「……まったく、なんで俺まで」
映画館のシートに腰かけ、丈瑠が憮然と呟いた。
「まーまーまーまー。これも一つの稽古だと思いなって丈ちゃん」
ポップコーンを抱えた源太が隣でからからと笑う。
「稽古ってお前…」
「いやー、まさか丈ちゃんが受付であんなしどろもどろになるとは思わなかったもんなァ。いっつも流之介たちの前じゃビシっと振舞ってるのに」
先ほどのやりとりを指摘され、丈瑠が絶句し、源太を睨みつける。
「ま、社会勉強って思いねえ。それに、仲間のこと知っとくのも、殿様の務めだろ?」
自分たちの座っている場所から少し離れた場所に座る千明とことはを顎でしゃくり、源太がそう言うと、丈瑠も「うむ…」と釈然としないながらも頷いた。
「つーわけで、ほれ。正体が一発でバレねえように、変装変装!」
源太が趣味の悪いサングラスを丈瑠にむりやりかけさせた。
「いやー、まさか丈ちゃんが受付であんなしどろもどろになるとは思わなかったもんなァ。いっつも流之介たちの前じゃビシっと振舞ってるのに」
先ほどのやりとりを指摘され、丈瑠が絶句し、源太を睨みつける。
「ま、社会勉強って思いねえ。それに、仲間のこと知っとくのも、殿様の務めだろ?」
自分たちの座っている場所から少し離れた場所に座る千明とことはを顎でしゃくり、源太がそう言うと、丈瑠も「うむ…」と釈然としないながらも頷いた。
「つーわけで、ほれ。正体が一発でバレねえように、変装変装!」
源太が趣味の悪いサングラスを丈瑠にむりやりかけさせた。
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「この映画、ずっと前から見たかったんよー」
ことはが心から嬉しそうに笑う。
「茉子ちゃんが用事で見られへんのは残念やけど、そのぶんうちらで楽しもな?」
「お、おう…」
いつもより可愛さ3割り増し…いや前から可愛いのだが…のことはの笑顔を至近距離で目の当たりにしてしまい、千明は頬を染めながらスクリーンに視線を動かした。
「…お、始まるぜ」
ことはが心から嬉しそうに笑う。
「茉子ちゃんが用事で見られへんのは残念やけど、そのぶんうちらで楽しもな?」
「お、おう…」
いつもより可愛さ3割り増し…いや前から可愛いのだが…のことはの笑顔を至近距離で目の当たりにしてしまい、千明は頬を染めながらスクリーンに視線を動かした。
「…お、始まるぜ」
*
映画の内容は、予告編どおりひたすらにほのぼのとしていた。まぁありがちな子犬と飼い主家族の交流を描いたものだ。
(……うーん)
興味がそがれる千明。この手の映画は嫌いじゃないが、あんまり興味を惹かれるものでもなかったからだ。と、その視線はいつしかスクリーンからことはへと移る。
「……」
食い入るようにスクリーンを見る彼女は、すっかり映画の世界に入り込んでいるようだった。
普段のことはとはまた違う横顔に、知らず千明の胸が高鳴った。
普段のことはとはまた違う横顔に、知らず千明の胸が高鳴った。
*
やがてありがちな映画は、やはりありがちな展開を迎える。ひょんなことがきっかけで、一家と子犬が離れ離れになってしまうのだ。一番子犬を可愛がっていた小さな女の子が泣きじゃくりながら、子犬の名を呼び、歩き回る。だが、子供の足で歩ける距離は限られていて―――
「…わんちゃん」
ふと、ことはが呟く。と同時に、千明の左手に暖かな感触。
(…?)
それに気付いた千明が視線を自分の手に向け、絶句する。
ことはが、ぎゅっと千明の手を握り締めていた。
ことはが、ぎゅっと千明の手を握り締めていた。
(お、おいおいおいおい…!)
