『とっとっとっと!』
(魔理沙に言われたからって訳じゃあないけれど……あの妖怪のことが気になるのは確かだものね)
知らないことは知ろうとする。本の傍にあることを至上とするパチュリーにとって、それは呼吸と同義なのだ。
「ええと……」
とはいえ、あの金髪の少女が如何なる妖怪であるのか、それを知るためには情報が足りない。ひとまずは彼女が発動させたスペルカードが数少ないヒントである。
「“緑色の眼の怪物(グリーン・アイド・モンスター)”に……“花咲爺”……ねぇ?」
一見共通項のないキーワードであるが、ともかく調べてみないことには関連性の有無もわからない。
「これね。“花咲爺”というのは」
並んだ本の中から見つけたのは、いつ蔵書に入っていたのか、日本の童話集である。
「……ふうん。心優しい老夫婦と性根の曲がった隣人夫婦が、不思議な力を持った犬をきっかけに、老夫婦は幸福を、隣人夫婦は不幸を得る……と」
良くある勧善懲悪ものね。とひとり頷き、再び蔵書漁りに戻る。と、別の書棚を捜索していた小悪魔がパチュリーの袖をくい、と引いた。
「あら、見つけてくれたの?」
有難う。と労をねぎらうと、ぱたぱたと背中の羽をはためかせ喜びを示した。
再び捜索へと戻る小悪魔を見送り、彼女から渡された本に眼を通す。
「これ……戯曲?」
と、そのうちの一説に目が留まった。
「……なるほど。グリーン・アイ……嫉妬の可視化、と言ったところかしら?」
口に出た<嫉妬>なる単語に気がつく。
「そういえば、あの昔話の発端も、老夫婦に対する隣人の“嫉妬”だったわね」
これはキーワードになるかもしれない。そう言えば、彼女の着ている衣装。あれも手がかりになるだろうか。どのようなものだったかを確かめるべく、改めて水晶に視線を向けると、緒戦が丁度終幕に差し掛かるところであった。
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『くっ……いとも簡単に、さも楽しそうに避けるなんて……まったく妬ましい……』
『いやぁ、面白かったぜ? 忘年会で披露するのかい?』
『人のスペルカードを勝手に宴会芸扱いしないでもらえる!? 妬ましいわねっ!』
余裕綽々といった風の魔理沙に、パルスィは緑色の瞳を見開いて苛立つ。と、不意に我に返り、ひとつ深呼吸をした。
『じゃあ、これならどうかしら?』
パルスィの声が重なって聞こえる。刹那、少女が“ふたり”になった。
『選択肢を与えましょう。ひとつは慈悲深き報恩を、ひとつは苛烈なる報仇を。さぁ、貴女はどちらを選ぶ?
水橋パルスィが宣する……』
――<舌切雀「謙虚なる富者への片恨」>!!!
『今更分身なんてなぁ。フランドールのより少ないし』
軽口を叩く魔理沙が、ほうきを操り、照準を大玉を放つパルスィへと向けた。
「え? ちょっと魔理沙……」
“舌切雀”なる童話をたまたま識っていたパチュリーが、その選択肢は間違いだと指摘する間もなく、魔理沙が全力で魔力弾を撃つ。着弾の瞬間、パルスィの姿が掻き消え、同時に大玉が大量に発生し魔理沙に襲い掛かってきた。
『うわおっと!』
「ちょ、ちょっと魔理沙。貴女、“舌切雀”を知らないわけじゃあないでしょう?」
『そりゃ知ってるさ。大きいほうが贋物、なんて妖精だって知ってるぜ』
『でもあえて大きいほうを選ぶのが私なのさ。小さい葛篭の小判も悪くはないが、大きい葛篭の妖怪変化のほうが面白そうだしな。そう思わないか、パチュリー?』
……思わないわよ。
大きくため息をついて、パチュリーが呟いた。
-つづく-
まぁ彼女らしいですw
敵味方がやたらめったら裏切りをしまくるんで、裏返して遊ぶゲームの名前にぴったりだ!(ぇ
一節の中にある「緑色の目の怪物」すなわち「グリーンアイドモンスター」が、英語圏で「嫉妬」を意味する慣用句の元となったのです。
ところで。嫁ことパルスィのスペルカード。イージー及びノーマルと、ハード以降のスペカの名前が異なるんですが(彼女に限りませんが
“花咲爺「華やかなる仁者への嫉妬」”が、ハードだと “花咲爺「シロの灰」”に。
今回登場の“舌切雀「謙虚なる富者への片恨」”が“舌切雀「大きな葛篭と小さな葛篭」”にそれぞれ名前が変わります。
……なんでハードのほうがシンプルなネーミングなんだろうw
まぁ、プレイヤーの大半がノーマルで遊ぶことを考えれば……?
あるいは、ハード以降だとパルスィの中二病傾向が薄れてしまうのかも?(マテ