空を飛ぶシュ・ヴェルト。
その巨体がグラウンド上空にさしかかるころ、その腕を振るい、抱えていたボーンゴーレムを投げ落とす。
その巨体がグラウンド上空にさしかかるころ、その腕を振るい、抱えていたボーンゴーレムを投げ落とす。
「……よし、この広さなら」
降り立ったグラウンドは、高校のものとしては広すぎるほどであった。まひる曰く、運動部に力を入れている学校だかららしい。
「でも、あんまり無茶はしないこと。いくら広いって言っても、すぐ近くに校舎もあるんだからね」
「……善処はする」
「……善処はする」
確約のできない難題に憮然と呟きつつ、通之介がよろよろと立ち上がるボーンゴーレムをにらみつけた。
「もう一度だ。2487ページと、2488ページ!」
「え、えっと…」
「え、えっと…」
先ほども唱えた2487ページの詠唱に続き、次のページも読み進む。
「<ドラッツェン=フリューゲル・レツス>! <リンクス>!」
今度は両手に柄が近づく。引き抜き、シュ・ヴェルトが二刀を携えるかたちとなった。
「はあっ!」
シュ・ヴェルトの足が地をける。よく整地されたグラウンドが、その重みに耐えられず大きくへこんだ。
右、左―――と、巨大な刃が連続してボーンゴーレムを襲う。斜め下からの掬いあげるような斬撃がその身を浮かせると同時に、真上からの一撃が脳天を叩き割る。
「よおっし、一気に決めるッ! 3640ページだッ!」
「これね!」
「これね!」
歌うように、詠唱の声がコックピット内を包む。
「飛竜<ワイバーン>の翼よ、逆巻く嵐を呼べ!」
二振りの剣を構えると、刀身にまとう空気の流れが変わった。
最初は穏やかに……やがて荒々しく。
シュ・ヴェルトを中心にして、まさしくワイバーンの咆哮の如き、それは竜巻であった。
「<トーナード・ガヴリュール>!!!」
通之介が吼え、シュ・ヴェルトが突撃する。その身をまとう突風は鎧となり、刃となり、ボーンゴーレムめがけて突き進む。
「おりゃああああああああ!!!」
雄々しき<剣神>と、骸骨の化け物が、交差する。
―――刹那。
無数の風の刃と、ドラッツェン=フリューゲルの刀身がボーンゴーレムを斬り裂き、骨の集合体は、バラバラになるどころか、一握の粉塵と化し、この世界から消滅した。
「……終わった…の?」
「……ああ」
ふぅ、とため息をつく。いつの間にか高度を上げていた朝日が、シュ・ヴェルトの巨体を明るく照らしていた。
「…サンキュ」
「ん?」
「ん?」
振り返ると、穏やかな笑みを浮かべる通之介の顔。
「何もわかんないのに、無理矢理乗っけてさ。それでも、こーやって手伝ってくれて」
「…そりゃ、そーしないといけなかったわけだし?」
「…そりゃ、そーしないといけなかったわけだし?」
憮然としながらも、微苦笑してまひるが答える。
「まぁ、あんたがいなかったら。今頃街とか大変なことになってたろうし。それに関しては…こっちこそ、ありがと」
「……へへっ」
照れくさそうに笑って、通之介が鼻の頭を擦る。
「…あ」
手の甲で鼻の頭を擦る独特のスタイルが、まひるの記憶を呼び起こす。
「…通之介だ」
「…あんだよ、信じてなかったのか?」
「そりゃ、10年以上も離れてたんだもん。それでいきなり出てきて通之介だーなんて言われても……さ」
「…あんだよ、信じてなかったのか?」
「そりゃ、10年以上も離れてたんだもん。それでいきなり出てきて通之介だーなんて言われても……さ」
まぁ、それもそっかと、通之介が苦笑した。
「でも、こんなヘンなかたちにせよ、もう一度会えるとは思わなかったな」
「俺もだよ」
「俺もだよ」
顔を見合わせて、笑う。
と、周囲がなにやら騒がしくなってきた。
「…げ」
気づくと、高校の敷地周辺に黒山の人だかり。遠くからはパトカーのサイレンも響いてきた。
「…げ」
気づくと、高校の敷地周辺に黒山の人だかり。遠くからはパトカーのサイレンも響いてきた。
「ど、どうすんの?」
「どーするもこーするも……逃げる!」
「どーするもこーするも……逃げる!」
言うが早いか、通之介がコックピット中央に突き立てていた剣を引き抜く。見る間にコックピットの存在が希薄になり、次の瞬間には二人はグラウンドに降り立っていた。
「よし、とりあえずこのままお前んちいくぞ!」
「って、勝手に決めないでよ!」
まひるの抗議の声も聞こえないのか、先を走る通之介の表情は、どこか楽しげでもあり、それを見ているうちに、まひるは小さく噴出した。
「って、勝手に決めないでよ!」
まひるの抗議の声も聞こえないのか、先を走る通之介の表情は、どこか楽しげでもあり、それを見ているうちに、まひるは小さく噴出した。
「……あーもう、なんか言いたいこととか聞きたいこととかいっぱいあるんだけどさ」
「うん?」
「うん?」
口ごもるまひる。やがて、ひとりうなづいて、こう言った。
「……おかえり、通之介」
「…ああ。ただいま」
「…ああ。ただいま」
日曜の朝を告げる陽の光は、たった今起きた非日常を、なかったことにするかのように、穏やかであった。
-Chapter:1 了-
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さて、プロローグの執筆から何年たったのやらwなシュ・ヴェルトもどうにか1話終了。
第2話では、彼が今までいた異世界についてちょこちょこと語ったり語らなかったりどっちやねんと。
開始時期は未定ですが、まあお楽しみに。