「何か悩み事?」
アカデミーのバトルコートでネモにバトルに付き合ってもらっていると、終わった後にそんなことを言われた。…わかる?
「そりゃねー。ヒイロの方から勝負のお誘いしてくるなんて珍しいし」
先日、スター団どく組…シュウメイさんとのバトルでちょっと苦戦して、実力不足を痛感していたのだ。タイプの相性とかもあるんだろうけれど…
「ネモは、相手が手ごわいって感じたらどうする?」
「手ごわい方がいいよ!その方がワクワクするし!」
…ああうん、聞いた僕が悪かった。
「なんだよもー…でも、力が足りないと思うなら、力をつけるのが一番だと思うよ?」
それじゃあ…ここ行こ!とぼくのスマホロトムでジム巡りの進捗を確認したネモが、チャンプルタウンを指さした。
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ピケタウンまでそらをとぶタクシーで向かい、そこからコライドンに乗ってプルピケ山道を経由すると、チャンプルタウンが見えてくる。
「チャンプルジムはノーマルタイプが専門だよ。ジムリーダーは…ふふっ、会ってみてのお楽しみ!」
ネモに背中を押されながらジムに入ると、見知った顔がいた。
「あ、ハッサク先生!」
「やぁ、ヒイロくんに…ネモくんじゃありませんか。良き調子でジムを回っているようですね」
「今日は私、付き添いですけどね。最近伸び悩んでるらしくって」
あっさり人の悩みをバラしに行くネモ。…まぁいいけど。
「なるほど…いえ、若いのですから大いに悩んでください。そんな生徒を導くのも、我々教師の務めと思っておりますしね」
ありがとうございます。と頭を下げていると、ハッサク先生の後ろから声がかかった。
「なんや?もしかして噂の…?」
「ええ。彼がヒイロくんですよ」
緑色の長髪を揺らしながら、チリちゃんと名乗った女の人…?がひらひらと手を振る。
「この人も、ハッサク先生と同じ四天王なんだ」
「ふふーん?意外やろか?」
見た目はちょっときつそうな感じの美人…ゼイユに似た感じを覚えるけれど、人懐っこい雰囲気を纏っている人だ。
「ジム巡るんは、半分超えてからがキッツイねん。ここが4か所目なんやろ?並のトレーナーはここらで大半が躓いてまう。せやけど…」
自分は、違うやろ?と鋭い眼光で見つめられ、ドキっとなる。もちろんその答えはイエスだ。
「ん、ええ返事や♪」
彼女はポケモンリーグの第一次試験で面接官も担当しているという。
「チャンピオンテストで待っとるさかい、せいぜい気張りやぁ~」
とぼくの肩を叩き、ハッサク先生と連れ立ってジムオフィスを後にするのだった。
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チャンプルジムのジムチャレンジは、【秘密のメニューを注文せよ!】というものであった。ぼくを含めたチャレンジャーがそれぞれヒントを預かり、お互いに戦いあって相手のヒントを獲得し、謎を解いて答えを導く…という手法のようだ。
「あー、私の時もやったなぁ。さすがに答えは違うと思うけど…ついていったらネタバレしそうだし、お店で待ってるね」
一足先に、ジムチャレンジの舞台である宝食堂へ行ったネモを見送り…さぁ、謎解きの開始だ!
