狼の面の、真紅の瞳がらんらんと光る。
「だらっしゃあああ!」
金剛棍が唸りを上げ、ホラーへと突き進む。
『……いつもながら酒入っただけでこの変わりようって怖いわよねぇ…』
「耳元でうるせー!」
「耳元でうるせー!」
呟いたカルマよりもはるかに大きな声で律が怒鳴った。
その叫びが、棍の先端を僅かにブレさせ、ホラーの身体を貫かんとしたそれはそれてしまう。
「なんとぉっ!」
が、ぐっと棍を握り締め、力を込めなおすと、ソウルメタルの塊がホラーの肉を削ぐように抉り取った。
ホラーが苦痛に叫ぶ。
ホラーが苦痛に叫ぶ。
「カルマ、戦闘中に余計な茶々いれんじゃねえ!一撃でしとめるつもりがミスっちまったじゃねえか!」
『よくゆーわよ。自分の声で武器震わせたくせに。大体、会話くらいで気が散るなんて未熟者の証拠ね』
「ンだとコラ」
ホラーそっちのけで口げんかを始める両者。
無論、ホラーとてその隙を逃すわけが無い。逆襲とばかりに集めた木の葉を鋭い爪に代え、振りかざした。
『よくゆーわよ。自分の声で武器震わせたくせに。大体、会話くらいで気が散るなんて未熟者の証拠ね』
「ンだとコラ」
ホラーそっちのけで口げんかを始める両者。
無論、ホラーとてその隙を逃すわけが無い。逆襲とばかりに集めた木の葉を鋭い爪に代え、振りかざした。
―――ギャシャァァァァ!
『「うるせえ(うるさい)ッ!!!」』
ブゥン、と金剛棍が弧を描く。刹那、ホラーは周囲の大木ごと文字通りなぎ倒された。
「っとと」
振り回した金剛棍の勢いに負け、殴牙が僅かにたたらを踏む。
『酔いが少し深くなったみたいね。とっととケリつけちゃいなさい』
「言われるまでもねえ!」
「言われるまでもねえ!」
棍でとんとんと肩を叩く。おもむろにライターを取り出し、魔導火を灯す。紺色の炎を揺らめかせるライターを放り投げると、金剛棍を振るい、強かに打ちつけた。
刹那、炎が金剛棍を覆い、ソウルメタルが赤く焼ける。
「よっこらせ」
地面に転がしていた酒瓶から、僅かに残っていた赤酒を口に含むと、それを一気に噴出し、魔導火が燃える金剛棍に勢いよく振りかけた。と、魔導火の燃焼はさらに活性化し、周囲の闇をかっと照らし上げる。
地面に転がしていた酒瓶から、僅かに残っていた赤酒を口に含むと、それを一気に噴出し、魔導火が燃える金剛棍に勢いよく振りかけた。と、魔導火の燃焼はさらに活性化し、周囲の闇をかっと照らし上げる。
「おりゃあ!」
地面を蹴り、先ほどの攻撃で倒れていたホラーを、振り上げた一撃で大きく打ち上げた。
「はッ!」
それを追うように跳び、林の木々を足がかりに高く、高く跳躍する。
やがて、吹き飛ばされたホラーよりも高く跳んだ殴牙は、たいまつの如く燃える金剛棍の先を足元のホラーに向けた。
「でぇぇぇ…りゃッ!!!」
勢いと体重を一気に乗せ、ホラーを衝く。10m以上上空にあった二つの影が、刹那の内に地上に降りた。
…というより、落ちた。と表現するのが正しいだろう。
―――ズン……!
地面がゆれ、ややあって、地面が大きく陥没した。
ホラーは、断末魔を上げる暇すら与えられなかった。
「…ふぅ、いっちょあがり…っと」
軽く棍を振り、魔導火をかき消すと同時に、鎧を返還する。赤ら顔になった律のくちから、しゃっくりが漏れた。
『終わったわねぇ。んじゃ、とっとと帰りましょ』
「おう」
「おう」
ついさっきまで口げんかをしていたことなど忘れているかのように軽快に言葉を交わし、二人にして一人の魔戒騎士は、帰路についた。
* * *
「ぬぉぉぉぉぉ……」
翌日である。
「か、母さん……水…」
自室から這うようにして居間にたどり着いた律が、汐に水を求める。汐は、はいはいと笑いながら頷くと、コップに水を汲んで手渡した。
自室から這うようにして居間にたどり着いた律が、汐に水を求める。汐は、はいはいと笑いながら頷くと、コップに水を汲んで手渡した。
『…赤酒を呑む事で強くなるのはいいけど、その後に二日酔いになっちゃうってのはいただけないわよねぇ…』
「み、耳元で喋るな……頭に響く……」
頭を抑えてのた打ち回る律。汐はそんな彼を無理矢理に起き上がらせ、食卓に座らせると、一杯の味噌汁を振舞った。
「二日酔いにはこれがいちばん!」
「…おー」
味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。
「母さんのシジミの味噌汁はうまいんだよなァ…」
一口啜る。五臓六腑に染み渡る感覚が身体を通り過ぎ、だるい体が随分と楽になった。
「…おー」
味噌汁の香りが鼻腔をくすぐる。
「母さんのシジミの味噌汁はうまいんだよなァ…」
一口啜る。五臓六腑に染み渡る感覚が身体を通り過ぎ、だるい体が随分と楽になった。
「いつもながら、難儀な体質よねぇ」
汐が微苦笑する。
「まったくだ」
シジミの貝殻を皿によけながら、律が憮然と呟く。
「ま、元気でいてくれるならそれで善しってね」
そっと、汐の手が律の頭を撫でる。
「今日も、無事に帰ってきてくれて本当に良かった……」
汐が微苦笑する。
「まったくだ」
シジミの貝殻を皿によけながら、律が憮然と呟く。
「ま、元気でいてくれるならそれで善しってね」
そっと、汐の手が律の頭を撫でる。
「今日も、無事に帰ってきてくれて本当に良かった……」
慈愛を湛えたその瞳は、紛れも無く母親のそれで。
「……」
言葉につまり、律は静かに味噌汁を啜る。
穏やかな、朝であった。
-了-
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金剛騎士篇、これにて一応の完結です。
斬が父一人子一人というのに対し、こちらは母一人子一人。
また違う「家族」の在り方が…示せたかなァ?(ぇ
まぁ、作者は二日酔いになるほど呑んだことが無いのでよく分かりませんが(ぇ
お話変わって、今回の殴牙の戦闘スタイルについての補足。
金剛棍に魔導火を纏わせる、シンプル且つ強力な戦法。これに赤酒を噴きつけることによって、魔導火が活性化し、さらに効果がUP。
ちなみに、烈火炎装で鎧に纏うのとほぼ同等量の魔導火が金剛棍に付与されている、という設定。純粋な破壊力だけなら黄金騎士にも匹敵するとかしないとか(ぇ
ちなみに、烈火炎装で鎧に纏うのとほぼ同等量の魔導火が金剛棍に付与されている、という設定。純粋な破壊力だけなら黄金騎士にも匹敵するとかしないとか(ぇ