月すらも隠れた闇夜。
人気の無い廃工場の只中で、走る影が―――七つ。
追われるものが一つ、追うものが六つである。
「―――はっ!」
追う六つの影のうち、先頭を走っていた者が、おもむろに空に筆を走らせた。
その筆の軌跡は、ひとつの<文字>を生むにいたる。それは、“縛”であった。
気合とともにそれを逃げる影へと叩き込むと、影は<文字>の示すままに“縛られ”、動きを止めた。
「もう逃がさんぞ、外道衆!」
<文字>を書いた、赤い仮面と装束の男が叫ぶ。遅れて5つの影―――色違いの似たような装束と仮面を纏った―――が集まった。
彼らこそ、スキマより現れる“魔”を討つ現代のサムライ。シンケンジャーである。
「―――!」
ギギッ、と、外道衆と呼ばれた影…醜悪な異形の怪人が妙な鳴き声を発した。
「…妙ね?」
「なにがよ、ねえさん?」
「なにがよ、ねえさん?」
シンケンピンク…白石茉子が首をかしげ、その呟きにシンケングリーンこと谷千明が問いかける。
「さっきからあのアヤカシ、一言も言葉を発していないの」
「…そういえばそうやね?」
傍らにいたシンケンイエロー・花織ことはが小さくうなづく。
「…そういえばそうやね?」
傍らにいたシンケンイエロー・花織ことはが小さくうなづく。
アヤカシと呼ばれる、外道衆の尖兵は、しっかりとした意思を持ち、程度の違いこそあれ人語を解することが可能だ。だが、先だって対峙している怪物には、それが見られない。
「確かにそれはヘンだよなァ。それに……」
シンケンゴールドこと梅盛源太が、手にした提灯…ダイゴヨウで周囲を照らす。昼の如き明るさで照らされるのは、異臭を放つ醜悪な怪物だ。
「姿かたちも、アヤカシとはちょいとばかりちがうような気もするぜ…」
「お前達、無駄口を叩くな!」
「お前達、無駄口を叩くな!」
「似ているかどうかはどうでもいい。あれが人々に害をなすのなら、それを討つのが俺たちの使命だ」
彼らの<殿>であるシンケンレッドこと、志葉丈瑠はそう呟くと、腰に携えた太刀…シンケンマルを静かに抜く。
「はッ!」
銀色の軌跡が閃き、その刃が異形を切り裂く―――
が、その切っ先が届く刹那、
「ギギーッ!」
異形が搾り出すように叫ぶと、その身を戒めていた“力”を跳ね除け、刃から逃れた。
「何!?」
「殿の<モジカラ>を、打ち破っただとぉ!?」
「殿の<モジカラ>を、打ち破っただとぉ!?」
流ノ介が素っ頓狂な声を上げる。異形が、にやりと笑ったように見えた。
そう思うと、腕を振り上げ、指にそなわった鋭い爪で丈瑠を襲う。
「危ねぇ、タケちゃん!」
異形と丈瑠との間に源太が割り込み、腰の<サカナマル>を一閃する。彼独特の逆手一文字による抜き打ちが、一瞬にして異形の爪を斬り砕いた。
返す刀で反撃に転ずる源太であったが、怪物はその攻撃を躱し、後ろ向きに飛びのき、再び逃走する。
「くっそ、さっきから逃げてばっかりいやがって!」
「とにかく、早よ追いかけな!」
「とにかく、早よ追いかけな!」
ことはの声に皆がうなづき、再び追いかける一同。
「ウォーターアロー!」
水の力を秘めた光の矢が乱射され、いっせいに異形を狙う。が、身軽に動くそれは軽々とかわしていってしまう。
水の力を秘めた光の矢が乱射され、いっせいに異形を狙う。が、身軽に動くそれは軽々とかわしていってしまう。
「俺に任せろ! ウッドスピアァァァァ!!!」
跳び上がった千明が、モジカラを込めて自らの得物の柄を伸ばし、槍の穂先を異形めがけつきたてる。が、やはりそれも難なく回避された。
「くっ…」
丈瑠が歯噛みする。
「くっそ!ちょこまかと逃げやがって…!」
「せめてヤツの足でも止められりゃな……ン?」
「せめてヤツの足でも止められりゃな……ン?」
と、源太の視線が、怪物の進行方向に立ちはだかる人影を捉えた。仲間たちも、そして前を走る異形もそれに気づき、はたと足を止める。
「…ギッ!」
背中しか見えない異形は、なにかにおびえているかのようだった。
(…よく分からんが、動きを止めた今がチャンスか)
丈瑠がベルトのバックルから、赤い円盤…<獅子>の秘伝ディスクを取り出し、シンケンマルの鍔にセットする。
「シンケンマル・火炎の……!」
必殺の一撃を見舞おうとした刹那、丈瑠は己が目を疑った。
異形の体を、光の軌跡が縦一文字に走ったかと思うと、その体は真っ二つに分かたれ―――やがて消えた。
「な、なにごとだ!?」
絶句する流ノ介たち。さっきまで異形が立っていたその向こうに、人影があるのが気配で分かった。
「……何者だ?」
丈瑠の問いに答えるかのように、厚い雲が切れ、その合間からこぼれる月光が、それを照らし出す。
そこに佇むのは、黄金の鎧を身に纏った……<騎士>であった。
――― 一筆奏上、天下御免!
侍戦隊シンケンジャー 異伝・守護者-まもりしもの-
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さぁ、またやってしまった。
炎部紅蓮は、新作を。
…まぁ、後先考えずに書いていることに変わりはないのですが(ぉ
侍と騎士。その邂逅が意味するものとは……
次回を待て!