強烈な移動性高気圧が、日本列島を多いつくす。
3月末までしぶとく侵攻を続けていたシベリア発の冬将軍もさすがに撤退をはじめ、4月の声が聞こえた途端に、暖かな日々が続いてきた。
となると、僕の部屋から今シーズンの仕事納めを迎える“アレ”があるんだけど……
「……どいてもらえないだろうか。それがどかせない」
「……やーだー」
こたつに入り込んだまま篭城を続ける友人がひとり、ぼくの行く手を阻んでいた。
-こたつむり しんどろーむ-
「あのさぁ、もう4月なんだけど」
「そうなのよー。新年度始まっていろいと忙しくてねー」
「いやまあそれはぼくもあんま変わらない……いや違くて」
こたつ布団からぴょこんと顔だけ出しているのはシュールながら……まぁ、かわいらしい。
とはいえ、見とれているわけにはいかない。
「ほら、さっさとこたつ片すよ。もういらないんだから」
「だがことわるー。わたしが要るのー」
ちなみに、なぜ彼女がぼくの部屋でわざわざこたつむりになっているのかというと……
「私の部屋こたつ置けないんだもん。狭くて」
「いや、単純にきみが不精なだけでしょ。片付けなさいって」
なお、彼女の実家のこたつは早々に片付けられている。
「もういいでしょ? 寒くないんだからさぁ」
「寒い寒くないじゃないのだよ。こたつにあたっていたいのだよ」
だめだこの子はやくなんとかしないと。
「ほら、あったかいよ。いっしょに当たりなさいよ」
ぺしぺし、と自分が寝そべる傍らのこたつ布団をたたいて促す。
「何を自分のこたつのように振舞ってるんだよ……」
「ほらほら。みかんもつけますぜー?」
おもいっきり食べかけだよねそれ。まぁもらうけど。
「……ふぅ、しょうがないな……今日で終わりにするからね」
「んふー。話がわかる親友をもってわたしは幸せだねぇ」
「言ってなさい」
ため息混じりにこたつに入り込む。まぁ、急ぐことではないし。
「こたつには魔物がすんでいるのだよ明智君」
「誰が明智か」
まぁ、魔物がいるってのはあながち間違いじゃあないかも。このじんわりとしたぬくもりは、たとえそとが暖かくても抗いにくいものだ。
「あ、みかんなくなっちゃった」
「台所にいけばあるよ」
「わたしにここから出ろというのか、人でなしめ!」
なんでだよ……
「わかったわかった。じゃあぼくが取ってくるよ……」
「待てい」
もぞもぞと布団から出ようとするぼくを、彼女の手が抑える。
「君が出てったらあったかいのが逃げるでしょうが」
「どうしろと」
ぐいぐい、と服の裾を引っ張ってこたつの奥に引きずり込もうとする。伸ばされてはかなわないので、応じて引っ張られると。いつしかぼくも首までこたつにこもってしまう。
「今日はもうここでこーやってましょう」
「それでいいのか君は」
なんというか自堕落な……と小言を言うぼくをよそに、「あったかいからいいのさー」と鼻歌交じりにごろごろする。
「……まぁ、ね」
確かにあったかいのだ。それはこたつによるヒーターの恩恵だけじゃない。となりにいる彼女の体温が、ぼくの身体を温めているんだ。
「あふ……」
ふと、彼女があくびをかみ殺す。それにつられて、ぼくもふわっと大きく口を開く。
「ふふ。おっきな口だ」
「見るなよ……」
別段どうということはないはずだが、なんというか恥ずかしいものだ。
「んー……」
意識がゆっくりと沈み、まぶたがだんだんと重くなってくるのがわかる。
「あー、だめだ。こたつで寝ると……」
せめて電源は切っとかないと。そう思ってコントローラーに手を伸ばしかけたところで、視界がブラックアウトした。
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……まぁ、となれば風邪を引いてしまうのは自明の理であって。
「だがそれがぼくだけだというのが納得いかない」
「わはは。日ごろの行いの差だよ」
それが本当ならば神も仏もあったもんじゃないと思う。
「……む、失礼なことを考えているね?」
「さぁ、どうだろう」
というか、熱の所為で思考が安定しないのだが。
「ま、はやいところ治しちゃってね。君が元気にならないと……」
――そのこたつ、ずっと占領されっぱなしだもん。
ぼくよりこたつが気がかりらしい。まぁ、彼女らしいといえばそうなんだけど。
……そんなわけで、我が部屋のこたつは、当面お役御免とはいかないようだ。
-fin-
ちょっとあったかくなったころあいに思いつきました。その後すぐに寒くなったけどw
ちなみに、自分の家にこたつがなくなって久しいので、またのんびりあたりたいものです。田舎のじーちゃんちに行くしか!
しかし、このシリーズは割りと頭空っぽにしたほうが書きやすいかも知れませんねw
無論、おおまかな流れは事前に考えてはいますが。いちゃいちゃ(?)なやりとりは脳みそふっとばした方がさらっと書ける印象ですw