広々とした部屋を埋め尽くす、スーパーコンピュータの群れ。
その隙間を縫うように、足音がせわしなく行き交う。
僅かに設けられたスペースには、一人の男が小さな部品と半田ごて片手に格闘を繰り広げていた。
「よし、これで……」
額に滲む汗を拭い、組み立てたばかりのブレスレットを手首に装着する。
「成功してくれよ……」
深く息を吸って、ブレスレットを起動する。鈍い音が響き、中のメカニズムが順調に動き出した。
「ダイナ・レッド!」
発せられた叫びとともに、右手のブレスレット……<ダイナブレス>を胸に掲げる。ブレスのエンブレムにスーツのシルエットが浮かび上がり……
「うわっ!?」
光り輝いた刹那、激しい火花が散り、ダイナブレスの中枢部品が黒く焼け焦げてしまう。
「くそっ、また失敗か……」
悔しそうに歯噛みし、ダイナレッド……<弾 北斗>が壊れたダイナブレスを腕から外した。
After of LEGENDWAR
Episode:DYNA-MAN/戦士の力
「どうしました? また激しい音が聞こえましたけど……」
「……ああ、学長か。見ての通りさ」
部屋に入ってきた白衣の男に、北斗が机の片隅を指差して苦笑する。そこには破損したダイナブレスの山がつみあがっていた。
「すまないな、アカデミアの貴重なスペースを借りているのに、たいした成果も挙げられずに」
「いえ、気にしないでください。先輩」
<天宮>のネームプレートを左胸につけた白衣の男が「こっちもあまり、進んでませんので」と肩をすくめて言う。
「そうか……他のところはどうかな?」
「巽防災研究所や、I.N.E.T.(アイネット)も同じような状況ですね。装備までは造れても、いざ変身……という段になると……」
学長の返事に「そうか」と頷いて、北斗は壁に掲げられたダイナスーツを眺めた。
「装備は、俺たちの力で再現はできるんだ。でも、変身はできないし、スーツだけを自力で装着したところで、力はまったく発揮できない」
「あの“戦い”で、俺たちスーパー戦隊が、全ての力を使い果たしてから……ですね」
半年ほど前の話である。
宇宙帝国ザンギャックを名乗る大艦隊が、突如地球に来襲。征服に乗り出した。
「ザンギャックは一度引いただけだ。そう遠くない未来にかならず来る。そのために、力を取り戻そうとしているんだが……」
魔法や超力、アースなどの神秘的な力で変身するスーパー戦隊たちと違い、<ダイナマン>のように、地球発のテクノロジーを以って戦力としていたスーパー戦隊は、すぐに装備を新たに作り直し、復帰を試みていたのだが、そのことごとくが失敗に終わっていた。
「ひょっとしたら、あの時俺たちが喪ったのは、単なる装備だけじゃないのかもしれないな」
「と、言いますと?」
学長の問いに、「どう表現したものか……」と頭をかく北斗。
「俺たちをスーパー戦隊たらしめていたのは、必ずしも科学力だけじゃない、ってことさ」
「科学力だけじゃ……?」
鸚鵡返しの学長に頷き、窓越しに空を見上げる。
あの戦い……<レジェンド大戦>の終わりに、空高く散らばっていった自分たちの“力”に思いを馳せながら。
「君たちだってそうだったはずだ。戦いの中で生まれた心。正義を守る意思や、地球の命を慈しむ想いを、抱いてきていただろう?」
「ああ……」
無論、それは今も自分の内にあるけど……と、北斗が自分の胸に触れ、鼓動を確かめるようにそっと握った。
「そんな、スーパー戦隊の……なんというか、“概念”みたいなものも、一緒に“力”として消えていったんじゃないかな……って、今は思うようになった」
おそらく、科学者としてはあまり褒められた仮説ではないであろう。
しかし、北斗のその言葉は、学長の胸にもすっと染み込み、妙に納得のいくものであった。
「かも知れませんね……いや、きっとそうなんでしょう」
でなければ、あるいはザンギャックの大艦隊を退けるまでに至らなかったのかもしれない。
そう思って、学長も大きく頷いた。
「……とはいえ、それで諦めていては、科学者の名折れだ。だろう……勇介?」
「そうですね……先輩」
いずれ来るであろう新たな脅威に備え、自分たちはできることをやる。
その手に染み付いた技術を、その脳に刻みついた知力を。
そして、この胸に宿る……正義を糧に。
「さぁ、もう一度だ。学長、部品の補充を頼むよ」
「ええ、任せといてください!」
室内がまた、にわかに騒がしくなる。
無機質に稼動するコンピューターの作動音も、心なしか熱く、雄々しく聞こえた。
-fin-
レジェンド大戦シリーズSSを久々に執筆しました。
今回はダイナマン編ということで、僕が執筆している中ではフラッシュマンに次ぐ昭和作品ですかね。
実はこの放送期間中に僕は生まれているのでリアルタイム視聴なんぞできるはずもなくw
まぁ、小学生時代に再放送してたのを見れました。よき時代でした。
さて、今回のコンセプトはギンガマン編と同じく、レジェンド大戦で喪われた力とは結局なんなの?的なノリで。
彼らや、劇中で言及された巽防災研究所(ゴーゴーファイブ)、I.N.E.T(メガレンジャー)のように、純然たる地球産のテクノロジーで造られたスーパー戦隊って、装備作り直せば変身でるんじゃね? というツッコミに対する僕なりの答えというか。
アバウトっつか抽象的過ぎる感は否めませんが、まぁおおむねこんな感じかなーというアテで書いています。いつもどおりですね(ぇ
ところで、作中の舞台が科学アカデミアということで、シムテックさんが執筆したライブマン編の設定にあわせゲストをこっそり登場させました。pixivにおいてはイメージレスポンスを申請しておきますので、どうぞよろしく(ぇ
さて、今後の執筆奏上!ですが、再来週に引越しを控えており、準備がおっつかない状況になってしまったので、明日以降来週いっぱいくらいまではお休みさせていただきます。
ああ、毎月休んでる気がしてるorz
ま、しっかりやっておきますんで。また再開をお楽しみに~