━━カタカタ、カタ…
ンコソパ国の中枢・ペタ城のメインルーム兼謁見の間に、キイを叩く音が響く。
「今度こそ…」
つぶやいた男の指先がエンターキーを弾く。しかし次の瞬間に鳴るのは、エラーを告げるビープ音であった。
「…っは、いい加減諦めたらどーだタコメンチ?」
ふわりと浮かぶモニターシュゴット越しに、ンコソパ総長ヤンマ・ガスト…今は”元”がつくが…が鼻で笑って見せる。
「テメー程度のハッキングスキルじゃあ、このセキュリティは抜けねーよ。仮にも王様を守るためのシロモンだぜ?」
「…ちっ」
キーボードを放り捨て、蒼い装甲…トンボオージャーのそれを纏った男が苦々しく舌打ちをした。ンコソパのシステム再起動と同様、緊急退避用に造られたこの小部屋のアンロックには、総長であるヤンマ・ガストと、その側近たる青年シオカラの生体認証が不可欠なのだ。
「オレの力を奪ったのは褒めてやるが、先にシオカラを確保できなかったのは悪手だったな。だから詰めが甘ぇっつーんだよ…メーガ・ネーウ」
「…気づいていたか」
腰に備わったベルトから、オージャカリバーを模したバックルを取り外すと同時に、王の鎧がほどけ素顔を露にする。やや無造作に伸びているが、それでも丁寧に撫でつけられた黒髪の青年が、少しずれた眼鏡を直しながらモニターを見る。
「…たりめーだ。"あの時"と全く同じ手口でハッキング仕掛けやがって。ワンパターンが過ぎんだよスカポンタヌキ」
ヤンマが吐き捨てるようにつぶやき、モニター越しにメーガをにらみ返した。
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「メーガ・ネーウってのは、今から15…あ、いや16年前に、新しい総長を決めるハッキングタイマンでヤンマくんと最後まで争った相手っす」
「それがこのンコソパにいるプレイヤー…仮面ライダーというわけだね」
シオカラによると、そのハッキングタイマンにおいて禁じ手とされる、コンピュータウイルスを用いて勝とうとしたことで(それでもなおヤンマ・ガストに敗北を喫したのだが)国外追放にされたのだという。
「そのあとはほかの国でも同じようにコンピュータウイルスを使ったハッキング事件を繰り返すようになって、最終的に捕まって牢屋にブチこまれた…とは聞いてたんっすけど…」
「おそらく、彼を開放したのはこのデザグラを始めたゲームマスターだろうね」
過去のデザイアグランプリでも、あまり褒められない生き方をしてきたプレイヤーがエントリーした例はいくつかある。犯罪者というのは得てして欲深い存在であり、欲望の意を冠したゲームにはうってつけの人材なのだろう。
(この僕も含めてね…)
と小さく自嘲する大智のつぶやきは、シオカラには聞き取れなかった。
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「手こずっている様子ですね…メーガ・ネーウ様」
「…ゲームマスターか」
モニターシュゴットを追い払い静かになった謁見室に、ペストマスクを被った男がするりと現れる。
「初手でこの国のネットワークを介し、インフラを掌握することでチキューの統一を完了する…というのが貴方様の攻略手段でございましたが…首尾はよろしくなさそうですねぇ」
「馬鹿にするな。まだプランは残っているんだ」
「すでに他の国のプレイヤーも動いておりますゆえ…あまり悠長にはしてられないと思いますが…」
「わかっているよ…」
ゲームマスターの進言は至極当然といえた。これはターン制のビデオゲームの類ではない。リアルタイムで事が進んでいるのだ。今はまだ動きがないシュゴットの軍勢や、未だ遠いとはいえ、ゴッカンから解き放たれた囚人連中もいずれこの国をターゲットにする可能性もどんどん高まっていく。兵力がシュゴットからの防衛派遣前提のンコソパには自衛手段すら乏しいのだ。もっともそれは他国も同様ではあるのだが。
「わたしのオススメした、ジャマト兵団の導入、いかがいたしますか…?」
「あんたが売りたいだけだろう。それに、お試しでと買わされた個体、さっき生体反応がロストしたぞ。人一人拐ってくることもできないのか、あの怪物は?」
逃走したシオカラの確保と戦力把握のために、1体だけ購入したというメーガが訝しげな視線を向ける。
「まぁ、しかたありませんよ。あれはジャマトの中でも最下級のポーンクラスゆえ…単騎であれば非戦闘員でも数人がかりでなら無力化が可能な程度の戦力でしかありません」
「つまり、戦力にするならもう少しグレードが上の個体を多数使え、と」
「まぁ端的に言えばそうなりますねぇ。どうやら敵は…他国の王様だけとも限らないようですし…」
侵入者の存在を告げると、メーガは片頭痛を抑えるようにこめかみをさすった。
「…いいだろう。あんたの口車に乗せられてやる。もう2…いや3段階上の個体を、一個大隊単位で…課金しよう」
「そうこなくては…!お買い上げ、ありがとうございます…」
恭しく頭を下げ、ゲームマスターは影に紛れかき消えた。
-つづく-
ペタ城の現状と、先んじてプレイヤーの正体を一人お目見え。
一応キングオージャー世界の住人なので、ネーミングはそちらのルールに従って(?)ネタ元はメガネウラと呼ばれる古代の大トンボです。ちなみにメガネかけたキャラですが、このトンボはメガ・ネウラであってメガネ・ウラではないので念のため(何
ンコソパのチキューにおける立ち位置や、非常時における対応やその過去等、独自解釈が多々ありますがご了承をば。今後本編で何かしら明かされても変更するかどうかは微妙…わりと二次設定ありきの作劇してますので(
さて、今回「課金」というこれまでのデザグラにはない要素も出てきております。このあたりは次回の幕間にでも。