炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

遊星からのZ/風無き都(まち)・シーン2


 互いの拳が頬を掠め合い、鈍い音が地面と大気を擦る。飛び道具を失ったものの、怪人の動きは変わらず、敵と定めたであろう<ダブル>を執拗に攻撃する。

「……こいつ、強ぇ」
 幾合もの打ち合いでその実力を察し、その言葉に焦燥が混じる。だがその身体に怯みや竦みは見られない。
 これ以上は退けない。その想いが彼を、<仮面ライダー>を突き動かすのだ。

「なろぅっ!」
 飛び込んできた諸手打ちを真っ向から受け止め、動きを封じる。
(――チャンス!)
 翔太郎が勝機と見た次の刹那、怪人の方が不意に持ち上がり、ギラリと<銃口>を光らせた。
『まずい、離れ給え翔太郎ッ!』
「うお!?」
 フィリップの声と、銃声が響いたのはほぼ同時だった。コンパウンド・アイに強烈な衝撃を受け、ダブルの身体が大きくのけぞる。装甲のクッションで脳を揺らされることこそ辛うじて逃れたが、視界を奪われたうちに怪人は取り落としていたブラスターを拾い上げ、再びその銃口をダブルに向けていた。

『翔太郎、<トリガー>を! 接近戦は不利だ!』
「痛っ……そうだな…っ」

 相棒の助言に、メモリを交換すべくベルトから黒い<ジョーカーメモリ>を抜く。と、小さな突風がメモリを手にした左手を弾く。ブラスターの銃弾がジョーカーメモリを打ち上げ、黒色の小箱が弧を描き怪人の手元に落ちた。

「……」

 怪人が無感動にメモリを摘み上げる。傘に備わった顔状のレリーフがゆがみ、大きく口を開けたかと思うと、おもむろにメモリに噛み付いた。

「なっ……!?」
『ガイアメモリを喰らうつもりか!?』

 傘から蛇のような触手のような<身体>を伸ばし、口腔を裂き、妖艶な女性の<顔>がガイアメモリを飲み込もうとしていく。

「やべっ……」

 ダブルの生命線が失われる。翔太郎があせり怪人に駆け寄ろうとして――


   ガァン!!


 鈍い銃声に足を止める。銃弾がガイアメモリに当たり、異形の口から離れる。銃声の方へ視線を向けると、赤いマントに身を包んだ女性がたたずんでいた。

『……あれは、誰だ?』
「っそれは後だフィリップ! 今はこいつを!」

 転がったジョーカーメモリを回収し、開いたスロットに青い<トリガーメモリ>を装填し、セットする。


   -Cyclone Trigger-


 ガイアメモリが唸ると同時に、ダブルの黒い左半身が青く染まる。新たに装備されたエネルギー銃<トリガーマグナム>を構え、風の力を内包した銃弾を連射する。広範囲にばら撒かれる弾幕で、怪人に反撃の暇を与えない。

「傘の顔を狙いなさい! <ゼイラム>はそれが弱点よ!!」
「!?」

 赤マントの女の声が飛ぶ。気になる単語が飛び込んできたがひとまずそれを無視し、助言に従い<顔>を狙う。

『翔太郎!』
「ああ、わかってる!」

 現在のダブルの身体を構成している<サイクロントリガー>は、銃撃を広範囲に放つことができる反面、精密射撃には向いていない。弾道を変化させる<ルナメモリ>を使うか、照準機能を付与させる<バットショット>を用いる必要があるのだ。

 敵の動きを弾幕で封じつつ、次の一手を狙う。

(メモリチェンジは隙ができちまう。ここは……)

 バットショットを起動し、トリガーマグナムにセットする。弾幕の範囲が狭まり、威力が集中していくのが手ごたえでわかる。

「っ避けろ!」
 凛とした声が走る。弾幕が薄くなったことで、ゼイラムなる怪人が反撃に転じようとしていた。
 
「くっ!」

 弾かれたように赤マントの女が飛び出し、ダブルを突き飛ばす。手にした短銃の引き金を引き絞り、今まさに撃たんとするゼイラムのブラスターを狙う。鈍い音が数発分炸裂し、ブラスターの銃身が砕けた。

『今だ、翔太郎っ!』
 フィリップの声にうなづき、ベルトのトリガーメモリをトリガーマグナムに装填する。

   -Trigger Maximum=drive-

「『トリガー・バットシューティング!!!』」

 二つの声が重なり、トリガーマグナムの銃口から圧縮された風エネルギーの弾丸が放たれる。しかし咄嗟だったためか、その照準は僅かに逸れ、傘のふちを抉るだけに留まった。

「ちっ、外したか……ん?」

 ダブルの必殺技による衝撃によろめきながら、ゼイラムが少しずつ後ずさる。<眼>の位置に当たる部分が仄暗く輝き、ダブルと赤マントの女を一瞥すると、肩のカノン砲を掃射した。

「うおっ!」
「くっ!?」

 銃撃による砂煙で視界を奪われた二人が再び目を開くと、そこにはもう、誰もいなかった。

「……一体なんだってんだ、あいつは……」

 呟きながらダブルが<変身>を解く。仮面の奥の素顔を見て、赤マントの女は瞳に少し驚きの色を混ぜた。

「そういう顔の“同業者”かと思ったら……あなた、まさか地球人?」
「ん?」

 女の問いの意図が読めずクエスチョンマークを浮かべる翔太郎のもとにフィリップが駆け寄る。

「知り合いかい、翔太郎?」
「まさか……」

 フィリップと翔太郎の顔を一瞥し、女は大げさにため息をつく。

「……まさか“また”、巻き込むことになるなんてね……」

 その言葉の真意を知らない二人は、顔を見合わせて首を傾げるほか無かった。


   -つづく-

--------------------------------------------

 「ゼイラム」側の時間軸としては「2」以後。今回のゼイラムは「1」登場のと似てる別固体ってことでひとつ。

 赤マントの女=イリアの言う「また」ってことは、原典をごらんの方にはお分かりになると思いますが、詳細は次回劇中にて説明させてくだしあ。

 さて、
 前回でちょっと言及した「ダブルの変身シーンの文章化」に続けて、ガイアウィスパーの取り扱い方について。

 原典「仮面ライダーW」においては、変身時およびハーフチェンジの際には、使用するガイアメモリの起動スイッチを押してガイアメモリを発声させてからの挿入になるんですが、つまり同じガイアウィスパーが2度鳴るってことなんですよね。
 僕の電子音声の表現でそれをそのまま文章化すると長くなるので、ハーフチェンジなどに関しては、起動時のガイアウィスパー発声は基本的に省略してるのであしからず。

 まあ、演出の都合で2度鳴らしたほうがかっこいいかも、って時はその限りじゃないですが。