アジト跡から、ボタンと別れて先へ進む。とっぷりと暮れた夜の道を歩いていくとやたら明るい街を見つけた。あっちは…ハッコウシティか。
この先のジムなら、今の腕試しに丁度いいかもしれない。そう思ったぼくは、まるでそこだけ昼間のような街へと向かうことにした。
さぁ、今回のジムチャレンジはなんだろう…?
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「ハッコウジムのジムテストは…ナンジャモの番組出演です!」
「…なんですって?」
ハッコウジムのジムリーダー・ナンジャモは動画配信者としての顔も持つ。というかこっちが本業?
それはともかく、どうやらぼくにゲストとして出演して、番組を盛り上げてほしいらしい。…え、これどうやったらクリアなの?盛り上がらなかったらダメなの?
どうしたものか…と考えながらジムを出ると、どこからともなく女の子の声が響き渡った。
『皆の者~!ドンナモンジャTVの…時っ間っだぞ~!』
「なっ、なになに!?」
いつの間にか僕の前にはふよふよと浮かぶスマホロトム。おそらくはこの子が撮影しているのだろう。…って、え?もう始まってるのコレ!?
『あなたの目玉をエレキネット!何者なんじゃ?ナンジャモです!』
おはこんハロチャオ!と声をかけられ、反射的に同じ言葉を返す。少し前に受けた言語学の授業がこんなところで役に立つとは思わなかった。
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どういう経緯か同じく番組に出ることになった校長…ちょっとリーゼントの名残が残っていることは黙っておいた…を探すことになり、どうにか見つけることに成功する。配信中の番組をこちらから確認することはできないが、どうやら盛り上がっているらしい。
『フヒ…!ヒイロ氏のおかげでチャンネル登録数はシビルドン登り…じゃなくて、ジムテスト、クリアーだ!』
受付においでませませ!と促すナンジャモさんに応えて、ぼくはジムの建物へと戻った。
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「本日の挑戦者氏は~?今や飛ぶカイデン落とす勢いのヒイロ氏だ~っ!」
番組の撮影は終わったと思っていたのだけれど、ジム戦はジム戦で番組にしてるらしい。スマホロトムのカメラがこちらを向いたので、おっかなびっくり手を振ってみる。
「んでんで?ヒイロ氏~?今のお気持ちを、どうっぞ!」
「え、ええと…が、がんばります!」
「はいドモ!ありがと~っ。んー、素直なコメントは好きだけど、ちょろっとカタいよ~?ほれほれ、コイルみたく笑ってみ~?よーし、皆の者への掴みもバッチ!」
ひととおりいじられたあと、ナンジャモさんがぴょこぴょことバトルコートの反対側へと駆けていく。ようやくバトルに移れそうだ。
こういうの、どうやらぼくは苦手らしい…と実際に体験して初めて認識する。ひょっとしてこれはナンジャモさんの巧妙な罠なんじゃ…
「ほんじゃ、そろそろいってみよう!挑戦者氏の実力は…どんなもんじゃ~!?」
ひらひらと踊る長い袖が、どうやったらそうできるのかモンスターボールを構えて放り投げる。
「カイデン、オンステーィジ!」
「ええいっ、切り替えなきゃ!誰を出そうか…わっ!?」
出遅れて今回のパートナーを呼ぼうと思ったら、ボールから勝手に出てきたのは、少し前に進化したばかりのゼイユだった。戦いたいの?
「がうっ!」
「おーぅ?ボクへの挑戦者氏たち、みーんな地面タイプ使いがちなのに意外なチョイス~?これは映えるバトル配信できるかも!?そんじゃ、視聴者氏たちが楽しめるよーな、シビれるバトりをよろしくね~!」
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実は"あなをほる"を覚えさせているぼくのゼイユ。初手のカイデン戦はともかく、続くハラバリーとルクシオは危なげなく撃破。よくがんばったね、ゼイユ!
「ゲゲッ!ちょっぴりピンチかも!?皆の者!ボクへの応援してして~っ!」
残り手持ちはあと1匹。そんな状況でもこの余裕は、さすがにジムリーダーだけはある。さて…ここまでのパターンだと、でんきタイプは関係ないポケモンをテラスタルして切り札に使ってくる傾向だけど、ナンジャモさんは…?
「そんじゃあ…おいでませ♪ ムウマージちゃーん!」
まさかのゴーストタイプ!?
「いでよヒラメキ豆電球!ナンジャモの底力…見せちゃるぞッ!!」
ナンジャモさんのテラスタルオーブが稲妻のように輝き、ムウマージを包み込む。その閃光を利用した"あやしいひかり"がゼイユの目をしばたたかせ、混乱させてしまった。
「まずいっ!?ゼイユ、ふんばれ!」
混乱対策の道具は持ってるけど、あいてがそれを使わせてくれるヒマは…
「いくぞ電撃注意報!ビリっときたらごめーんね…!ムウマージ、"チャージビーム"!」
「やっぱりないよね…!ゼイユ!相手の攻撃を受け止めて!」
ふらふらしながらもゼイユがチャージビームの直撃を受ける。テラスタルで強化されたでんきタイプの技だけど、うまくゼイユの毛並みが散らす。攻撃の衝撃で混乱も回復…とまではいかないけれど、しびれで少し収まってきているようだった。
「確かムウマージの特性は【ふゆう】だっけ…地面タイプの技は当たらない…だったら…!」
「んー?どうするどうする?キミならどうする挑戦者氏~?」
「こうする!ゼイユ…"ほのおのキバ"!!!」
パチパチと爆ぜる視界の中で、どうにか混乱を振り切ったゼイユが灼熱の牙をむいた!
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「やった!倒したよゼイy…うわっ!?」
勝利を喜んでいるのか、はたまたまだ混乱が残っているのか、終わったとたんにゼイユがこっちに振り向いてとびかかる。
「ちょっ、待っ…こ、こらゼイユ…く、くすぐったいってば!?」
押し倒されたぼくはなすがまま、ペロペロなめられるままだ。
「あのあのー、お取込み中ゴメンなんだけどさー…立てそう?」
「わっ!す、すみませんっ!」
ナンジャモさんの手…というより袖に掴まらせてもらい起き上がると、スマホロトムの方へ首を回された。
「はーい!そんなわけで、勝利したのは挑戦者のヒイロ氏でした~!…ゼイユちゃん?のよだれで顔ベッチャベチャだけど…拭く?」
「あはは…」
ジムのスタッフからタオルを借りて、改めて勝利を記念した一枚をパシャリ。
「ボクらの熱いバトりにビリビリっとキタ人は~?チャンネル登録、よっろしっくね~!」
「…うん?」
この時のナンジャモさんの言葉を聞くまで、ぼくはこれがネットで全世界に配信されてることをすっかり忘れていたわけで…
-つづく-
というわけでハッコウジム戦。ドオー連れてくと完封できるという話は小耳にはさんではいましたが、本編時空に入るにあたってボックスに預けてしまっているので今回は出番なし。いずれ再選の機会があれば。
ゼイユことグラエナをメインにしたのは、まだ見せ場作ってあげられなかったのも一つありますね。あと追々執筆予定の番外編のネタ作りも兼ねて。
他のキャラクター同様、セリフの追加やアレンジマシマシにしてるナンジャモですが、なかなか口調のエミュレートが難しいでござる…まぁこの辺は今後の課題ですね。がんばろ。