それは、数分と立たなかった。
(ししるいるい、ってやつかこりゃ…)
学に恵まれなかった男が、脳にこびりつく僅かな知識を総動員する。漢字は忘れたが、目の前の凄惨な状況はまさしく言葉通りであった。
「うぅ…ああ…」
「痛ぇ……痛ぇよぉ……」
「痛ぇ……痛ぇよぉ……」
血だるまになり、うめき声を上げる手下達。
そして、自身も全身に攻撃を受け、血反吐を吐きながら、かろうじて立っていた。
そして、自身も全身に攻撃を受け、血反吐を吐きながら、かろうじて立っていた。
「テメェ…なにが『指先一つでダウン』だ……おもっきり拳骨だったじゃねえか……それに…」
何人かは、倒れ伏したままピクリとも動いていない。そんな部下を見て、男がさらに怒りを爆発させる。
「<正義>だと……? こんなクソみてーな真似するやつのどこが<正義>だってんだよ!!?」
「フン、愚問だな<悪>よ。貴様らは暴力団だ。大手振って街を歩けぬはみ出しモノだろう? だから裁く! 絶対正義たるこの私がッ!」
「フン、愚問だな<悪>よ。貴様らは暴力団だ。大手振って街を歩けぬはみ出しモノだろう? だから裁く! 絶対正義たるこの私がッ!」
「ふ…巫座戯るなあああああっ!!!」
激昂し、飛び掛る男。が、その顔面に、5度目になる容赦ない拳の一撃がめり込んだ。
「が…はあ」
(つええ……)
(つええ……)
蓄積されたダメージが全身を駆け抜け、ついに倒れ伏す男。
「フン……<悪>は必ず滅ぶ。これすなわち勧善懲悪ッ!」
勝ち誇ったように、白い甲冑の男が叫ぶ。その装甲は、返り血に赤黒く汚れ、清廉からは程遠い、醜悪な姿であった。
「さて……。“浜の真砂は尽きぬとも、世に盗人の種は尽きまじ”だ。悪は…完膚なきまでに叩き潰す。死ねえっ!!!」
無防備に横たわる男の頭に、まさしく必殺の一撃が振り下ろされようとした。
(やら……れる……!)
死を覚悟し、目を閉じる男。
(……む?)
が、自身を死にいざなうはずの一撃はいつまでたってもこない。
「なんだ……!?」
目の前の光景に、男は驚愕した。
筋骨隆々とした肉体を強調するボディースーツに、悪鬼の如き仮面を被った人影が、狂拳から、男の身を守っていたのだ。
「な、なんじゃあ……?」
またヘンなのが出てきた。今度は何だ。白の次は黒か。てゆーか背中に<悪>一文字ってなんだ。どこの漫画だおい!?
意識を失いそうな激痛の中、思いつく限りのツッコミを心の中で叫ぶ。
「また……また邪魔をするかね、この悪鬼がっ!!?」
「黙れ……!!!」
「黙れ……!!!」
左手で受け止めた拳をぎりぎりと握り締める。
「ぐっ…ああっ!!?」
「おおおっ!!!」
右拳が甲冑男の顔面を砕き、跳ね飛ばす。
「い、痛い……!? 殴ったな……パパにだって殴られたこと無いのにッ!」
「殴られる価値も無かったんだろうが……」
「殴られる価値も無かったんだろうが……」
低く呟く黒い影は、静かに怒りを蓄えているかのようだった。
「貴様…いや、“貴様ら”の目的は何だ……<メッセンジャー・フロム・サンデイ>!!?」
その言葉に、男ははたと思い出す。
そういえば、以前にも街の明かりが全て消えたことがあると、伯父貴が言っていた。
そういえば、以前にも街の明かりが全て消えたことがあると、伯父貴が言っていた。
そのときも…そして今日も…<日曜日>。
世間を騒がすなぞの破壊者たち。そしてそれらと戦う戦士達。
昔あこがれたこともある、テレビの向こうの出来事が、今まさに、眼前で起こっていた。
「さあね…他の連中は知らないけど、少なくとも私は、世のため人のためにってやつさ」
「世のため…だと?」
「そうさ。人々の生活を脅かすヤクザ、ギャング、暴力団……<悪>ってヤツはゴキブリといっしょさ。駆除しても駆除しても沸いてくる。だから私が駆逐する! なぜなら私は…<正義>だから!!!」
「世のため…だと?」
「そうさ。人々の生活を脅かすヤクザ、ギャング、暴力団……<悪>ってヤツはゴキブリといっしょさ。駆除しても駆除しても沸いてくる。だから私が駆逐する! なぜなら私は…<正義>だから!!!」
正義と悪の戦い。
いつか心を躍らせた構図は、目の前で、その立場を逆にして繰り広げられている。
(なんだよ、こりゃ…)
はっきりしない視界で、二人を見る男。
