―――あの世。
我々が住まう“この世”とはまったく異なる世界であり、本来は死を通じてしか往くことはできない。
また、“隙間”は、あの世に通ずる門とされ、事実“外道衆”と呼ばれるアヤカシは隙間を通り、この世に向けて侵攻してくるのだ。
そんな、あの世の大地を潤す赤黒き<三途の川>に浮かぶ、巨大な和船…名を六門船。
その船首にどっかりと腰掛け、三途の川に向け釣り糸をたらす男がひとり。
イカの頭をした老人…<骨のシタリ>に声をかけられ、釣り人…最近六門船に出入りするようになった<筋殻アクマロ>が振り返って軽く会釈をする。
「こんなところで釣り糸たらしても何も釣れやしないと思うけどねェ」
「いえいえ。これがなかなかどうして……」
「いえいえ。これがなかなかどうして……」
西方訛りのような妙なアクセントで呟きながら、アクマロはニヤニヤと笑い、糸を引き上げる。
「ま、アンタが何もしないってんなら、アタシもいろいろと動きやすいさね」
「そのことですが。既に我の作戦は進行中ゆえ……悪しからず」
「そのことですが。既に我の作戦は進行中ゆえ……悪しからず」
人を食ったような笑い声が癇に障ったのか、シタリは鼻を鳴らして船首を去る。
「ま、シンケンジャーをやってくれるならやってくれるでいいんだけどネ……」
どうもヤツは好きになれないヨ…などとぶつぶつ呟くシタリの背中を尻目に、再びアクマロは三途の川に視線を向ける。
薄皮太夫の三味線の音が聞こえなくなり、ただただ波の音と、木材のきしむ音だけがこだまする六門船は、いつになく静まり返っていた。
「ドウコクさんは…大方お酒の飲みすぎでお休みになられとるんでしょうなぁ……」
思い出したように呟く。
「まぁ、此度の作戦。ドウコクさんが知らぬままのほうが好都合……」
ホホホ…と小さく含み笑いをして、手にした釣竿をひょいひょいと上下させる。
「あなたさんには、せいぜいがんばってもらいますよって」
たらされた釣り糸の真下で、アクマロの言葉に答えるかのように、気泡が数個、大きく浮き上がり、はじけた。
-つづく-
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まだ十蔵は行方不明扱いで、アクマロにも太夫ともども雇われてはいない状況……ということにしてあります。
そんなわけで夏の劇場版も通過済みです。
なので…あれが…出る…!
なので…あれが…出る…!
かも?