炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【オリジナル】Messenger from Sunday

 うららかな日曜の午後。

 ちょっと遠出して、自然公園になぞ来てみる。

 少しくたびれたワンボックスカーから降りて、大きく伸びをすると、体中から澄んだ空気が入り込んでくるような感覚。久しく忘れていた気持ちよさ。


「おとーさん、いこう!」

 4つになる息子が、力いっぱい僕の手を引いて駆け出した。



   -Messenger from Sunday-



「……それにしても突然ね。遊びに行こうだなんて。いつも日曜日はお仕事だったんじゃなくて?」

 息子と遊び倒し、少々息が上がった僕に、缶ジュースを手渡しながら妻が問いかける。

「まぁ……たまには家族サービスというものがしたくて…ね」
「あらあら、お父さんみたいなこと言ってる」
「お父さんですから」

 これでも、がつくだろうけど。

 芝生の上にレジャーシートをしき、その上にどっかりと座る。ううむ、運動不足ではないと思うのだが…なんか疲れたような。

 でも、つらいわけではない。むしろ心地いい疲れというやつだ。

「おとーさーん!」
「おー!」

 ぶんぶんと手を振る息子に手を上げて応える。公園のメインになっている広場は、すり鉢状の地形になっており、芝生が生い茂る坂を、ダンボールやプラスチックのソリなんかで滑って遊ぶのが定番だ。息子もご多分にもれず、車の中に転がっていたダンボールを引っ張り出して滑って遊んでいる。

「……平和だな」

 空を見上げる。やあ、とんびが飛んでら。

「平和なのは、それを守ってくれる人がいるから…よ?」
「そうだね」

 妻の言葉に、ゆっくりとうなづく。

 そう……平和を享受できるのは、彼らが…いるから……



「うわあああっ!!?」


 が、突如響き渡る悲鳴が、その平和を引き裂く。

「何だ!?」

 視線を地面のほうに戻す。視界が凍りつくのを感じた。

 全身くろずくめの男達がわらわらと群がり、威嚇するように動き回る。
 その中央では、蛇のような頭の仮面を被った<怪人>…としか形容のできない姿の人影が立っていた。

「くそ……こんなところにまで<奴ら>が……!?」

 そう……奴ら。


 毎週日曜日、どこかに前触れもなく現れ、破壊活動を行い、忽然と去っていく謎の集団。

 その目的、規模、首謀者――― 一切が不明。

 マスコミは面白おかしく書きたて、“日曜日よりの使者メッセンジャー・フロム・サンデイ>”などと名づけ、奴らもそれに倣いそう名乗った。


「ああっ、あなた!」

 妻が指差す先

「しまった!」

 怪人に目を奪われ、息子への注意をおろそかにしていた。息子が黒づくめの男の一人に捕まり、羽交い絞めにされていた。

「お、おとーさーん!」
「さわぐな!」

 涙声の息子に、蛇頭の怪人が大声で怒鳴る。

「さぁ……どうするね? <ヒーロー>の諸君…?」

 怪人が低く嗤う。気づくと、周囲に数人の<ヒーロー>が、怪人を包囲するように現れていた。

 <ヒーロー>とは、頻出する<メッセンジャー・フロム・サンデイ>に対抗するべく現れた<正義の味方>を自称する人々だ。

 あるいは個人で、あるいは警察組織から。
 あるいはソロで、あるいはチームで。

 <ヒーロー>は、力、技、叡智で。謎の破壊者たちに敢然と立ち向かうのだ。

「あ、<ウルフメン>!」

 と、息子の声が明るさを取り戻す。そんな、<ヒーロー>の中の一チーム。オオカミをモチーフにした五色のヒーローチーム<ウルフメン>は、息子がもっとも気に入っているヒーローだ。

「…あれ? イエローがいない…?」

 疑問交じりの息子の呟き。たしかに良く見ると、そこにいるのはレッド、ブルー、グリーン、ホワイトの4人であり、最後の一人…息子が大ファンである<イエローウルフ>がいなかった。

「ふむん? 確かにひとり足りねえな? どーした、イエローはカレーの食いすぎで腹痛か? ゲハハハア!」

 ゲラゲラ嗤う怪人を、息子がキッとにらみつける。

「そ、そんなことないもん! イエローは…そうだ! おまえをたおすすために、なかまとべつこーどーしてるんだ。それできっと、うしろからおまえをどかーんってやっつけちゃうんだ!! おとーさんもいっつも言ってるぞ! “まずいめしやとあくのさかえたためしはない”って!」

