炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

仮面ライダーBLOOD:第3幕/第7場

「ぐ……っ」

 力強く歩み寄る仮面ライダーブラッド……エイジ。対する蜘蛛の怪人はじりじりと後ずさっている。

 スペック上は蜘蛛怪人……<オーバーボーグ>よりも遥かに強力であるとされる<ジェノサイドロイド>だ。その事実がプレッシャーとなり、恐怖という名の鎖となってその身を戒めていたのだ。

「お……おのれェ……ジェノサイドロイドだからなんだというのだ!」

 自棄になったのかはたまた勝機を見出せたのか、雄たけびとともに蜘蛛が奮い立つ。

「所詮は俺と同じ改造人間。勝てん道理も……無い!!!」

 仮面の口腔が開き、糸を固めた粘液弾を射出する。苦も無く躱すエイジだが、回避に意識を向けた、その隙こそが蜘蛛の狙いだ。

「おおおっ!!」
「!」

 腕から黒光りする鋭い爪がエイジめがけて突き立てられる。しかしエイジは真っ向からその爪を受け止め、攻撃を阻む。

「っは!」

 動きが止まった蜘蛛の腹に蹴りを叩き込み、間合いを開く。

「……<ヒートガントレット>、ダウンロード」

 低いつぶやき声に呼応し、エイジに備わった腰のベルトの紅い光球が煌き、放たれた光線が右腕を包み込む。と、右腕に手甲状の装甲が新たに加わった。メタリックレッドに輝くそれは、エイジが右拳を強く握ると高熱を帯び始めた。

 周囲の空気が熱波に揺らぐ。

「はあっ!」
「ぬぅっ!」

 エイジの右腕がうなりを上げ、拳が振り抜かれる。防御すべく蜘蛛怪人も右腕を伸ばし―――強烈な爆裂音が弾ける。

「うおっ……!?」

 爆煙にまかれ、達也が咽る。ややあって爆風に塵が吹き飛び、仮面の人影が二つ、浮かび上がる。

「が、ああ……」

 苦悶の声を上げるのは蜘蛛怪人だ。鋭い爪を備えた右腕は、エイジの拳に打ち砕かれ、肘から上をかろうじて残すのみとなっていた。

「すっ……げェ。まさしく<ライダーパンチ>だぜ」

 興奮する達也をよそに、エイジは仮面越しに蜘蛛怪人をにらみ付けたまま、警戒を解かない。

「ぐぐぐ……た、斃したつもりだったか? お、思ったよりたいした力はないらしいな……」

 ならば。と残った左腕を大きく振りかぶる。衝撃でズレた蜘蛛の仮面が嗤った様に見えた。

「斃れるのは貴様のほうだ! 俺には<ドクトル様>より得たこの<力>があるからなぁっ!!!」

 言うが早いか、左腕の爪を自らの胸に深々とつきたてた。

「!?」
「な……なにやってんだあいつ?」

 傍から見れば自殺行為にしか見えない怪人の行動に、首をかしげる達也。
 と、その怪人の身体がガタガタと震えだした。

「ガ……ガガガガガ……ギャギャギャーーーーーッ!」

 壊れたテープレコーダーのような奇声。仮面の奥の瞳が赤黒く染まる。ずるり、と胸から抜かれた左腕が肥大化し……いつの間にか“生えてきていた”右腕も同様に隆々と発達していく。

