「また動画作りですか？」
オーナーの呆れ声を聞いて、シバタがくるりと振り向いた。
「宣伝は重要ですよ？なにせ我々は再スタートしたばかり…オーディエンスは多少増えましたが、まだまだお金を落としてくれる”サポーター"は出てきておりませんから」
「今はさほど気にしなくてもいいのではなくて？その…課金？とかいうシステムを組み込んでいるのでしょう？」
元来のデザイアグランプリにおいて、サポーターと呼ばれる特別なオーディエンスが存在した。彼らはみずから“推し”と称するプレイヤーに対し、シークレットミッションなどの形で戦力となるバックルを提供するなどの援助を行っていた。その際の売上は運営に還元され、さらなる運営資金として用いられてきたのだ。
しかし、旧運営陣がいなくなった＝デザイアグランプリが一度消滅したことでもとからいたサポーターはおろかオーディエンスもその殆どが離れてしまい…これについては旧運営陣の強引な運営手法が問題視された結果でもあるが…新たにデザイアグランプリを始めた今においても、まばらなオーディエンス…それも金を落とさない一般視聴者ですら確保が困難な状況であった。
「ええ。その御蔭でこうやってプロモーション活動を行うだけの資金は確保できたところなんですよ。オーナー様のポケットマネーでは、運営資金だけでカツカツでしたからねぇ…」
売上を出すつもりはないんですか？と問うシバタに、オーナーは「興味ないわね」と一蹴する。
「いずれ立ち行かなくなりますよ？異世界への渡航や干渉にも先立つ物は必要ですからねぇ」
「じゃあそのあたりは貴方の手腕に期待しておくわ」
丸投げですか…とシバタが聞こえないようにぼやいた。
「ところで…プレイヤーたちはみんな元囚人よね？課金するといったって、どこからその資金が出ているの？」
「国庫、ですよ。プレイヤーたちが王を務める国の、ね」
デザイアグランプリの舞台となっている５王国には、当然その国を運営するための金が大なり小なり存在する。彼らが課金と称して落としている金は、国の富そのものなのだ。
「その気になれば無尽蔵にお金を落としてもらうことも可能ですが…まぁ使いすぎて守るも攻めるもできなくなったら元も子もありませんので、そのへんはまぁ各プレイヤーの裁量ですねぇ」
ちなみに、万一プレイヤーが脱落してもそれまで支払われた金額はしっかり国庫から抜かれるらしい。
「すでに戦力としてバックルやジャマトを購入し実装しているプレイヤーもいますよ」
前者は、各国の王から力を奪う際に自身の戦力を補強するため。後者はンコソパのように兵力の存在しない国…つまりシュゴッタム以外だが…の兵力として主に用意されるという。
「もっとも使い方は人それぞれですがね」
「…あら、まったく手を付けてないプレイヤーも居るじゃない」
オーナーが各プレイヤーの課金履歴から目ざとく空白を見つける。そのプレイヤーはバックルもジャマトの導入も行っていないようだった。
「使っているのはプレイヤー全員に配布されている一つくらいですねぇ。それ以外はほぼ丸腰…まぁ、折角エクスギーツなんて御大層な名前をつけたんです。これくらい強気でいてくれたほうがハクもつくってもんですがね」
「ギーツを超越するもの、ねぇ…あまり耳障りの良い名前とは思えないけれど」
「おや、最強のデザ神のお名前はお気に召しませんか？」
あまりいい思い出はない、と首肯する。とはいえ、あやかっただけあってそれなりにオーディエンスも期待を向けている事実を受け止め、オーナーはこれ以上の小言を打ち切った。
「もっとプレイヤーの動きを活発にさせなさい。これ以上準備で展開が停滞すれば、オーディエンスもダレてきます。彼らは大きな変化を求めているのだから」
「ええ、少し発破をかけておきますよ…」
くつくつと、マスクの下で笑い声がくぐもった。
－つづく－
再び登場黒幕コンビ。前回でちょろっと出てきた「課金」についての説明回。
TVシリーズでは、デザイアマネーという概念がありましたが、あれはプレイヤーの活動時間に応じて配布される、ソシャゲでいう無料石みたいなもんでしょうか。
デザイアマネーではバックルやドライバーの購入はできず、ウェアや飲食物などのゲームを左右しないアイテムのみの購入に使用可能。
一方課金とはリアルマネーをぶっこむことでバックル等を購入できるシステム、ということで作中では説明させてもらっております。
一応、カタログ的なものが各プレイヤーに配布されていて、必要に応じて購入可能。デザグラ本家の未来の地球とチキューの経済事情はよくわかりませんが、その辺はなんかこう適当にうまいことトレードされるんだと思います。多分（雑
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