炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【短編】なつぞら☆ぐらふぃてぃ<前編>【桜藤祭/こなた】

 わしゃわしゃ、しゃーしゃー、じーわじーわ。

 セミの大合唱が耳を劈くようになると、陽射しの強さ以上に、ああ今年も夏が来たんだなァ、と思う。

 額に滲む汗をTシャツの袖で拭い、俺は駅のコンコースで溜息をつく。

「遅いな……」

 予定の電車はあと5分ほどで到着する。しかし待ち人は未だ来たらず。

「あいつが一番待ち合わせの時間うるさく言ってた気がするんだけど」
 とげとげしいお言葉が背後から聞こえる。自販機で買ったらしいコーラを飲みながら、かがみさんがハデに溜息をついてみせる。まぁまぁ。
「つかささん、連絡きてない?」
 かがみさんの傍らで携帯を弄るつかささんに尋ねるが、彼女は首を横に振った。
「なにかあったんでしょうか…」
 心配そうな声はみゆきさんだが、何かあったならそれこそ連絡の一つも寄越そうものだろう。
 それがないってことは、多分今、すげー急いでこっちに向かっている。連絡する余裕もないくらいに。

「おっ、おっ、おっ、おまたせぇぇぇ~~~っ」

 …ほらね。

「いやー、ごめんごめん。電車がモロ混みでさぁ~」
「電車はこれから乗るんだけどな」

 息を切らせながらもボケをかませるこの余裕。
 さすがとしか言いようが無い。褒めないけど。

「さ、急ごうぜ。電車に乗り遅れっちまう」
「うんっ」
 差し出した手を、満面の笑顔で握る。

 彼女の名は、泉こなた

 ―――俺の、恋人。




   なつぞら☆ぐらふぃてぃ




 稜桜学園を卒業して、最初の夏。
 進路は分かれても、俺たちの友情は変わりなく。何かあれば集まって近況報告とかしたりしている。

 そんなある日、こなたの提案で、このメンバーで海へ行くことになったのだ。

 最初は二人きりの方がいいな…と思っていた俺ではあるが、人数が多い方がやはり楽しいと思う。F1レースだって1人でやるより2人もいいけど3人4人で…ってヤツだ。

「そういえば、なんであんな遅くなったの?」
 冷たいお茶を飲みながら一息つくこなたに尋ねる。
「んー、着るもの悩んでた」
 ちょっと照れくさそうに、微苦笑するこなた。その着ているものはというと、白いワンピースにベージュの帽子。いつもの活発なこなたからは想像のつかない、随分と落ち着いたスタイルだ。ヒマワリ抱えてるのとか似合いそう。
「あれ? そのカッコどっかで見たような…?」
 かがみさんが首をかしげると、こなたがうん、と頷く。
「お母さんが着てたヤツ。形見…っていうか、お下がり?」
 へぇ。
「随分前にお父さんから貰ってたんだけどね。なんとなく着るタイミング逃してて」
 改めてこなたの姿を見やる。なんというか、儚げな雰囲気。こなたがもともと小柄なこともあって、ものすごく繊細なガラス細工のようにも思えた。
「んー?」
 視線に気付いたこなたが目を合わせる。ちょっと照れくさくなって目を逸らすと、こなたは俺の腕を掴んで引き寄せる。
「はい、感想」
「……あー…うん。可愛い…デス」
 搾り出すように言うと、こなたも顔を真っ赤にして目を伏せた。

「はいはい。ただでさえ熱いんだから見せ付けないでもらえないかしら?」
 呆れ顔のかがみさんであった。


 それから。
 ババ抜きしたり、お菓子片手に雑談したりしながら、電車に揺られること数時間。

 トンネルを抜けると―――

「雪国だったー」
「なんでやねん」



 夏色の太陽に照らされた、大海原が俺たちを待っていた。


   -つづく-



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 ―――まぶしい太陽のキラメキのなかで 飛びきり熱いままで恋をしたいよ―――

 タイトルの元ネタはいきものがかりの07年8月のシングルより。曲の存在を知ったのはアイマスCDで亜美真美がカバーしたヴァージョンからだけどねー(トオイメ

 一方、今回のこなた私服のイメージは今月号(09年8月号)のコンプティークの表紙から。この表紙イラストは今作を書くきっかけにもなったシロモノ。創作のビジョンはいろんなとこからあるのです。アンテナアンテナ(何

 で、この衣装。作中ではかなたママのお下がりってことにしていますが、実際にかなたママが着ているシロモノとはびみょーにデザインが違ってたり。
 ま、あくまで元ネタなので気にしない気にしない。

 気にしないと言えば埼玉(たぶん)から海に行く電車のルート。調べる時間とかあんまりなかったのでホントにテケトーです。地元民からのクレームは受け付けようがありませんごめんなさい(弱