炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第2話/シーン4

「―――イオリっ!?」

 耳に残るいとこの叫び声にたたき起こされるように、コウイチの意識が浮上する。

「…そうか、落ちて…気を失っていたのか…」

 腕時計を見ると、落ちてからだいたい1時間ほどが経過しているようであった。

「みんな…大丈夫かな?」
 見上げると、大小さまざまなガレキが積み重なり折り重なりしているその最奥で、僅かに光が点のように見えた。

「…ずいぶん落っこちちまったみたいだけど…我ながらよく無事だったな」

 多少の打ち身や擦り傷は見受けられるが、動けなくなるほどの重傷ではない。
 悪運の強さに内心笑いつつ、イオリや仲間達にまずは無事を伝えるべくポケットの通信機に手を伸ばす。

「こちらコウイ……ありゃ」
 声をかけようとしたとたん、愕然とする。
 落ちた衝撃が原因だろう、液晶画面は無残にも砕け散り、ズレたケースの間からは基盤がはみ出していた。

「技術班に強度上げとくように言っとかないとな……」
 呟きつつポケットに壊れた通信機をねじ込む。

「とはいえ…どうしたもんか……」

 とりあえず周囲を見渡す。大雨などの水害時、浸水対策用に設けられた巨大な地下空間だったらしいその場所は、怪獣にあらされてはいたものの、ある程度の広さを保っていた。

「誰かっ! 誰かいるか!!?」

 自分と同じように地上の崩落に巻き込まれた人間がいるかもしれないと考えたコウイチが、声を張り上げる。しかし、その声がガレキに反響するだけで、なにも返っては来ない。
 通信機が生きていれば、周囲の生体反応をスキャンする機能を扱えたのだが…ないものをねだっても仕方がないと改め、コウイチは周囲を探る。

「……おおーい、誰かいるかー! 生きてたら返事してくれー!」

 大声で呼びかけながら、歩き回る。と、背後で物音がした。

「ん?」

 目を凝らすと、ガレキの間から腕が見える。

「だ、大丈夫か!?」

 周囲のガレキを排除すると、荒く息を吐く壮年の男性が、ガレキに半身を埋もれさせていた。
「ちょ、ちょっと待ってて……」

 ガレキが大きく崩れないように細心の注意を払いながらゆっくりと引っ張り出す。

「うっ…!」
「もうちょっと! もうちょっとですから…」
 痛みに表情をゆがめる男を励ましながら、10分ほどかけて救出に成功する。

「よし……。大丈夫ですか、どこか痛いところは?」
 たずねるコウイチに、男が右腕をかすかに動かす。と、その腕はありえない方向に曲がっていた。
「骨折してる……ええと…」
 ずいぶん前に叩き込んだ救命マニュアルを思い出しながら、周囲を見回す。散らばっていたガレキの中から、ある程度まっすぐな鉄筋を探し出し、添え木の代わりにして腕を固定する。
「早いトコ病院に連れて行かないと……でも、脱出も助けも呼べない現状じゃ……」

 仮に脱出できたとしても、まだ外には怪獣がいる。それは、時折聞こえる吼え声や振動で察することができた。

「くそっ……どうすれば……」

 ふと男を見る。手当てをしたことで多少気が緩んだのか、意識を失ったようであった。とりあえずその体を抱え、崩落の影響が少なそうな場所まで移動させる。

「すみません、しばらくここで……」

 男を横たわらせ、コウイチは再び上を見上げる。まだ対怪獣武装が充実していない現状、ファイターフォースやシルエットフォースでの戦いはまだ不利であるといえた。

「こんなとき…あの巨人が…<ウルトラマン>がいてくれたら……」

 歯噛みするコウイチ。と、その両腕がぱあっと輝きだした。

「な、なんだ?」

 性格には、右手中指のリングと、左手首のブレスレットが光っている。その光に、コウイチは見覚えがあった。

「……まさか…」

 否。

 振ってわいた疑念は、一瞬にして確信に変わる。

「……よし」

 なぜか“憶えている”コウイチが、腕を振るう。リングの中央の石に、ブレスレットの石をあてがい、叩きつけるように擦る。バチバチと閃光が弾け、コウイチの体に力がみなぎった。

「……いくぞっ」


 光をたたえたリングをつけた右拳をぐっと握り、上に向けて高々と掲げ―――叫ぶ。



   スパァ―――――――――――――――クッ!!!!!



 リングの光がさらに輝きを増し、コウイチの雄叫びが……その身を変えた。


   -つづく-



---------------------------------

 変身アイテムは左腕のブレスレットに右手のリング。それぞれ、<イグナイトブレス>に、<スパークリング>。二つあわせて<イグナイトスパーク>などという地味に安直極まりない名前。

 ちなみに、<スパークイグナイター>というのが初期案だったのですが、キャンプ用品などに同名の商品があったので泣く泣く断念…orz

 変身ポーズのイメージソースはこれ↓



Hブロッサム…というかももこは俺の嫁。異論は認めない。

 コンパクトにリングを当ててスラッシュ(?)するアクションがベースとなっとります。コンパクトの変わりにブレスレットってことで。