炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【#ときメモ】さみしがりやのJumping Smile【SS】


 ━━コンコン

 

コンビニの雑誌コーナーで立ち読みしていると、目の前のガラスが鳴った。視線を上げると、見知った女子生徒が手を振っている。
(ちょっと待ってて)とガラス越しに口パクで言うと、ぱっと店内に入って、俺の隣にぶつかるように滑り込んだ。

「ねーねー、何読んでんの?エッチなの?」
「いや違うよ!?」

表紙を見せる。何の変哲もないメンズファッション雑誌だ。

「え、なになに?なんかオシャレに目覚めちゃった?ちょっともー、早くゆってよ!…ん、こんなとこで立ち話もアレだしさ、これ買ってファミレスでお茶しながら一緒に読もーよ!」

ぐいぐいとレジに引っ張る彼女…朝日奈夕子にバレないように、俺はこっそり買おうと思っていたグラビア雑誌を棚に戻すのであった。


   -さみしがりやのJumping Smile-


「んー、あんたなら何が似合うかな~…黒系はシックでかっこいいけど、もーちょっとハデ目でもいいかなぁ…あ、アクセ!腕にシルバー巻くとかする?眼鏡は…似合わなそ―…」

ストローで吸い上げたメロンソーダが底をつき、「取ってくるね~」とドリンクバーに向かう朝日奈さんを見送り、俺はふと窓の外を見る。陽はとっくに沈むころ合いで、街灯もちらほらと点きはじめている。
ドリンクバー(と大盛ポテト一皿)で2時間ちかく粘っていると、そろそろ店員さんの視線が痛いころだ。もうじき夕飯の時間にさしかかる店側からすれば、さしたる売り上げにならない俺たちは邪魔以外の何物でもないだろう。

「ほい、あんたの分もとってきたよ」

いつの間にか俺の分のコーラのお代わりと一緒に帰ってきた朝日奈さんが、ずいっとお尻を押し付けて俺を席の奥に追いやりながら隣に座る。さっきまで向かい合わせに座っていたのに。

「…朝日奈さんって、門限とかないの?」

ふと気になって聞いてみた。自分の知り合いの女の子たちは(部活やってるかにもよるが)大なり小なり門限があり、夜はさっさと帰ることが多いが、朝日奈さんの場合は結構ギリギリ遅くまで一緒にいることが多い。
まぁ俺も未成年だし、少なからず門限があるけれど。

「んー…ウチ、パパもママも仕事遅いからさ。帰っても意味ないってゆーか」

そういえば前に公園でデートしたときにそんなことを言っていたっけ。共働きってやつか。

「今日は特に、二人ともちょー遅くまで帰ってこれないらしくってさー。しょーがないから道連れ探してたとこ」
「なるほど、それで今日は俺ってことか」
「そそ。女の子とじゃ、それこそ門限でさっさと帰られちゃうしねー」

ストローで俺を指して、にへっと笑った。
共通の友人である好雄からの紹介で知り合ってから、まぁそれなりに仲良くはなった方である。少なくとも月1で一緒に遊ぶくらいには。
普段から遊び歩いてるらしく、一度あんまりいい噂を聞かない男子生徒と遊んでるのを見かけてからは、ちょっと気にかけるようになって色々声をかけていたら、なんか懐かれるようになってしまった。

「…まぁ、男の子ならあんた以外とじゃ遊ばないけどね」
「何?」
「な、なーんでもっ」

思い切り息を吹き込んで、メロンソーダが泡立っていた。


 ・
 ・
 ・

 

さすがに遅いのと、いよいよ店員の視線に耐え切れなくなったのでファミレスを後にする。日はもうとっくに暮れていた。親にどう言い訳しようか…

「ごめんねー、遅くまで振り回してさ」
「…いいよ、別に」

まぁ、この子と過ごす時間は好きだし、門限破って怒られるくらいはどうということは無い。

「…送ってくれて、ありがとね」

気づくと、朝日奈さんちの玄関の前だった。いろいろしゃべりながら帰ってたから、あっという間だったな…

「…じゃあ、俺帰るね。おやすみ」
「ん、おやすみ…」

と言って振り返ろうとした俺の制服の袖がひっぱられて、振り返ると朝日奈さんがぎゅっと掴んだままだった。

「…帰れないんだけど」
「あ、ごめ…」

と言いつつ、手が離れない。暗がりの中では表情は見えないけれど、遠くの街灯ごしにうっすらと見えた口元が、真一文字にきゅっと閉じられているのはわかった。
ふと彼女の家の玄関を見ると、照明は全部消えたまま。さっき言った通り、両親の帰りが遅いのだろう。つまりこの子は、このあと暗い家の中で一晩過ごすことになるわけで…

「…もうちょっとだけ、居ようか?」
「…えっ?」

俺の言葉は、思いがけなかったものだったらしく、朝日奈さんが目を丸くする。でも同時にそれは、欲しい言葉でもあったらしい。驚いた表情が、ふにゃんと崩れた。

「…じゃ、じゃあ…お願いしよっかな?…えへへ」

袖をつかんでいた手が、そのまま腕に絡みつく。

…ああ、そうか。
俺はきっと、この跳ねるような笑顔にとっくにやられていたんだ。だから、その笑顔が見たくて…ついこの子を甘やかしてしまうんだろう。今までも…そしてきっと、これからも。

「今日…両親居ないから、さ」
「いや帰ってはくるんでしょ?遅いだけで」
「そーだけどー…へへ、言ってみたかっただけ」

流行りのドラマで先週ヒロインが言ってたセリフだな、これ…

「電話借りるね。ウチに連絡入れなきゃ…って、腕離してくれない?電話かけづらい…」
「んひひ…やーだよーだ♪」

にわかににぎやかになった玄関先が、照明もついてないのに明るくなった気がした。


 ・
 ・
 ・


その後、俺が何時まで朝日奈さんちにいたのかは…二人だけの内緒ってことで。

 

 

   -fin-

 

 


令和の世に「ときめきメモリアル」の二次創作ですよHAHAHA。

Twitter、もといXで先日公式で誕生日ということでクローズアップされていた朝日奈夕子嬢について、フォロワーさんのツイート…じゃなくてポストにて「実はさみしがり屋なのでは?」という発言にティン!ときていろいろつぶやいた結果、こうなりました。

一応PCエンジン版当時の時間軸の設定なんですが、当時のファミレスやコンビニの普及率は知らん(なんせ当時小学生ダンスィ…)。
まぁきらめき市ならあるやろ、伊集院家の城下町みてーなもんだし(雑

たぶん3年次くらい。いわゆる完全ときめきモード一歩手前くらいかなー(適当
4などと違って手をつなぐイベントとかは無いのですが、腕を組む…までは至らなくともだいぶ距離感は近い(というか朝日奈さん側からぐいぐいくるイメージ)かな。最終的に腕組ませちゃいましたが。

ときメモシリーズは今の自分を形成したといっても過言ではない作品なので、また機会があったらなんか書きたいです(`・ω・´)ゞ