炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

仮面ライダーBLOOD:第3幕/第5場

 身体を流れる力の感覚が薄れる。危うく意識まで遠のきかけたのを慌てて引き戻すと、エイジは蜘蛛の怪人をキッとにらみつけた。
「何を……した!?」
 だが、蜘蛛の仮面はしれっとした口調で返す。
「いやあ、何も? この結果を招いたのはキサマ自身だよ」
「どういう……ことだ?」
問うと、蜘蛛男は「何も知らんのだな」と嘲った。
「キサマは我らが同志。その中でも最高水準の力を持つ<ジェノサイドロイド>だ」
「それは前にも聞いた。だが、それが何だというんだ」
「ジェノサイドロイドはそのスペックを隠匿するため、作戦行動時以外は常人と同程度の人間を装う。その力を発揮するためには、ジェノサイドロイドとしての力を<ダウンロード>する必要が……ある」
 そう言って、蜘蛛の爪が天空を指し示す。エイジが仰ぎ見ると、大気を飛び越えた先、衛星軌道上に巨大なオブジェクトがあるのを、自らのカメラ・アイが捉えた。
「サテライト……K」
 知らず口に出し、はっとなる。自分は、アレを知っているのか…?
「そう、それこそがキサマ……ジェノサイドロイドの要。だがそれゆえに防御が強固でな、今の今まで対抗手段が無かったのだが……わが偉大なる<ドクトル>様の手によってそれはなされたのだ!」
 腕を大きく広げ、陶酔するように言葉を零す蜘蛛の怪人を尻目に、エイジはサテライトKから視線を離さない。
《自爆ぷろぐらむ、展開。当機ハ、アト1分デ、自爆シマス。繰リ返ス、自爆ぷろぐらむ―――》
「!?」
自分を見下ろすサテライトKが、無機質な電子音声を奏でる。
 唐突に思い出す。あの時も、あの時も。自らの身体に力を与え、変えたのはあの機械の塊の力だ。はっきりとした記憶はなくとも、それは確実に理解できた。
 今あれが破壊されれば、自分は変わることができない。だがそれは、人間になるということとイコールではない。<KARUMA>と名乗った連中に自分は拉致され、ジェノサイドロイドとかいう冷酷な殺人マシーンに成り下がってしまうだろう。
ならばどうする? 記憶のない自分を暖かく迎え入れてくれた、あの兄妹を救うために、自分に何ができる?
(サテライトK……俺の……俺の力だというなら、俺の言うことを聞け!!!)
 全身が総毛立つ。カメラ・アイごしににらみつけたサテライトKが息を吹き返し、警鐘のように響き続けた自爆プログラムのアラートが途絶えた。
(よし……そのまま……ぐっ!?)
 再び自らを<変える>プログラムを実行しようとした矢先、強烈な圧迫感が脳髄に叩きつけられる感触を覚える。
《自爆ぷろぐらむ、展開―――》
(くそっ、戻れ!)
 がなりたてるアラートを振り切るようにサテライトKに指示を送るが、今度は止まらない。相手の功性プログラムがサテライトKの中を塗り替えていく。0と1の羅列が赤く染まっていく。
「無駄無駄ァ! 今、我が<ドクトル>様は、キサマを解してサテライトKにアクセスしている。今更キサマが介入したところで、沈黙は時間の問題よぉ!」
(駄目か……駄目なのか……)
 あきらめかけたそのとき、膨大な量のデータの中から、ひとつのデータの集合体をみつけた。
(これは……!)
 エイジを<ジェノサイドロイド>足らしめる、武装プログラムだ。重要度の高いデータだからだろう、他のプログラム郡とは独立していたため、攻性プログラムの影響を、今の今までうけていなかった。
だが、それも時間の問題だろう。赤黒く染まる0と1は、その魔手をいよいよそれに向けようとしていた。
(させるかっ! このデータを緊急ダウンロードする……間に合えっ!)
 見開いた目が真紅に染まる。データの塊が脳髄に流れ込む不快感に、思わず膝をつく。
「……フフ、抗えないとわかって絶望したか。だが恐れることはない。キサマは再び我らKARUMAの尖兵となるのだからな」
 蜘蛛男のくぐもった笑い声。それを返すことなく、エイジはゆっくりと立ち上がる。
「ふん……存外しぶといな。まぁ、なればこそのジェノサイドロイド……む?」
 と、蜘蛛男の視線がエイジの腰を捉えた。赤く輝く球体をはめ込んだベルト状のものが、彼の腰に巻きついている。
「なんだ、それは……!?」
「達也!」
 蜘蛛男の問いに答えることなく、エイジが倒れ伏した達也に声をかける。
「お前の言っていた……<仮面ライダー>ってやつには……どうすればなれる!?」
「エイ、ジ…?」
 振り返るエイジの視線と、怪訝な達也の視線が絡む。目に宿る光は、真摯そのものだった。
「……スイッチを、入れるんだ」
「スイッチ?」
「あァ。お前が、一番力を発揮できる、力を引き出す……動きってのがあるはずだ。それが、スイッチになる……!」
 はっとなる。蟷螂の怪人を砕いたときのあの力。あの時、無意識ながら何か構えていたはずだ。
「……っ!」
思い出す間もなく、身体が自然に動いた。握られた拳が、引き締まる筋肉が、力を呼び覚ますのが感覚で分かる。それに連動するように、ベルト中央の紅い光がその輝きを増していく。
「決めのセリフも必要だぜ……『変身』だっ!」
 口が、声帯が開く。
「変……身ッッッ!!!」
 全身が紅い光に包まれ―――

次の瞬間、戦士が、そこにいた。
「っ莫迦な!? <サテライトK>は自爆したはず……なぜその姿に!?」
「確かに自爆はした……だが、どうにかこれだけは確保できたのさ。そして―――」
 それだけあれば、十分だ。
「いいや違うぜ。あとひとつ、付け加えとくもんがある」
「?」
にやり、と達也が笑ってみせる。
「後は……勇気だけだ!」
「……ああ」
 その声に小さく頷いて、エイジは……否、<仮面ライダー>は、蜘蛛の怪人を睨みつけた。
 
 
    -つづく-
 
 

 
 地味に村枝氏リスペクト。もちろん石ノ森御大にもリスペクト。全てのヒーローにリスペクト。
 
 リスペクトしすぎて囚われの身と化してる結花が置いてけぼりだがダイジョウブダモンダイナイ(ぉ
 
 多分次(第6場)で終わる。他の作品も終わるシーン数が安定して欲しいもんだ。