スイリョクタウンに戻り、一目散にゼイユの実家へ。玄関の前で待っていたおじいさんが、慌てた様子でぼくたちを出迎えた。
「鬼さまのお面を…スグリが持って行ってしもうたんじゃ」
「ええっ!?」
おじいさんによると、ともっこプラザに向かったらしい。
「ヒイロ、あんた鬼のことスグにしゃべった?」
「まさか!」
「…いや、ごめん。あんたが言うはずないよね」
何度か言いそうになったのはあるけど…一応ゼイユとおじいさんとの約束もあるわけで。
「きっと…おまえたちが追いかけてあげるのがよいだろうな」
「うん…そうだね。ヒイロ、行こ!」
ぼくたちはコライドンにまたがり、ともっこプラザを目指す。
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「スグ!あんた何してんの!?」
スグリはともっこプラザの奥…ともっこたちが祭られている祠の前にいた。
「…ふたりは、知ってるよな?鬼さまが本当は悪くないってこと。本当に悪いのはともっこたちなのに、みんな鬼さまをのけものにしたこと!」
ぼくたちに背を向けたまま、その言葉には少しずつ怒りと悲しみが混じっていくのが聞こえて。
「ねーちゃんも…ヒイロも…同じだよな?」
振り返って見つめてきたその瞳を、ぼくは直視できない。
「おれをのけ者にして、内緒で鬼さまと会ってた!!」
「ご、ごめんスグ、でもそれは…」
「昔の村の人といっしょだよ…おれが鬼さまのこと、どんだけ好きか知ってるくせに!」
嘘つき!嘘つき!とスグリが髪をかき乱しながら叫ぶ。その様子は、出会って間もないぼくですら違和感を感じるくらいで…
「スグ…あんたどうしたの?今日…なんか変だよ?」
姉であるゼイユもまた、その違和感を口にする。
「…ヒイロ」
少し落ち着きを取り戻したスグリが、じっとぼくを見た。
「おれと勝負して。ヒイロが勝ったら…お面は返す」
どうしても収まらない、とスグリが言う。
「ヒイロ、聞いてあげて」
それで彼の気が晴れるのなら。とぼくは頷いてスグリと相対した。
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「おれ、全力でぶつかるから…いけ!ヤンヤンマ!」
「悪いけど、お面は返してもらうよ…お願い、マスカーニャ!」
これまでの道中でさらなる進化を遂げた相棒を呼び、向かい合う。
昔読んだマンガで、拳を交えて心を通わせる…なんてことがあったけど、ポケモンバトルでも、きっと同じことができるはずだ。
「悪いとは思ってる…でも、ゆずれないんだ!グライガー!」
爪の一撃をかわして、煌めく木の葉の嵐をみまう。次なる相手はニョロゾだ。
「まだ挽回できる…けっぱれ…けっぱれ…!」
拳を止めた矢先に、飛び込んできたウッウのクチバシがエルダを襲う。効果はバツグンだ!
「今の…効いてるよな?ヒイロに勝てる…勝つ!たたみかけろカミッチュ!!!」
「くっ…こらえてエルダ、トリックフラワー!」
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「どうしても…とどかない…」
音がするくらいに歯をかみしめて、スグリが俯く。ぼくの思いは、勝負を通じて伝わっただろうか。
「…うぅぅ…うわああああっ!!!」
絞り出すように声を張り上げ、背を向けたスグリは…ともっこを祀った祠を思い切り殴りつけた。
「スグリ!」
「痛っ…」
いやそりゃ痛いよ…石の柱だもん。
「スグ…大丈夫?」
ケガしてないかと近づくゼイユに首を振って、ポーチからお面を取り出す。
「…約束、だから」
鬼の面を、押し付けるようにぼくに返して。
「スグ、あのね。あたし、あんたにあやま…」
「…帰る」
少し力の抜けたような声でそう言って、スグリが逃げるように走り去っていった。
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「ごめん、いつもはあんな子じゃないんだけど…男の子の思春期ってみんなあんな感じ?」
去っていくスグリの背中を見送って、ゼイユが呟く。
「いやまぁ、個人差?はあるんじゃあないかな…」
ぼく自身、思春期と呼ばれる時期の年頃ではあるけど。
「だよねー。思春期でグレるとか経験ないし、まいっちゃうわ」
ただスグリの場合、思春期うんぬんというよりは、仲間外れにされたことや嘘をつかれたことが刺さったんじゃないかなとも思う。例えば、ぼくもアカデミーの友達…ネモやペパーにそう言うことされたら傷つくだろうし…短い付き合いだけどそんなことする子たちじゃないとは知ってるけどね。
「そうよね…ヒイロはスグにとっては数少ない友達だし、そんなあんたに裏切られたって思ったら…うん」
だとしても少し友達ってもんに幻想抱きすぎじゃない?とゼイユがぼやいた。
「まぁ、しばらく一人にしてあげま…」
━━カタ…ガタガタガタ!
そうゼイユが言いかけたところで、後ろから物音がした。さっきてらす池で遭った地震…とはちょっと違う、地響きというか…何かが崩れていくような音…?
「…ともっこ像から?」
少しずつ音が大きくなってくる。僕たちがみている前でともっこの石像に亀裂が入り…爆発した!?
「いったい…何が起こってんの…!?」
もうもうとたちこめる砂煙の向こうで、なにか動く影が見える。少しずつ煙が晴れて…あ、あれは…?
「えええええええーっ!!?」
ぼくたちの目の前に現れたのは3匹の…ポケモン?
「な、なんなの…?」
「像と同じ姿…まさか…ともっこ!?」
「ええ!?なんでよ?あいつら伝承だと死んだことになってて…え、嘘!蘇ったの!?なんで!?」
こんらんするぼくたちをよそに、3匹はなにやらひそひそ内緒話をして…その場からばっと飛び出していってしまう。
「あっちは…キタカミセンターの方だよね」
「なんかヤバくない?ヒイロ、追いかけよ!」
コライドンに乗り、ぼくたちはともっこプラザの高台から飛び降りた。
-つづく-
実はこのイベントの直前に迷ってキタカミ原生地域に入っちゃったもんだから高レベルのポケモンと戦う羽目になってパワーレベリングした結果スグ瞬殺しちゃったのは密に…密に…
ポケモンバトルって、僕が他に手掛けているRPGのリプレイと比べるとパーティプレイがない(1対1なので)戦闘シーンの描写が結構難しい気がする…アニポケだとうまくいくのになぁ…💧
この辺は今後も(特に本編で)どんどこやるのでまぁ慣れるしかないかなー。各ルート中盤戦まではごり押しできそうなのがなんともだけどw