安定な足場の上で精いっぱいに背伸びしながら、メイリンが器用にガルムの首に蝶ネクタイを締めてみせる。

「……ほぉ」
「ふふん。なかなかのものでしょ……うわあ!?」

 得意げに胸を張ったとたんにバランスを崩す。落っこちかけたメイリンの身体を、ガルムがとっさに拾い上げた。

「ファーストキスの相手が床じゃあカッコつかねえぜ、嬢ちゃんよ?」
メイリン!」
「……へえへえ」

  ――やれやれ。

 報酬のためとはいえ、面倒事を引き受けちまったものだ……と、ガルムが心中で独りごちた。


   -つづく-


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 ゴーカイ書いてる途中で煮詰まったので気分転換。
 ラッシュSSですが、今回は少々趣向を変えておりまし。


 その一連の中にあったとあるシチュエーションネタから着想を得て、何を血迷ったか(?)主演:ガルムでやらせていただいております。

 や、一応ね。オリジナルで書こうとも思ってはいたんですよ。
 ただ、それだと完全に一発ネタで終わってしまってSSにならなくてorz

 自分のオリジナリティの無さに毎度毎度絶望しながらファントム産み出してます(マテ

 さて。
 今回のオリジナル枠である幼女。メフィラス星人であると予測できた方は果たしてどれだけいらっしゃったのか。
 名称に関しては、某フォロワーさんが女性のメフィラス星人ハンターの名称を考えているときに僕がひねり出した案です。結果的に僕の案が使われることは無かったのですが、今回日の目を見ることになりましてヨカッタヨカッタ。

 さてさて。
 小さなメフィラス星人の令嬢をボディーガードする羽目になったガルム。一方、抜けたガルムに代わりシーズと組んでハンティングに挑むマグナたちラッシュハンターズ。

 両者に待ち受けるトラブルというかテリブルというか、はてさて……?

 後半に続く!(キートン