「あ、そう言えば千明?」
「あん?」
「あん?」
角笛の山からの帰り道、ことはが千明に問いかける。
「ヒロくん、家出やってなんですぐわかったん?」
その言葉に、一同がそう言えばと千明に顔を向ける。彼が家出してきたと、真っ先に見抜いたのはほかならぬ千明だ。
「…そ、そりゃまあ。俺くらいになるとそんくらいの洞察力がだなァ…」
「大方、昔同じようなことをしたんだろう。だから似た境遇のヒロにピンときたんだ。違うか?」
「大方、昔同じようなことをしたんだろう。だから似た境遇のヒロにピンときたんだ。違うか?」
見栄を張ろうとした矢先に流ノ介に図星を差されてしまう。
「う、うっせー! お前らだって家出の一つや二つしたことあんだろーがよ」
ふるふると首を横に振る一同。
「……うっそだー」
「あ、そういや…」
「おー、源ちゃんもか! やっぱ男なら一度は通る道だ……」
「あ、そういや…」
「おー、源ちゃんもか! やっぱ男なら一度は通る道だ……」
いや、と千明を制して一言。
「家族全員で家を出たな、ウチは」
「ってソレ夜逃げじゃねーか!」
「ってソレ夜逃げじゃねーか!」
秋の空に千明のツッコミがこだました。
「…隣、ええ?」
夜の志葉邸。夕食後の一休みを縁側で過ごしていた千明は、ふとかけられた声に振り返った。
「ああ、ことはか。かまわねえよ」
手の中で転がしていたエンブレムを庭に放り投げる。ことはもそれに習うと、宙を舞う二つのエンブレムがそれぞれ折神の姿となってじゃれあい始めた。
「帰り道の話の続きなんやけどな」
「ん?」
「千明の、家出の話。どんな感じやったんかなって」
「ん?」
「千明の、家出の話。どんな感じやったんかなって」
訝しげな視線を向ける千明に、ことはがはっとなる。
「あ、いや。別に深い意味とかないんよ。ただ、ちょっと…興味持ったって言うか」
「んー…あんま面白くない話だと思うぜ?」
「ええよ。うち、千明の昔のこと、ちょっと知りたいわ」
「んー…あんま面白くない話だと思うぜ?」
「ええよ。うち、千明の昔のこと、ちょっと知りたいわ」
屈託なく笑うことはに、頬の辺りが少しむずがゆくなる。
(他意は…ないんだよな。まぁことはだし)
「しょーがねぇな……」
・
・
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・
あれは確か、小学校中学年くらいの秋だっけか……そんときに、親父と大喧嘩して、そのまま家を飛び出してきちまったんだな。
しばらくはダチの家とか転々としてさ、何日か帰らなかったんだけど、それでも全然探しに来ねえ親父にだんだん腹立ってきてさ。ぜってー帰るもんか!って思ってたんだ。
んで、いい加減ダチの家にもいづらくなって、ぶらぶら歩いてるところに、迷子の女の子に出会ってさ―――
“どうしたんだ?”
“ぐす……おさいふ、おとしてもて……”
“ぐす……おさいふ、おとしてもて……”
まぁ声かけちまったわけだし、そのままほっとくこともできなくて、だからって俺もどうこうできるわけじゃないからさ、二人して町中歩き回って。
そのうち…
“う……おかーさん、おとーさん……おねえちゃあん……ぐず”
女の子泣き出しちゃってさ。最初は必死に慰めようとしてたんだけど、そのうち、なんか俺も泣けてきちゃってさ。
そう、そのまま街のど真ん中で泣き声の大合唱。
どんくらいか忘れたけど、いつの間にか外は真っ暗になってて。それで二人とも余計に不安になったんだろうな。で、そんときに
“―――!”
女の子を呼ぶ声がして、そしたらあっさり泣き止んでさ。“おねえちゃん!”って顔ぐしゃぐしゃのまま笑ってたっけ。
そのおねえちゃんによしよしって抱っこされる女の子見てたら、なんか俺も寂しくなってさ―――
・
・
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・
・
「で、俺も家に帰って。それでおしまい」
「…そやったんや」
「…そやったんや」
ふぅ、と息をついて、ことはが呟く。
「まぁ、帰ったら帰ったで親父とまたひと悶着あったんだけど、それはまぁおいといてだ」
「ふふ」
「ふふ」
恥ずかしい話をした、と照れ隠しに頭をがりがりとかく千明。と、その視線がことはの顔をじっと見つめる。
「……なに? どしたん?」
「あ、いや……」
「あ、いや……」
(そういや、ことはって似てるよな……)
遠い日の記憶、ぼんやりと浮かび上がる面影。
(あのときの、女の子に……)
「な、なに千明? じっとウチのこと見て…」
「あ、や、悪い…」
「あ、や、悪い…」
照れくさそうに視線をそらす。こっそりと横目で見ると、同じく視線をそらしたことはが、耳まで真っ赤になっていた。
(まさか……な)
心の中で呟いて、まあいいやと空を仰ぐ。
中秋の名月はとうに過ぎてしまったが、秋の満月はそれでも美しく、秋の夜空に柔らかな光をもたらしていた。
-了-
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執筆!奏上!
さて、今回は第三十二幕ならびに三十三幕の後日談。
マイミク・小笠原氏のとあるメッセがきっかけです♪
まぁ、私も感づいてはいた部分ですけどねw
フツーなら緑ソロで書いてしまうところを、あえて黄色も絡ませる。
仕様ですが何か?
ちなみに、あくまで二次「創作」ですので、本気にしないように(するか
あ、そういや緑×黄のストック、まだひとつあったような……