炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【#ポケモンSV】ぼくの冒険レポート:番外編③〜ゼイユとゼイユ【#ポケモンと生活】

近くアカデミーで中間試験が始まるので、一度寮に帰ってテスト勉強。
これまでの授業内容をおさらいしていると、スマホロトムに着信が入る。ゼイユだ。

「もしもし?どうしたのゼイy…」
『あんた何考えてんのよッ!!?』

通話に出るなり、顔を真っ赤にしたゼイユの強烈な怒声が鼓膜を大きく揺らした。な、なにごと…?

「ぼく、なにか怒らせることしたっけ…?」
『したわよっ!』

ゼイユから初めて連絡がきたあの日以来、通話やメッセージアプリなどでよくやり取りをしてるいるけれど、別にケンカに発展するようなことはなかったと思うけど…

『…あんた、この間ハッコウシティってとこにいたでしょ?』
「ああうん、ナンジャモさんって人とジム戦をやって…よく知ってるね?」
『それよ!あんた、そのジム戦でどのポケモン出した?』
「どのって、そりゃゼイユグラエナ…あ」

そういえばあのジム戦はナンジャモさんの番組として全世界に配信されているんだっけ…ということはつまり…

『そーよ…あんたがグラエナ相手にあたしの名前を散々連呼してたのが、全世界にお披露目されてるのよ!とーぜん、あたしのいるブルーベリー学園…イッシュにもね!』
「うあ…」
『うあ…はこっちのセリフ!バトルのたんびにゼイユゼイユって連呼するわ、しまいにゃバトル終わりに押し倒されるとか…!その場にあんたが居たら手ェ出てたわよ!?』

ドンナモンジャTVをよくチェックしているというゼイユは、たまたまぼくが出ていた回を級友と一緒に(ぼくの紹介がてら)観ていたらしい。つまり、みんなの前で自分の名前をポケモンにつけている異性の友人ボーイフレンドの姿を見せてしまったわけで…

「あれからみんな、超生暖かい目であたしを見てんのよ!ああもう、恥ずかしすぎてもうお嫁にいけない…!」

オーバーだなぁ…と言いかけたが、久しぶりにものすごい勢いで睨みつけられたのでやめておく。

『こうなったら…あんた!責任とんなさいよね!』
「せ、責任…!?」

どうすればいいの?ナンジャモさんみたく配信者になって謝罪配信でもしたほうがいいのか…やったことないからわからないけど。

『いや、別にそれはいい…っていうか余計にこじれそうだからやめな』
「じゃ、じゃあ…どうしたらいいの?」
『それくらいあんたが考えなさいよ…』

と言われても…と頭を抱えていると、ぼくの通話相手の名前を自分と間違えたのか、ポケモンの方のゼイユがボールから出てきた。

「わっ、ちょっとゼイユ勝手に…」
『なによ?』
「あーいや、そっちじゃなくてこっちの方…」
『ややこしいわねもう…』

とりあえず大人しくしてて、とゼイユ(ポケモンの方)をさとしていると、スマホロトム越しの方のゼイユが頬を膨らませていく。

『…ずるい』
「え?」
『その子ばっかり名前呼んでるのずるいって言ったの!』

え、ええ~…

『決めた!あんたへのバツ!今ここであたしのこと呼びなさい』
「へ?」
『だってあんた、あんまりあたしのこと名前で呼ばないじゃない。林間学校でも三日も一緒にいたのに10回くらいしか呼んでないし』

数えてたんだろうか…?

『その子のことは毎日何回も呼んでんでしょ?あたしのことも呼びなさいよ!』
「わ、わかったよぅ…」

とはいえ改めて女の子の名前を呼ぶのは抵抗あるなぁ…これがネモとかボタンとかならそこまで身構えないんだけど…なんでだろ?

『…そこで黙んないでよ、なんかこっちまで恥ずかしくなるでしょー?!』
「そ、そう言われても…」
『あんたその子のことさんざんあたしの名前で呼んでんだから今更でしょーが』
「いやそれはそうなんだけど…うぅ」

ぼくも恥ずかしいが、ゼイユ自身も相当恥ずかしいんだろう。耳が赤い。

「…よ、呼ぶよ…?」
『…か、かかってきなさい!』

深呼吸して、画面ごしにゼイユの目を見て…口を開く。

「…ゼイユ」
『!』

ぼくが彼女を呼ぶと。身構えていた細い肩がびくっと震えた。表情を見ると、嬉しそうな恥ずかしそうな、色んな感情がまぜこぜになっているような顔。

『も、もう一回言いなさいよ』
「ま、また?」
『声が固いからやりなおし!あんたんとこのみたく、もうちょっと優しい感じで言ってよ』
「や、優しい感じって何…?じゃ、じゃあ…」

…そんなこんなで、十数回はゼイユの名前を呼ぶことに。

『…♪』

まぁ最終的に本人が楽しそうにしてたから…いいかな。

 

 ・
 ・
 ・

 

『あ、いっけないもうこんな時間!早く寝ないとあたしの美貌がピンチだわ!』

シンデレラタイムとか気にしてるらしい。

『今更だけど、遅くまで付き合わせて悪かったわね。テスト勉強してたんでしょう?』
「はは…いいよ。いい気分転換になったし」
『そう?それならいいけど』

通話を切ろうとしたところで、ゼイユがちょいちょいと手招き。「なに?」と顔を近づけると…

 

   ━━おやすみ…ヒイロ

 

スピーカー越しの、吐息混じりにぼくの名前を呼ぶ声が鼓膜に飛び込んで、思わずとびのいてしまう。ドキドキしながら画面を見ると、いたずらっぽく笑ったゼイユが手を振りながら、通話を切った。

「…それはずるいよ、ゼイユ…」

今日はもう、テスト勉強は手につかなさそう…

 

 

   ―つづく―

 

 


というわけで、少し前のナンジャモ回に関連した後日談でした。

まぁ人名と思しき名前をつけるのはリアル文化でもフツーにありますが、例えて言うなら、それが「きょうのワンコ」あたりで全国放送されて、名前の由来になった人物が周囲にバレて悶絶するような感じかもしれない。しかも事情を知ってる人が多数いる中でそれを見る羽目になったゼイユの心中やいかに。

作中でゼイユが林間学校中10回くらいしか名前呼ばれてないとのたまってますが、実際に林間学校編でのヒイロのセリフから数えたらホントにそんなもんでした。いや、でも実際そんなに人の名前って頻繁に呼ぶことなくない…?
まぁ呼ばれたら呼ばれたで嬉しいもんですが。自分も彼女のの名前呼ぶ機会は少ないですが、呼んでくれたら嬉しいですし。