炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【掌編小説】あなたに、ハッピーバースデイ

「むー…」


 花屋のど真ん中に突っ立って、オレこと、赤津光流(あかつ・ひかる)は困り果てていた。

 明後日に誕生日を控えた友人へのプレゼントの購入について、である。

 いや、正確には友人兼「想い人」と称したほうが正しいか。
 つまり、対象は女性であり、困惑の原因とはそこなのだ。

 自慢じゃないし、そもそも自慢するような事じゃないが、生まれてこのかた特定の女性に対して贈り物なんぞしたことのないオレだ。まず何を贈るべきかで無駄に悩む。
 まぁ、自身の葛藤や友人らの(茶化しを多分に含んだ)助言を得て、花を贈るというところにまではこぎつけた。
 もっとも、具体的に何の花を贈るのかはオレの意思に委ねられた訳だが。


「ぬー…」


 そりゃあ、プレゼントするのはオレなのだから、オレが決めて然るべきだろう。他の誰かが選んだら、それは他の誰かが選んだプレゼントであって、オレが渡すプレゼントにはならない。


「んー…」

「何かお探しですか?」


 店内を仏頂面で歩き回っていたところに背後から声を掛けられた。振り替えると花屋の屋号が書かれたエプロンを身に着けた女性がにこにこ笑顔で立っていた。


「あー、いやその…」

「?」

「プレゼント…探してるんですよ。もうじき、友達が誕生日でしてね」


 カラカラに乾いた喉からどうにか言葉をふり絞る。

 だめだね。数年振りの片思いはこうもオレをヘタレにするものなのだろうか。

 その女性…店員さんは、そんなオレの様子を見て、どーいう相手に贈るのかを悟ったようで、にこやかな表情をさらに緩ませた。


「その人、誕生日はいつですか?」

「二十日です。十二月二十日」

「じゃあカトレアね…」


 花の名前を呟きながら店員さんは辺りを見回す。


「無いわね~。…ごめんね、入荷にも時間かかるからカトレアは諦めてもらっていいかな?」


 いや、まだそれにするとはひとっことも言ってないんですが。


「そうねぇ…あ、じゃコレなんかどうかな?」


 そう言って彼女が差し出したのは小さなピンク色の花が踊るように咲いた鉢植えだった。


シクラメンって言うの。これからの季節の贈り物にはぴったりよ♪」


 笑顔で御墨付きをもらう。手渡されたシクラメンの花に、オレは想い人の顔をダブらせる。


 ―――うん、似合ってる。


「じゃあ、これ…お願いします」

「はい、かしこまりましたっ☆」


 元気よく返事を返して、店員さんはオレの手から鉢を受け取り、あっという間にバックヤードに引っ込んだ。 まもなく桜色の包装紙に包まれた鉢植えがオレの腕の中に収まる。


「はい、おまたせ。
…じゃ、頑張ってねー♪」


…何をですか。



   * * *



「誕生日おめでとう。これ、プレゼント」

「うわぁ…花なんてもらったの初めて! 大事にするね、ありがとう☆」


 思いのほか、というより、想像以上に喜んでもらえた。
 ここまで喜んでもらえると、少々恥ずかしいながらも光栄至極だね。


「ホントに嬉しいよ。ヘタにぬいぐるみとかもらうよりずっといいしね♪」






 …ナンデスト?



 実は、クリスマスに向けてテディベアを用意していたんだが……



 どうしよう、これ…?






















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あとがき:

この物語はフィクションです。
…2割ほど(何


いや、ほら。
事実は小説より奇なりって言うじゃんw(ぉぃ


なお、主人公に相当する赤津光流クンですが、本名をもじったものです。
性格には、名字は本名の名前のアナグラム、名前は本名の音読み&変換。
本名をご存知の方はなるほどと思っていただける…ハズ。


http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
 ↑web拍手です。感想とか「こんなの読みたい!」的なリクエストも受け付けます。
  …書けるかどうかはさておきですが(ぉ