何もない空間で、二人の仮面ライダーが並び立っていた。
動物の面ではない。無機質な機械のような…あるいは眼球のようなマスクは、運営サイドが使用するいわゆるGMライダーと呼ばれるタイプだ。
「…!」
先に仕掛けた一方…上半身にマグナムバックルの装備を纏ったGMライダーが拡張装備たるマグナムシューター40Xを撃ち放しながら突撃する。もう一方…エクスギーツが用いていたものと同系統の槍型の武器を構えたは、その銃撃を槍でいなしながらそれを迎え撃った。
「…はっ!」
すれ違いざまのクロスレンジ、頭部を狙って放たれた弾丸は明後日の方へと飛び去り、マグナムフォームの装甲には槍の穂先が突き立っていた。
「…こうですかね?」
エクスギーツがやったように、石突に備わったレバーを、さながら注射器のように引き上げると、相手のライダーが装備していたマグナムフォームは0と1の破片となって霧散する。
「…!…!?」
慌てて再度マグナムバックルを起動するが、乾いた回転音が虚しく響くだけだ。一方、マグナムフォームを吸い出したやりの方はぐねぐねと輪郭を歪め…それはもうひとつのマグナムバックルへと姿を変えるのだった…
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「興味深いレイズバックルですねぇ」
奪い取ったマグナムフォームの姿から変身を解いたのは、異世界デザグラのゲームマスター・シバタであった。
「丁重に扱いなさい。制式採用が見送られた所為で、試作された6つしかこの世に存在しないのだから」
「おっと」
オーナーの小言に、シバタがおっかなびっくりドライバーからバックルをはずすと、手にしていたマグナムバックルも煙のように消え失せた。
「試作品だから強度も制式採用のバックルより脆いのよ。小型バックルの拡張装備の必殺攻撃だとしても、当たりどころが悪かったら破損しかねないわね」
「それはまた…しかし、これだけ面白いバックル、なぜ制式採用が見送られたのでしょうねぇ?ゲーム性も上がって盛り上がると思うのですが…」
「単純な話よ。相手の装備を強制的に奪う行為が、プレイヤー同士の直接的な戦闘行為とみなされたから」
デザイアグランプリのルール上、プレイヤー同士の直接戦闘はペナルティ対象となる。その制約が取り払われたデザイアロワイヤルであれば採用の目はあったのかもしれないが、どうやら実装には間に合わずグランドエンドを迎えたらしかった。
「なるほどですねぇ。しかしその御蔭で、この私が運営している異世界デザグラが使えるようになったのですから、人生どう転ぶかわからんものです」
シバタが感慨深げに、アームドジャッカーバックルを眺める。
「そういえばこの装備、聞いた話によりますとギーツたちが参戦したデザグラが行われた時代…それより少し前に存在したという仮面ライダーの武器が元になっていると?」
シバタの問いかけに、オーナーは「どこで聞いたのやら…」と呆れ顔でぼやく。
「まぁ、概ね事実よ。奴らの生きている時代…確か、【レイワ時代】と呼ばれていたかしら?その前後…たとえば【ヘイセイ時代】なんかにも、仮面ライダーはいたと聞くわ。小型のレイズバックルに使用されている拡張装備は、その時代の仮面ライダーが使用していたとされる装備を、この時代の技術で再現したものよ」
「ほほう…デザイアグランプリのプレイヤー以外にも仮面ライダーと呼ばれる戦士が存在していたとは…」
遥か遠い昔に思いを馳せるシバタであった。
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「しかし、いくらデータ化したうえで物質化させているとはいえ、同じデザイアグランプリで使われるアイテム同士ならいざしらず、別の世界の別の文明…全く異なる技術で生み出されたものまで再現するとは…いやはやデザグラ運営陣の技術力には感服いたしますな」
「嫌味にしか聞こえないわね…我々にもできなかった異世界への干渉を実現させた貴方が言っても」
おっと失敬。とシバタが含み笑いを浮かべた。
「ただの再現じゃあないわ。文字通りの完全再現…いまプレイヤーたちが纏っているのは、正真正銘あの世界の王たる力よ」
「ええ。故に彼らはあの世界で王たりえている…故にこの異世界デザグラが成立している…といっても過言ではない」
「もっとも、その分扱いには細心の注意を払う必要はあるけれど…あなた、ゲームマスターとしてしっかり教えておきなさいよ?」
「ええ、それはもう、ぬかりなく…」
手の中のレイズバックルを弄びながら、シバタの視線は今まさに戦端が開かれようとしているンコソパへと向けられていた…
-つづく-
随分と説明口調になってしまいましたが、ようやっと今回のオリジナルガジェットについての情報をお出しできました…
名称は何度か登場していますが、アームドジャッカーレイズバックルとその拡張武装たるレイズジャッカー。
作中ではほのめかす程度にしていますが、そのネタ元は「仮面ライダーゼロワン」に登場したサウザンドジャッカー。データを吸い出したレイズジャッカーそのものをレイズバックルに変化させる、というのはオリジナルギミックですが。
他にも小型バックルの装備が、過去のライダーの武器を参考にしたことを示唆していますが、このあたりはいわゆる二次設定ということで…まぁ、ハンマーとかシールドとか、みなさんも周知の通り歴代ライダーの装備のリデコだったりするんで、存外ホントに参考にしてるかもしれませんw
さて、世界観およびオリジナルギミックの説明用に(身も蓋もねえ)書いていた幕間回も、多分ここらで打ち止めですかね…?シバタはまだまだ出番の予定がありますが、オーナー女史は果たしてどうなるか。しばらくはがっつり本編の予定ですので、どうぞお楽しみに。