炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

東方地霊殿・異聞/プロローグ(3)

 ――八雲紫との対談から1週間。

 その間、二人は互いに依頼を課した。

 紫は、パチュリーからの提案で、地底にもぐることになる人間と交信するためのサポートアイテム設計し、パチュリーは、紫から異変解決を担う人間に<霧雨魔理沙>を指名され、彼女を地底へと赴かせるための説得を開始した。

「このユニット<エブリアングルショット>は、任意で配置を変えることができるわ。配置を変えることで、前方に広範囲に弾を放ったり、横や後方に撃つことができるの」

 紫の設計を元に、自らの得意とする属性魔法を絡めたオプションの説明をするパチュリーに、魔理沙は欠伸をしながら生返事で応える。

「面白いものを作ってくれたのはありがたいが、ここまでするほどのものかね。間欠泉の根っこで温泉の素を取ってくるってだけだろうに」
「備えあれば憂いなしって言うでしょう? この間も言ったけれど、地底には地霊だけじゃなくて妖怪もいるのだから」

 魔理沙には、異変を解決するためとはそのまま伝えていない。そも、異変を解決するのは本来<博麗の巫女>が担う役目だ。しかし、紫はその巫女……霊夢ではなく、魔理沙を指名してきた。霊夢には他の役目を与えた、と紫が言っていたのを思い出す。

『交信機能を付加することはできたのだけれど、そのまま地底で使うには精度にやや難があるのよ。だから、霊夢には双方を繋いで通信をクリアにする……そうね、言うなれば橋渡しみたいなものかしら。そういうのをやってもらっているわ』

 あの巫女が事情も知らされないまま紫の指示に従っているあたり、なんだかんだであの妖怪少女のことを信頼しているのかも知れない。パチュリーはぼんやりとそんなことを思った。
 ひょっとしたら前回(紫を呼ぶためとはいえ)結界を緩めたことに対するペナルティなのかもしれないが。

「……ところで、なんで今回は私のスペルカード使っちゃいけないんだ? 初めて使うものより、使い慣れたモノの方が安心できるんだけどな」
「月での一件を忘れたのかしら?」

 ため息交じりに指摘すると、魔理沙も気づいたらしく顔をしかめた。

 ……以前、レミリアたちの月侵略に同行した魔理沙は、月の都のリーダーとのスペルカード戦であっさりと返り討ちにあってしまったのだ。その敗因の一つが、彼女の有する<星の魔法>の特性によるものだ。

 お化け茸などを媒介にしている彼女の光と熱を用いた魔法は、ほぼ全てが<星>をモチーフにしている。そのためか、彼女の魔法は大気中の星の<成分>に左右されてしまうのだ。
 月の一件を例に挙げれば、大気の少ない月世界では星は殆ど瞬かず、星の瞬きを表現している<スターダストレヴァリエ>や<イベントホライズン>は、その効果が減衰していた。

「星の光が届かない地底世界じゃ、さらに効果は落ちるはず。弾幕はパワーだと公言する貴女にとっては、それは望むところではないでしょう?」
「そりゃそーだ」

 もっとも、これを利用した霊撃が、魔理沙のおめがねにかなう威力かどうかは、パチュリーには計りかねるところではあったが。

「それに、地底であんな魔力砲を連射したら、落盤に巻き込まれてしまうでしょうに」
「……言われてみればそうだな」

 しょうがない。と呟き、魔理沙はとりあえず納得したようだった。

「準備はいいかしら?」
「うおっ!?」
「むきゅ!?」

 背後からの闖入者に、魔理沙と二人して驚く。前回もそうだったが、紫の登場の仕方は心臓に悪い。喘息の発作を引き起こし咽るパチュリーの背中を、魔理沙が「大丈夫か?」と軽くさすった。

「簡単な説明は終わったわ。あとは彼女の実力しだいかしら」
「ほう、ずいぶんと舐められてるなあ」
「軽口が叩けるなら十二分ね」

 クス、とパチュリーが笑ってみせる。それじゃあ、と紫が手をかざして、床面に“スキマ”を開いた。

「前にも見たけど不気味ねこのスキマ……」
「そうか? なんか転がってそうでワクワクするんだがな、私は」

 からからと笑う魔理沙

「好奇心は猫をも殺すわよ?」
「なら大丈夫だ。私は人間だからな」

 皮肉をさらっと受け流され、少々おかんむりなパチュリーは、紫へと視線を向ける。小さく頷いた紫を見て、パチュリーは改めてスキマの向こうを覗き込んだ。

「今このスキマは地底世界の入り口に繋がっているわ」
 魔理沙は間欠泉が噴出した穴からの突入を提案したが、あっさりと却下された。件の間欠泉は、噴出時の水温が極端に高く、また噴出のタイミングもまちまちだったのだ。出ていない時間帯を狙って飛び込ん

で、すぐに高温の温水が噴出してはさすがに火傷ではすまなくなってしまう。

「ま、行ってみようやってみよう……ってな」

 ひょい、とどこからともなく箒を取り出し、颯爽とまたがる。その姿はなかなか堂に入っていて、パチュリーはこっそり羨ましく思った。

(……私も今後は箒に乗ってみようかしら……)

「あらよっ……っと!」

 臆した様子も見せず、スキマに飛び込んでいく魔理沙

「それじゃ、一旦スキマを閉じるわね。終わったらまた開きに来るわ」
「ええ、お願い」

 これから霊夢の様子を見に行く、と言い残して、紫も別のスキマから去っていった。

(さて……私も調べ物を片付けましょうか)

 小悪魔に指示を出し、地底に関する書物の収集を始める。ふと傍らの水晶玉を見やると、オプション越しに映る魔理沙の横顔。好奇心に満ち満ちたその不敵な笑みは、とても純粋に見えて。

(……可能限り、サポートさせてもらうわね)

 仕方ないとはいえ、彼女を唆して地底へ送り込んだことを、パチュリーは少しだけ後悔した。


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 底の見えぬ地底世界。温泉とともに地表に現れる地霊たちと、未だ姿を見せぬ、地底の妖怪たち。

 かつて、忌み嫌われた力を持つがゆえに地上を追われた者たちは、開いた天蓋越しに遥か地上を見上げ

、何を想うのか。


 ――それは、まだ誰にもわからない。





   -つづく-



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 これにてプロローグはおしまい。次回からはゲーム本編を直接掘り下げていくスタイルになります。

 さて、補足説明。
 劇中でパチュリーが言及している「月での一件」は、以前REXに連載されていた「東方儚月抄」でのエピソード。仮にも主役やラスボスクラスがいてもなおあっさり蹴散らすんだからあの妹パネエ。

 フランドールといいこいしといい、東方における妹キャラはどーしてこうもチート級につおいんでしょうね?w

 ちなみに、原作ゲーム「東方地霊殿」の前作に相当する「東方風神録」は「儚月抄」より前のエピソードになります。

 まぁ、こんなことを今更語ったところで、東方ファンには周知の事実なのでしょうが(滝汗

 さて、執筆自体はここで一度ストップし、プロローグ3編を動画化してみようと画策しております。

「東方二次は動画のほうがウケがいい」ってけーね先生が言ってた!(マテ

 まぁ、八意……もとい絵心なぞカケラもないので素材集めからはじめることになりますが……

 せっかくだからがんばってみるよ