 つかまってる割には豪胆なわが息子に、少し安堵する。

「フンッ、我々をマズイ飯屋といっしょにするな! おい!」

 息子を羽交い絞めしている手下に指示を出す。少し力をこめ、息子を締め付ける。

「いたっ、いたいいたいっ!」

「やっ、やめろ!」

 悲痛な表情を浮かべる息子。僕が大声で止めると、怪人が目で合図し、拘束を緩めた。

「ほーら貴様ら! いたいけな子供にこんなかわいそうな表情させたくなかったら、おとなしくしてるこったな! よしお前ら、やぁっちまいな!!!」

 黒づくめの男達が<ヒーロー>たちに群がり、いっせいに攻撃を仕掛ける。人質をとられ動けない<ヒーロー>の面々は、動けず一方的に傷ついていく……。

「……くっ」

 ざわ。

 言いようのない怒りが、心を粟立たせる。

 ウルフメンのほうを見ると、やられながらも、僕と息子を見つめていた。

 その表情は仮面越しには分からなかったが……

「すまない」

 そういっているようでもあった。

「……いや」

 謝るのは、僕のほうだ。

「君たちの好意に甘え……それが結果的に息子を危険に晒してしまった……」

 それだけじゃない……君たちにまで、迷惑をかけてしまった……

「……やめろぉっ!!!」

 自分でもびっくりするくらいの声が出た。その声に、敵も<ヒーロー>たちも動きを止める。

 その隙を逃さず―――走る!

「何……がはっ!」

 一目散に駆け出し……蛇頭の怪人のどてっ腹に全体重を乗せた掌底を当てる。
 怪人の体がごろごろと吹っ飛んで転がった。

「おと……さん?」
「大丈夫か?」

 すばやく近づき、息子を羽交い絞めにしていた男に当身を食らわして眠らせ、戒めを解く。

「……すまんな。せっかくの誕生日にひどい目にあわせてしまった」
「…う、ううん! ウルフメンにあえたもん。それに……ぼく、おとーさんがそんなつよいなんてしらなかった!」

 ウルフメンよりつよいかも!? なんて、目をキラキラさせて言ってくれる息子の頭を、僕はくしゃくしゃと撫でる。

「…みんな! 人質は…息子はもう大丈夫だ! おもいっきりあばれてくれ!!!」

 僕がそういうと、ウルフメンたちがうなづき、いっせいに反撃に転じた。

「……おとーさん、ウルフメンとしりあいなの?」
「ちょっと惜しいな」


 ―――巻き込むことが怖くて、息子にはいえなかった“秘密”があった。

 だが、もうそんなことは言っていられない。

 息子を抱えて、一足飛びに妻の下へ駆け寄る。

「……頼む」
「あなた……」

 もう一度、息子の頭を撫でる。

「ちょっと、行ってくるな」
「……うん?」

 息子の頭から手を離し、振り返って怪人をにらみつける。

「うっ……き、貴様まさか……」

 気圧される怪人。僕は左腕の腕時計のボタンを押して…構える。

  -READY-

 電子音声が促す。僕は腹の底から―――吼える。

「HOWLING!!!」

  -WOLF YELLOW-

 全身を光が覆い、一瞬で僕の姿を変える。

「おとーさん……おとーさんが……ウルフイエロー!!?」
「すまんな、今まで黙ってて。戦いが終わったら、家に帰ろう。そしたら…お父さん印の最強カレーで晩御飯だ。約束だぞ?」
「あ……うん!」

 笑顔でうなづく息子。この笑顔を……決して悲しみではゆがませない。


「僕の息子に手を出したこと……全力で後悔させてやる!」

 足が地面を蹴り、僕は戦場に躍り出た。



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 単発でヒーローっぽいの思いついた。

 それだけ!


 某相撲超人とは何の関係もございません(何


 ちなみに、もしシリーズ化するなら確実にイエローのパパが主人公w
 レッドが殿もかくやのハブラレッドに(ぇ




 しかし……父親経験どころか独身貴族気取りな俺様が、父親ヒーローを描こうとかどんだけ冒涜だよとか突っ込まれそうですね。

 まぁ、偉大な父親をもつ息子が、そんな父親を通してみたある意味理想の父親像、ってことにしてくださいませ。