地球(ほし)の本棚。
フィリップという名の少年が脳内に持つそれは、地球上全ての事柄が記されている、いわば一種のアカシックレコードである。
「……うーん……」
壁も天井もない、かろうじて床という概念が存在するだけの真っ白な空間…地球の本棚で、いくつかの本棚の間をうろうろしながら、フィリップは大いに悩み、首を傾げる。
「全然絞り込めない……まだキーワードが足りないのか…?」
はぁ、と一つため息をついて、<地球の本棚>とのリンクを切る。意識が体に戻り、覚醒すると同時に、フィリップは探偵事務所のオフィスへと続く扉を開けた。
「ねぇ、翔太郎! おきてよ翔太郎!」
「……んー? 今日は定休日だ……」
「探偵事務所に定休日なんかあるわけ無いでしょ? てゆーか起きてってば!」
「……んー? 今日は定休日だ……」
「探偵事務所に定休日なんかあるわけ無いでしょ? てゆーか起きてってば!」
椅子にもたれて居眠りをする翔太郎を揺さぶり起こす。アイマスク代わりに顔にかぶせていた中折れ帽を持ち上げ、翔太郎は寝起きの不機嫌な表情を見せた。
「あんだよフィリップ…夕べは明け方まで猫探しするハメになっちまったんだから寝かせてくれよ……」
大きなあくびを一つして、「んじゃおやすみ」と呟いて再び椅子に深く腰掛ける。
「ちょっと寝ないでって!」
力任せにゆすると、バランスが崩れ翔太郎が椅子から転げ落ちた。
「……っ! ~~~っ!」
尾てい骨を強かに打ちつけたらしく、尻を抱えて悶絶する翔太郎。
「てめ、フィリップ!」
わめく翔太郎に、フィリップはすっと、人差し指を向ける。
「…なんだよ?」
訝しげに指先をにらむ翔太郎に、フィリップがおもむろに口を開いた。
「ボクと君の関係って、何だと思う?」
「……あ?」
何言ってんだこいつ、といわんばかりの表情で、翔太郎が眉をひそめる。
「1年前、君と鳴海宗吉が、ボクを助けてくれた。そういった意味では、君は……正確には君と鳴海宗吉だけど……ボクの“命の恩人”になるわけだ」
「…まぁ、そうなるか? つか、それを言ったらお前だってそうだぜ?」
「…まぁ、そうなるか? つか、それを言ったらお前だってそうだぜ?」
言い返され、疑問符を浮かべるフィリップに、翔太郎はポケットから<JOKER>のガイアメモリを取り出す。
「あの時、お前がこれを俺に託してくれたから、今ここに俺がいる。お前は、“悪魔との相乗り”つってたけどよ。お前と、コレあっての今の俺だ。だから、お前は俺にとっても“命の恩人”ってヤツだ」
…って、なに恥ずかしいこと言わせてんだよ。と呟き、ぷいとそっぽを向く。
「……ふむ」
低く唸って、フィリップが腕組みをする。
「…俺との関係ねぇ……」
その様子に、翔太郎がやれやれと呟き、机に向かって英字タイプライターのキーを叩く。
「まずは……<相棒>だろ?」
-buddy-
「それから……<パートナー>」
-partner-
「…それ意味的にはあんまり変わらないよ?」
「うっせ。…それから、いつだったかお前が言ってたな。<家族>だって」
「うっせ。…それから、いつだったかお前が言ってたな。<家族>だって」
-family-
「代わりだけどね」
「抜かせ」
「抜かせ」
と、翔太郎の指が止まる。
「んー…あとなんかあるかな……俺とお前の関係を示すモノ……」
考え込む翔太郎。
考え込む翔太郎。
「ただいまー」
と、無遠慮に扉が開き、買い物袋を抱えた亜樹子が飛び込んできた。
「いやー、タコと天カスが安くてさー。今日はタコヤキやるわよタコヤキ! …って、なにやってんの?」
「うん、ボクと翔太郎の<関係>ってどういうものなのかって」
「関係?」
「関係?」
英字タイプライターを覗き込む亜樹子。紙に刻まれた単語をふむふむと読むと、ああ! と大きな声を上げた。
「うおっ! 耳元で声上げるn……どわっ」
抗議の声を上げる翔太郎を突き飛ばし、亜樹子がタイプライターにむかう。
「あんたたち肝心なの忘れてるじゃない!」
そう言いながら、亜樹子の指がキーを叩いていく。
最初の文字は…
「f…」
「r…」
「i……」
交互に英字を呟く翔太郎とフィリップ。
最後に、亜樹子がぱぱっとキーを叩ききると、6文字のアルファベットで構成された単語が浮かび上がった。
-friend-
「……<友達>?」
「そーよ。………ん? 違うの?」
それが当然であるといわんばかりの亜樹子に、フィリップと翔太郎が思わず顔を見合わせる。
「……どー思う? フィリップ」
「……うーん、それと断定するには、まだまだいろいろ足りない…かな?」
「キーワードがか? 流石に<地球の本棚>でも友情の全てを閲覧ってな…」
「……うーん、それと断定するには、まだまだいろいろ足りない…かな?」
「キーワードがか? 流石に<地球の本棚>でも友情の全てを閲覧ってな…」
…だから。
静かに呟くフィリップの声に、翔太郎が言いかけた言葉を飲み込む。
「翔太郎とこうして一緒にいることで、キーワードを見つけていこうと思う。そうすれば、翔太郎との<関係>が何なのか、それを示す<本>がきっと見つかる……そんな気がする」
「……そっか」
そのフィリップの目は、貪欲に知識を求めるときの目に似て…いや、それ以上に輝いて見えた。
「ま、がんばんな」
「何、人事みたいに言ってるのさ。これはボクと翔太郎のことについてなんだよ? 翔太郎にも協力してもらわないと?」
「ああ?」
「何、人事みたいに言ってるのさ。これはボクと翔太郎のことについてなんだよ? 翔太郎にも協力してもらわないと?」
「ああ?」
ほらほら、とせかすフィリップ。
「いや、協力ったってな……。おい亜樹子! 笑ってないでなんとか言ってやれ!」
笑顔のフィリップ、困惑する翔太郎。
今日も風都は平和なようだ。
―――コン、コン。
「…!」
と、その平穏が唐突に破られる。ノックの音がドアを僅かに揺らし、新たな事件を呼ぶ風になる。
「お出ましか。…フィリップ!」
「うんっ」
「うんっ」
現れる<依頼人>。翔太郎はズレていた中折れ帽を被りなおし、それを出迎える。
「……検索を、始めよう。キーワードは―――」
-fin-
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思いついたその場のノリで書いた。こまけえこたあきにすんな!
ところであの事務所は便利ガジェットが多すぎる。いや、メモリガジェットシリーズのことじゃなくて、英文タイプライターとか、中折れ帽とか。創作のアクセントに使える小道具的な意味で。
機会があればあのセットの中に入ってみたいものですw
…そんな機会、一生訪れないでしょうがw
さて、今回のタイトル「Rとは何か?」ですが。
今作における「R」は何の頭文字を指しているでしょう?
ちなみに、正解してもリクエスト権を得られるとかそーいうのはありませんのでご了承をば(ぇ