「そうか……ここまでの破壊をもたらし、それでもなお<正義>を名乗るか……」
ゆらり、と黒い影が動く。
「なら俺は………<悪>でかまわん」
「……ヒ、ヒイッ!?」
淡々とした呟きに、白い甲冑が恐怖にカタカタと震えだす。
「貴様の捻じ曲がった<正義>……<悪>としてこの俺が叩き潰すッ!!!」
雄叫びとともに、右腕がさらに大きくなったように……見えた。
「ひ、ひぎゃああああああああああ!!?」
ヘタレた、自称「正義の味方」の悲鳴を遠くに聞きながら、男は意識を手放した。
*
「……い……ろ……」
誰かが…呼んでいる……
「おい……きろ……」
なんだこの声…どっかで聞いたような……」
「おきろと言ってる!」
「ぐべらっ!」
「ぐべらっ!」
突然みぞおちに強烈な打撃を受け、意識が急速に覚醒する。
「な、なにしやがんだてめぇ! 起きる前に永眠しちま……なぁっ!?」
倒れたままの男を覗き込むのは、つい先ほど自分を救けた黒いボディースーツの大男。
その顔を隠していた仮面は外され、その素顔をあらわにしている。
その顔を隠していた仮面は外され、その素顔をあらわにしている。
そしてその顔は、男の良く知る人物のそれであった。
「てめ……正拳会の二代目!!?」
「…ふむ、大丈夫なようだな。救急車を呼んでおいた。後数分で来るだろう」
「…ふむ、大丈夫なようだな。救急車を呼んでおいた。後数分で来るだろう」
そう言い残し、立ち上がると、“二代目”は踵を返す。
「ちょ、てめ、待て……!」
「…なんだ?」
「…なんだ?」
血を吐きながら呼び止める男に、“二代目”は足を止めて振り返る。
「てめえ…なんだって俺を救けた?」
「……やられそうになってたからだ」
「違ぇ! …あ、いや…違わねえけども……お、俺は、てめえをぶっ殺そうとした男だぞ!? なんでそんなヤツを救けた!? フツー無視するだろフツーよおっ!?」
「……やられそうになってたからだ」
「違ぇ! …あ、いや…違わねえけども……お、俺は、てめえをぶっ殺そうとした男だぞ!? なんでそんなヤツを救けた!? フツー無視するだろフツーよおっ!?」
男の言い分ももっともであった。“二代目”は、一つため息をつくと、鋭い眼光でにらみつけた。
「お前がどうあれ、この街に生きる人間であることには変わりない。そして俺は……この街に生きるもの全てを……守る」
唯一つの例外もなしに、だ。
そう言い切り、“二代目”は再び踵を返して歩き出す。
「守…るだと? や、やいてめえ何様の―――!!?」
吼える男であったが、“二代目”は振り向かない。
吼える男であったが、“二代目”は振り向かない。
「…な、舐めんなよ……俺様は、てめえなんぞに守ってもらわなきゃならねえほど落ちぶれちゃいねえ!! 今度だ! 今度は必ずてめえの命ァ、ぶん獲ってやるから覚悟しやがれぇっ!!!」
その言葉に。
“二代目”はもう一度足を止める。
「……期待しないで、待っていよう」
背中越しで、その表情は読み取れなかったが、その言葉尻は…こころなしか笑っているかのようだった。
「上等だコラぁ。それまで無様に敗けんじゃねえぞ………<ヒーロー>!!!」
<悪>の一文字を背負う“漢”に、そう声をかけ、男は再び意識を手放す。
近づいてくる救急車のサイレンをBGMに、男はゆっくりとまぶたを閉じる。
夜の街に、まもなく夜明けがやってこようとしていた。
-----------------------------------------------
懲りずにヒーローシリーズ第3弾。
mixi日記のほうへは1本でUPできてるんですが、こっちへは文字数制限の問題から前後編に分けるハメにorz
おのれディケイド…っ(マテ
さてさてさて。
今回変身するのはヤクザの二代目。ここ十数年で頭角を現してきたので古株からは煙たがられつつも実力があるのでなかなか手が出せない、てなポジション。
今回変身するのはヤクザの二代目。ここ十数年で頭角を現してきたので古株からは煙たがられつつも実力があるのでなかなか手が出せない、てなポジション。
普段は「街」の安全を確かめるように徘徊し、有事の際には街の各所に隠しているコスチュームをすばやく着込んで現れるのです。
……さて、とりあえず現時点でこのシリーズはネタを使い切り。
明日からどうしようw