炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

東方地霊殿・異聞/第2幕・第5場



 魔理沙とパルスィのスペルカード戦は、間もなく佳境に差し掛かろうとしていた。 

『や、やるじゃない……態々贋物の方を狙っておいて、その上で攻略するなんて……』 
『スペルカード戦に関しちゃ、こっちに一日の長があってね』 

 ふふん、と鼻を鳴らす魔理沙。パルスィが悔しそうに歯噛みした。 
 大きい葛篭のほうが面白い、と嘯く魔理沙であったが、その実<エブリアングルショット>の一形態<水符>の広域配置を巧く駆使し、本体にも的確に攻撃を加えていたのだ。 

「嫉妬を象徴する妖怪であるのは間違いなさそうだけれど……」 

 その様子を水晶越しに伺いながら、パチュリーは蔵書の捜索に余念が無い。 

「緑色の眼をした怪物の類で、“嫉妬”というと<リヴァイアタン>なんてのが出てきたけれど……確実に違うでしょうしねぇ」 

 机に広げた<北欧神話>なる書籍を横目に見てため息をひとつ。 
 リヴァイアタンは、七つの大罪のひとつたる“嫉妬”をつかさどる悪魔だ。 
 しかし、同時に海を司る怪物でもある。いくらなんでも地の底にいるような者ではあるまい……とパチュリーは判断し、早々にこの説を打ち切った。 

「……あ、この衣装が似ているかしら」 

 と、ページを捲っていたパチュリーの手が止まる。 
 ペルシアンドレス、と銘打たれた民族衣装は、細部こそ少々異なるが、パルスィの着ているものに良く似ていた。 

ペルシアンドレス……金髪だし、彼女はペルシア人なのかしら?」 

 パルスィという言葉には“ペルシャ人”という意味もある。以前暇つぶしに読んだ辞書の知識が役に立った。 

「でも、苗字は日本語よねぇ……うーん?」 

 頭をひねるパチュリーの視界の端に、水晶越しの地底が映る。そこでは再び戦況の変化が起こっていた。 


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『恨み嫉み妬み憎しみ……重い思いは五寸の釘に。草木も眠る闇夜に響く、槌の音色は心の悲鳴。 

 水橋パルスィが宣する……』 


 ――<恨符「丑の刻参り」>!!! 


 パルスィが振り上げた槌が、五寸釘を打ち、地底に渇いた音がこだまする。 
 それに連動し、魔理沙をめがけて弾丸が空を裂いて飛ぶ。 

『丑の刻参りたぁ、また随分と禍々しいネーミングだぜ……っと!』 

 魔理沙がそれを躱すと、岩壁に激突した弾幕が爆ぜた。と、バラけた弾幕と岩の破片が新たな弾幕を生み出し、背後から魔理沙を囲うように襲い掛かる。 

『おおっ、跳弾か。巧いなぁ、お前!』 

 素直に関心する魔理沙に、パルスィは一瞬うろたえたようであった。 

『そっ……そんな言葉で動揺を誘おうとしても無駄よ! まったく妬ましいわねっ!』 

 すいすいと飛び回る魔理沙を狙い、再び五寸釘を打ち、弾を撃つ。 

『妬ましい……ねぇ。私の何を妬むんだか良くわからんのだが』 
『全部よ。明るい地上に居る癖に、楽しそうにこんな暗い地底にまで下りてくるところとか! 私のスペルカードをひょいひょい避ける器用さとか!』 

 ふむ、と考え込む仕草をする魔理沙。その隙を逃すまい、と釘を鳴らすパルスィ。 

『……それをあんたが妬ましいって言うんなら、私もあんたが妬ましいね』 
『え?』 

 跳弾ごとそれを回避し、魔理沙がパルスィに肉薄する。 

『私には思いつかないスペルカードを生み出してるとことか、さ』 

 くくっ、と笑い。すぐに離れた。 

『貴女……嫉妬心ってものが希薄なのかしら?』 
『そんな事ァないさ。私だって人の子だものな。妬ましい……っていうか、うらやましいって思えることや人なら、山ほど逢ってきたぜ』 

 そういう魔理沙の脳裏に、紅白の装束に身を包んだ巫女の背中がちらりとよぎる。 

『でもそれが、私の力にもなる。あいつみたいになりたい、とか。あんな綺麗なスペルカードを私も造りたい……とかな!』 

 魔力弾をすれ違いざまに撃ち、軽快に魔理沙が笑う。 

『要は心の持ちようってね。妬ましいって思ってるだけで、そっから動けずに居るんじゃ……あんたはそこまでってことさ!』 

 魔力の奔流がパルスィを包みこみ、刹那……破裂する。 

『……おっと、倒してしまった』 

 爆風に吹っ飛ばされるパルスィを見送り、魔理沙が暢気に呟いた。 

「うーん……嫉妬に駆られたペルシャ人かな。良く判らない」 

 と、エブルアングルショット越しに聞こえるパチュリーの声。 

『なんでペルシャ人が土の下にいるんだよ?』 
「あくまでも推察よ推察」 

 メモメモ。と呟いて万年筆を走らせる。 

『ふむ。何か地底の妖怪の調査に利用されている気がしてきたぞ?』 
「……気のせいね」 

 魔理沙のボヤきに、しれっとトボけるパチュリーであった。 




    -第二幕・了- 




 というわけで、さらっと第2幕完結。 
 ……今まで進まなかったのがなんだったんだってくらいのハイペースだなオイぃ。 

 さて。パルスィの地霊殿におけるラストスペル「丑の刻参り」 

 彼女のモチーフのひとつである「宇治の橋姫」伝承のが割りと有名だと思いますが 
 調べてみるとわが郷土たる岡山にも逸話があるそうで。 
 昨年の1月にもテレビ番組で紹介されてたようですが、当方残念ながら未見でゴザイマスorz 

 育霊神社という神社の本殿はかつて城だったそうで、その城主が敵兵に殺された猫と、その悲しみのために自害した飼い主の娘の仇を討つべく娘と猫を祀り、呪いの儀式をすると、猫を殺した敵兵が狂い死にした……という逸話が残っております。 



 以上、東方とはまったく関連の無いトリビアでしたw 


 さて、第3幕はまた後日書くとして、次回以降は再び特撮二次創作に戻るよー。 
 来週しばらくお休みすることにはなりますけどね(滝汗