炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

遊星からのZ/風無き都(まち)・シーン3


 天井扇による緩やかな空気の流れしか存在しない探偵事務所。戦いのさなかに突然現れた闖入者を招き入れた翔太郎は、その口からもたらされた話を聞いて、大きくため息をついた。

「ふむ……<捜索者>に<ゾーン>……そんでもってあのバケモノ……<ゼイラム>ねぇ。にわかには信じがたい話だなァ」
「だが事実だ。目の前で起こってることは否定できないだろう?」

 フィリップの指摘に、「そりゃそーだがな」と返す翔太郎。先だって愛用の七ツ道具のひとつ<スタッグフォン>を上空に飛ばし、<ゾーン>により形成されたバリアーの存在を確認したばかりだ。

 <イリア>と名乗った赤マントの女が語るところによれば、彼女はマイス星という星からやって来た、所謂バウンティハンターで、地球に飛来した<ゼイラム>を捕獲、あるいは破壊するためにやって来た……とのことだ。

「私としては、捕獲より破壊を優先したいところね。あんなもの、残しておいていいものじゃないわ」

 コーヒーを啜りながら……初めて飲んだらしく、その苦さに顔を顰めていた……イリアが呟く。過去に2度、地球でゼイラムと戦った経験のある彼女の言葉は、事情を知らない翔太郎たちにも重く聞こえた。

「だが、2度も地球であんなバケモノとやりあったって割には、ニュースでそんなこと聞いたことがないな」
「そうだね……<地球の本棚>の中にも<ゼイラム>に関する、あるいは類似する事例は確認できなかったよ」

 外から<デンデンセンサー>を介してバリアーの展開状況を眺めていたフィリップが同調し、イリアに視線を向ける。

「それはそうよ。この<ゾーン>の中で起きた事柄は外部からは一切関知できないようになっているわ。一定以下の文明レベルの星では、私たちはその活動の痕跡すら残してはいけないの」
「暗に“地球は田舎です”って言われてるみたいでなんとも言えねえな……」

 イリアに砂糖を勧めながら、複雑な表情をする翔太郎。

「でも、外界の一切をシャットアウトするはずの<ゾーン>に、僕たちは取り残されてる。これはどういうわけだい、イリア?」

 フィリップのもっともな問いに、イリアはこめかみを押さえながら答える。

「原因は不明だけれど、ちょうど私がゾーンに移動する際にバグが発生したらしくてね。あなたたちが迷い込んでしまったのが原因か、バグが原因であなたたちが巻き込まれたのかまではわからないけれど……」
「おいおい、地球よか文明レベルの高い星の人間とは思えねー発言だなァ」
「仕方ないでしょう。私は一介の追跡者に過ぎないもの。その辺は“相棒”のほうが詳しいけれど、バグの所為か連絡が取れなくなっているのよ」

 そのバグの関係か、ゼイラム捕獲用のトラップも、戦闘用の兵装も転送されないまま、携行していた拳銃のみでゾーンに閉じ込められてしまった……と、イリアがため息混じりにぼやいた。

「本当はこんなことを頼める立場じゃないのはわかってる。でも……」
「……アレを、ゼイラムを倒してくれってコトかい?」

 フィリップに言葉を先回りされ、イリアが目を丸くする。

「事情はともあれ、俺たちも関わっちまったからな。それに、ゾーンのモデルになってる街は俺たちの“庭”みたいなもんだ。ヤツがどこに隠れてようが、見つけてぶっ飛ばすまでだ」

 その依頼、受けたぜ。
 そう言って、翔太郎が不敵に笑って見せた。

「……協力、感謝するわ。もちろん、私も行くわ。ゼイラムとの戦闘経験は私のほうが豊富だしね」
「おう、頼む」
「それで、可能なら何か武器を貸してもらえないかしら? 持っていた銃はさっきの戦いで全弾使い切ってしまったのよ」

 ああ、それなら……とフィリップがガレージに引っ込み、奥から何かを持ってきた。

「これは、<アサルトトンファー>。“仲間”の為に開発したんだけど、生身でも使いこなせるはずだよ。使い方は移動しながら説明しよう」
「助かるわ」

 一組のトンファーと、付随する<ギジメモリ>……ガイアメモリの模造品だ……を手渡す。イリアは軽く握って使い心地を確かめる。二、三度振るって、得心したらしく、満足げにうなづいた。

「よしっ、じゃあ早いとこ探しに行こうぜ。風の来ねえ風都ってのはどうもゾッとしねえ。とっとと終わらせちまおう」

 言うが早いか、翔太郎はさっさと探偵事務所を飛び出して行く。それを追うようにイリアが続き、事務所にはひとりフィリップが残される。

(あれ……?)

 ふと、フィリップの脳裏にとある“矛盾”がよぎる。

(あの<アサルトトンファー>……まだ設計段階で、実物は造ってなかったような……?)

 思考に耽るフィリップ。その意識が深遠に向かおうとする中を、外からの相棒の声がさえぎった。

「おいフィリップ! 置いてくぞー!?」
「あ……あぁ。すぐ行くよ」

 気のせいか……と思い直し、フィリップも事務所を出る。無人の事務所にドアが閉まる音がやけに大きく響いた。


     -つづく-




 今回登場したオリジナル武器<アサルトトンファー>は、もともと低下した攻撃力を補うためのアクセルトライアル用に考案された武装です。たぶん今回アクセルが使うシーンは無いと思いますが(爆

 ラストでフィリップが感じた違和感に関しては、おいおい語られることになるでしょうっつか語らないと伏線張った意味が無いじゃない!(ぉぃ