うららかな日曜の午後。
ちょっと遠出して、自然公園になぞ来てみる。
少しくたびれたワンボックスカーから降りて、大きく伸びをすると、体中から澄んだ空気が入り込んでくるような感覚。久しく忘れていた気持ちよさ。
「おとーさん、いこう!」
4つになる息子が、力いっぱい僕の手を引いて駆け出した。
-Messenger from Sunday-
「……それにしても突然ね。遊びに行こうだなんて。いつも日曜日はお仕事だったんじゃなくて?」
息子と遊び倒し、少々息が上がった僕に、缶ジュースを手渡しながら妻が問いかける。
「まぁ……たまには家族サービスというものがしたくて…ね」
「あらあら、お父さんみたいなこと言ってる」
「お父さんですから」
「あらあら、お父さんみたいなこと言ってる」
「お父さんですから」
これでも、がつくだろうけど。
芝生の上にレジャーシートをしき、その上にどっかりと座る。ううむ、運動不足ではないと思うのだが…なんか疲れたような。
でも、つらいわけではない。むしろ心地いい疲れというやつだ。
「おとーさーん!」
「おー!」
「おー!」
ぶんぶんと手を振る息子に手を上げて応える。公園のメインになっている広場は、すり鉢状の地形になっており、芝生が生い茂る坂を、ダンボールやプラスチックのソリなんかで滑って遊ぶのが定番だ。息子もご多分にもれず、車の中に転がっていたダンボールを引っ張り出して滑って遊んでいる。
「……平和だな」
空を見上げる。やあ、とんびが飛んでら。
「平和なのは、それを守ってくれる人がいるから…よ?」
「そうだね」
「そうだね」
妻の言葉に、ゆっくりとうなづく。
そう……平和を享受できるのは、彼らが…いるから……
「うわあああっ!!?」
が、突如響き渡る悲鳴が、その平和を引き裂く。
「何だ!?」
視線を地面のほうに戻す。視界が凍りつくのを感じた。
「くそ……こんなところにまで<奴ら>が……!?」
そう……奴ら。
毎週日曜日、どこかに前触れもなく現れ、破壊活動を行い、忽然と去っていく謎の集団。
その目的、規模、首謀者――― 一切が不明。
「ああっ、あなた!」
妻が指差す先
「しまった!」
怪人に目を奪われ、息子への注意をおろそかにしていた。息子が黒づくめの男の一人に捕まり、羽交い絞めにされていた。
「お、おとーさーん!」
「さわぐな!」
「さわぐな!」
涙声の息子に、蛇頭の怪人が大声で怒鳴る。
「さぁ……どうするね? <ヒーロー>の諸君…?」
怪人が低く嗤う。気づくと、周囲に数人の<ヒーロー>が、怪人を包囲するように現れていた。
<ヒーロー>とは、頻出する<メッセンジャー・フロム・サンデイ>に対抗するべく現れた<正義の味方>を自称する人々だ。
あるいは個人で、あるいは警察組織から。
あるいはソロで、あるいはチームで。
あるいはソロで、あるいはチームで。
<ヒーロー>は、力、技、叡智で。謎の破壊者たちに敢然と立ち向かうのだ。
「あ、<ウルフメン>!」
と、息子の声が明るさを取り戻す。そんな、<ヒーロー>の中の一チーム。オオカミをモチーフにした五色のヒーローチーム<ウルフメン>は、息子がもっとも気に入っているヒーローだ。
「…あれ? イエローがいない…?」
疑問交じりの息子の呟き。たしかに良く見ると、そこにいるのはレッド、ブルー、グリーン、ホワイトの4人であり、最後の一人…息子が大ファンである<イエローウルフ>がいなかった。
「ふむん? 確かにひとり足りねえな? どーした、イエローはカレーの食いすぎで腹痛か? ゲハハハア!」
ゲラゲラ嗤う怪人を、息子がキッとにらみつける。
「そ、そんなことないもん! イエローは…そうだ! おまえをたおすすために、なかまとべつこーどーしてるんだ。それできっと、うしろからおまえをどかーんってやっつけちゃうんだ!! おとーさんもいっつも言ってるぞ! “まずいめしやとあくのさかえたためしはない”って!」
つかまってる割には豪胆なわが息子に、少し安堵する。
「フンッ、我々をマズイ飯屋といっしょにするな! おい!」