 肉が爆ぜる音。腰の辺りから血ともオイルともつかない不気味な色の液体が漏れ、瘤が隆起する……と思うと、それは一対の<腕>となった。

「お……おいおいおい」
 わが目を疑う達也。その思想、仮面こそ醜悪なれど辛うじてヒトの形を保っていた“それ”は、人間大の巨大な蜘蛛の“化け物”と化した。

「ギギギギギギーィィィィィ!!!」

 もはや言葉すらも発しない口が、無秩序に粘糸をばら撒く。そのうちのひとつが達也をめがけて飛んでいることに気づいたエイジは、その身をもって進行を防ぐ。

「っ!」

 強靭なまでの粘糸が絡みつき、エイジの動きを封じる。

「エイジっ!」
「だ、だいじょ……!」

 無事を知らせる言葉を阻まれ、エイジの身体が宙を舞う。エイジを捕まえたことを察した蜘蛛怪人……否、怪物が<捕食>すべく引き込んだのだ。

「うおっ」

 すぐそばに巨大な蜘蛛の口が、エイジを食いちぎらんと待ち構える。力任せに引きちぎろうにも、寄り集まった糸は鋼鉄のごとき強度を持ちながら柳のごとくしなやか。放つ力はすべて受け流されてしまう。

「エイジーっ、さっきのガントレットだ! 熱でなら切れるんじゃないのか!?」

 呼びかける達也の声にはっとなる。そうだ、さっき奴の右腕を砕いたあの力。どうして今まで気がつかなかったのか。思えば、まるで何かに導かれるようにヒートガントレットを呼び出していた気がする。記憶は無くとも、その身に染み付いた<罪>が、身体を突き動かしていたのかもしれない。

「ぐっ……」

 今一度右腕に意識を集中させる。すぐさまヒートガントレットが熱を帯び、頑としてエイジを離さなかった粘糸の塊を焼き溶かした。

「はっ!」

 再度放たれる糸を躱しながら、右拳を攻撃態勢に構える。脚部のバーニアを駆使し肉薄すると同時に、前脚の付け根にパンチを打ち込んだ。

「ギギッ!?」

 ガラスが磨り潰されるような奇声とともに、大蜘蛛がうずくまる。が、すぐさま雄たけびを上げて臨戦態勢をとりなおした。見れば、攻撃を受けた部分がじわじわと再生している。

「この力じゃ……斃せないのか?」

 どうすればいい?
 逡巡するエイジの耳に、再び達也の声が飛び込んだ。

「<ライダーキック>だ!」
「……ライダーキック?」

 鸚鵡返しするエイジに、達也がそうだ!と首肯する。

「<仮面ライダー>の必殺技だ! 強烈な跳び蹴りをたたっこんでやれ!」
「……必殺技」

 それで斃せるという根拠は無い。しかし、達也の言葉がエイジを突き動かす。全身に駆け巡る何かが、熱く燃え滾るのを感じた。
 と、エイジの脳裏に、自らの持つ<もうひとつの力>がヴィジョンとして浮かび上がる。

 これだ! エイジは確信し、ベルトに意識を向けた。

「<ブレイズアンクレット>、ダウンロード」

 ベルトの光球が再び輝き、今度は右足を照らす。無数の光の粒が足先に集まり、太陽のごとく輝く足甲が装着された。

「はあっ!」

 ジャンプと同時にバーニアを噴かし、高く高く跳ぶ。右足を槍の穂先のごとく向けるとどうじに、強烈な熱と光が脚を、全身を包み込む。

「おおおおおおっ!」

 重力による自由落下が、必殺の速度を生み出し、巨大な蜘蛛めがけて鉄槌を下ろす。
 迎撃とばかりに蜘蛛が糸を吐き出すが、太陽のごとき熱の前に瞬時に蒸発した。

「ぶち抜けぇっ!!!」
「ライダー……キック!!!」

 エイジの叫びと、キックの衝撃が蜘蛛に届いたのはほぼ同時であった。

 猛烈な熱量が蜘蛛の全身を駆け巡り、砕き、溶かしていく。

 塵と同レベルにまで分解されたそれは、爆風にあおられ、空に消えた。



   -つづく-


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 ライダーキックは跳び蹴り派です。
 いや、でもカブトの回し蹴りも悪くないよね?(何様

 必殺技を放つシーンはカタルシスあふれるべきなんです。
 問題はオイラがソレにいたれているかどうかですな(トオイメ

 さて、ちょっと長丁場になってしまった第3幕も次回で終わり。4幕以降の展開はどうしたもんかねぇ……