スクリーン上で繰り広げられている物語に、完全にのめりこんでいるのだろう。ことはは気付いていないようであった。
柔らかなことはの手から伝わる体温が、千明の心を波立たせる。
そのまま、千明は映画が終わるまでドギマギしっぱなしであった。
柔らかなことはの手から伝わる体温が、千明の心を波立たせる。
そのまま、千明は映画が終わるまでドギマギしっぱなしであった。
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「…お、映画終わったぜ丈ちゃん。千明たちが行っちまう。俺たちも追跡だ」
「…………」
「…丈ちゃん?」
シートから微動だにしない丈瑠に、源太がその顔を覗きこむ。
「…!?」
丈瑠が、顔を伏せたまま肩を震わせていた。
「…ま、まさか丈ちゃん……」
「な、泣いてない!」
どう聞いてもそれとわかる涙声で、丈瑠が反論した。
「…………」
「…丈ちゃん?」
シートから微動だにしない丈瑠に、源太がその顔を覗きこむ。
「…!?」
丈瑠が、顔を伏せたまま肩を震わせていた。
「…ま、まさか丈ちゃん……」
「な、泣いてない!」
どう聞いてもそれとわかる涙声で、丈瑠が反論した。
* * *
「映画良かったわー。あのわんちゃんも女の子と再会できたし」
「あ、ああ。そうだな…」
「あ、ああ。そうだな…」
流れで手を繋いだまま、映画館を出た千明とことは。
ふと、ちょっと小腹が空いた千明。たまたま近くに停めてあった移動クレープ屋の屋台を見つけた。
「わ、これおいし」
ずんだと抹茶白玉のクレープを頬張り、ことはが笑顔の花を咲かせる。
「これも結構いけるぜ」
紫いものロールを選んだ千明も笑みを浮かべる。
「…ん、どした?」
「千明、口にクリームついとる」
「んあ?」
あ、そっちやないよ。逆、逆。
そう言いながら、ことはの指が千明の口元をそっと拭った。
そのまま、躊躇なく指先に付いたクリームを舐める。
「な…!?」
「んー、ホンマや。これもおいしー。…ん? どしたん千明?」
「い、いや! なんでも!?」
顔を真っ赤にした千明が、そっぽを向いた。
ずんだと抹茶白玉のクレープを頬張り、ことはが笑顔の花を咲かせる。
「これも結構いけるぜ」
紫いものロールを選んだ千明も笑みを浮かべる。
「…ん、どした?」
「千明、口にクリームついとる」
「んあ?」
あ、そっちやないよ。逆、逆。
そう言いながら、ことはの指が千明の口元をそっと拭った。
そのまま、躊躇なく指先に付いたクリームを舐める。
「な…!?」
「んー、ホンマや。これもおいしー。…ん? どしたん千明?」
「い、いや! なんでも!?」
顔を真っ赤にした千明が、そっぽを向いた。
「あはは、なんか初々しいね。初デートってとこかな?」
と、背後からほんわかとした声が聞こえた。振り返ると、クレープ屋台の青年がにこにこと楽しそうな笑顔を振りまいていた。
「や、違…デートとか…」
慌てて反論しようとする千明。
「んー…そうかも」
と、ことはがさらっと肯定した。
「な!?」
「違うん?」
目を見開く千明に、首をかしげることは。この表情を出されてしまうと、何も反論できなくなってしまう。
と、背後からほんわかとした声が聞こえた。振り返ると、クレープ屋台の青年がにこにこと楽しそうな笑顔を振りまいていた。
「や、違…デートとか…」
慌てて反論しようとする千明。
「んー…そうかも」
と、ことはがさらっと肯定した。
「な!?」
「違うん?」
目を見開く千明に、首をかしげることは。この表情を出されてしまうと、何も反論できなくなってしまう。
「……えへへ、ドッキドキだね」
クレープ屋台の青年が、微笑ましげにその光景を眺めていた。
-つづく-
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前後編の予定が中編入れるとか。3シーンぶち抜きかよw
結構使いたい要素があって、それをなるべく入れようとした結果がご覧の有様だよ!(何
ま、それでも案の一部削ってるんですけどね(ぇ
その案はまたいずれ別で使うつもりです。
ま、それでも案の一部削ってるんですけどね(ぇ
その案はまたいずれ別で使うつもりです。
デートであることをむしろ肯定してしまったことは嬢。
まぁ、否定するのも彼女らしくないので、あえてってヤツです。
つか、彼女はあんまり考えずに肯定してる気もしますが(ぉ
まぁ、否定するのも彼女らしくないので、あえてってヤツです。
つか、彼女はあんまり考えずに肯定してる気もしますが(ぉ
さて、次でちゃんと完結予定…なんだけど…どうなるだろ(ぇ