息子を羽交い絞めしている手下に指示を出す。少し力をこめ、息子を締め付ける。
「いたっ、いたいいたいっ!」
「やっ、やめろ!」
悲痛な表情を浮かべる息子。僕が大声で止めると、怪人が目で合図し、拘束を緩めた。
「ほーら貴様ら! いたいけな子供にこんなかわいそうな表情させたくなかったら、おとなしくしてるこったな! よしお前ら、やぁっちまいな!!!」
黒づくめの男達が<ヒーロー>たちに群がり、いっせいに攻撃を仕掛ける。人質をとられ動けない<ヒーロー>の面々は、動けず一方的に傷ついていく……。
「……くっ」
ざわ。
言いようのない怒りが、心を粟立たせる。
ウルフメンのほうを見ると、やられながらも、僕と息子を見つめていた。
その表情は仮面越しには分からなかったが……
「すまない」
そういっているようでもあった。
「……いや」
謝るのは、僕のほうだ。
「君たちの好意に甘え……それが結果的に息子を危険に晒してしまった……」
それだけじゃない……君たちにまで、迷惑をかけてしまった……
「……やめろぉっ!!!」
自分でもびっくりするくらいの声が出た。その声に、敵も<ヒーロー>たちも動きを止める。
その隙を逃さず―――走る!
「何……がはっ!」
「おと……さん?」
「大丈夫か?」
「大丈夫か?」
すばやく近づき、息子を羽交い絞めにしていた男に当身を食らわして眠らせ、戒めを解く。
「……すまんな。せっかくの誕生日にひどい目にあわせてしまった」
「…う、ううん! ウルフメンにあえたもん。それに……ぼく、おとーさんがそんなつよいなんてしらなかった!」
「…う、ううん! ウルフメンにあえたもん。それに……ぼく、おとーさんがそんなつよいなんてしらなかった!」
ウルフメンよりつよいかも!? なんて、目をキラキラさせて言ってくれる息子の頭を、僕はくしゃくしゃと撫でる。
「…みんな! 人質は…息子はもう大丈夫だ! おもいっきりあばれてくれ!!!」
僕がそういうと、ウルフメンたちがうなづき、いっせいに反撃に転じた。
「……おとーさん、ウルフメンとしりあいなの?」
「ちょっと惜しいな」
「ちょっと惜しいな」
―――巻き込むことが怖くて、息子にはいえなかった“秘密”があった。
だが、もうそんなことは言っていられない。
息子を抱えて、一足飛びに妻の下へ駆け寄る。
「……頼む」
「あなた……」
「あなた……」
もう一度、息子の頭を撫でる。
「ちょっと、行ってくるな」
「……うん?」
「……うん?」
息子の頭から手を離し、振り返って怪人をにらみつける。
「うっ……き、貴様まさか……」
気圧される怪人。僕は左腕の腕時計のボタンを押して…構える。
-READY-
電子音声が促す。僕は腹の底から―――吼える。
「HOWLING!!!」
-WOLF YELLOW-
全身を光が覆い、一瞬で僕の姿を変える。
「おとーさん……おとーさんが……ウルフイエロー!!?」
「すまんな、今まで黙ってて。戦いが終わったら、家に帰ろう。そしたら…お父さん印の最強カレーで晩御飯だ。約束だぞ?」
「あ……うん!」
「すまんな、今まで黙ってて。戦いが終わったら、家に帰ろう。そしたら…お父さん印の最強カレーで晩御飯だ。約束だぞ?」
「あ……うん!」
笑顔でうなづく息子。この笑顔を……決して悲しみではゆがませない。
「僕の息子に手を出したこと……全力で後悔させてやる!」
足が地面を蹴り、僕は戦場に躍り出た。
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単発でヒーローっぽいの思いついた。
それだけ!
某相撲超人とは何の関係もございません(何
ちなみに、もしシリーズ化するなら確実にイエローのパパが主人公w
レッドが殿もかくやのハブラレッドに(ぇ
レッドが殿もかくやのハブラレッドに(ぇ
しかし……父親経験どころか独身貴族気取りな俺様が、父親ヒーローを描こうとかどんだけ冒涜だよとか突っ込まれそうですね。
まぁ、偉大な父親をもつ息子が、そんな父親を通してみたある意味理想の父親像、ってことにしてくださいませ。