ぼくが持っているヒントは…常連さんの食べ方、か。これはあとで宝食堂に行かないとわからないな。まずはチャレンジャーを探してヒントをもらおうか。
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ヒントを集め、ヒントに即したポイントで答えの欠片を見つけていく。メニューや、それに関する調理法?などもわかってきた。あとは、ぼくの持っているヒントからの答えを導くために、宝食堂へと赴く。
「…何か御用ですか?」
食堂内をウロウロしていると、サラリーマン風の男性が昼食をとっていた。色んな人が食事をしているが、なんとなくその所作は常連っぽい感じをみせる。
「いかにも…自分はこの店によく来ています。…ジムテスト挑戦者、ですか?」
「え?あ、はい…そうです、けど」
男性はふむ、と頷き、手元に転がっている果実を指さした。
「レモンをしぼると、さっぱりとしてうまいですよ」
「へぇ…ありがとうございます!」
件のメニューにレモンをかけて食べた機会はないけれど、常連さんが美味しいというなら一度試してみたいかも。
かくして、秘密のメニューのヒントをすべて組み立て終えたぼくは、入り口近くにいる店員さんへ、意気揚々とオーダーを届ける。
「え、えぇ…!?」
そこからは凄い展開が待ち受けていた。
ぼくが伝えたメニューを、受付の店員さんと、奥にいる料理人のおばさんが大声で復唱する。と、店内が大きく振動し始めたのだ。目の前で畳敷きの食事スペースが大きく変形し…それは広大なバトルコートへと姿を変えた。
「うわぁ…!」
そういえばチャンプルタウンを走り回っていて、コートが見当たらないなとは思っていたけれど…こんなところにあったなんて!気づくとカウンターでネモが「すごいでしょ?」と言わんばかりの顔でこっちを見ていた。
「…ジムテストがクリアされたようですね」
そのネモの隣で食事をしていたサラリーマン…さっきの常連さんだ…がゆっくりと立ち上がり、こちらにやってきた。…え?もしかしてこの人が…?
「どうも。自分がチャンプルジム配属ジムリーダーの…アオキです」
サラリーマンことアオキさんはそう言って小さく頭を下げた。
「では改めて…お世話になります。なにとぞよろしくお願いします」
サラリーマンなのは本職?なのか、子供のぼくをあいてにしてもビジネスっぽい口調のまま、バトルコートで相対する。でもそれが…少し堅苦しいけれど…真摯に向き合ってくれているようにも思えて、ぼくは少しうれしくなった。
「それでは…食後の腹ごなしも兼ねて、ほどほどに始めますよ…ノコッチさん、よろしくお願いします」
「いっておいで、ウズメ!」
鳥ポケモンのような甲高い雄叫びとともに、進化したばかりの相棒が拳を握りこんだ。
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「…なかなかやりますね。負けそうですよ」
と表情を崩すことなく淡々と言われても…。とはいえ、弱気な発言が気に障ったのか、外野から檄が飛ぶ。食堂の料理長さんだ。
「コラー!アオキさん!シャキッとしなさいよ!腹ペコのお客が待ってるんだから…いいとこ見せてちょうだい!」
いつの間にかバトルコートには多数の人が集まっていた。みんなジムリーダーが、アオキさんが大好きなんだろう。な、なんかアウェイ感…
「ヒイロもー!がんばってよー!」
多数飛び交うアオキさんへのエールに交じり、ぼくを応援するネモの声が耳に飛び込む。うん、負けてられない!
「…とのことです。ちょっとはサービスしますかね。それでは…あなたにお願いしましょう…ムクホークさん」
呼び出したエースに、神秘の輝きが宿る。
「ようし…こっちもやるよウズメ!闘志の輝きをまとえ…テラスタル!」
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ウズメの輝きを秘めた"はっけい"がムクホークを打ち抜く。地に伏す前にモンスターボールで受け止めたアオキさんは、「一敗食わされました」と肩を落とした。
「並々ならぬ強さですね。思わず無表情になりました」
これまた表情を崩すことなく言われる。と、アオキさんのお腹が鳴った。
「バッジを渡そうと思ったのですが…その前に一緒にお食事でもいかがです?」
…え、さっき結構な量食べてましたよね?
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そのあと、ぼくとネモも交えてちょっとした食事会が開かれた。
自分で言うのもなんだけど、育ち盛りのぼくとネモのさらに倍以上の量を食べているアオキさんに、ぼくたちは思わず顔を見合わせるのだった。
-つづく-
ここからちょっとチャンピオンロード回多めに。各3ルートにおいて、「スターダスト★ストリート」と「レジェンドルート」かそれぞれ5か所巡るのに対し、チャンピオンロードは8か所とちょっと多めですしね。いずれにせよ全部同時に終わらせるのは大変なので二つは優先的に終わらせた方がいいかな?
ところで皆さん、チャンプルのジムチャレンジ、ちゃんと謎解きできました?
自分、「アイス屋さんの仲間外れ」ってのがなかなか理解できずに最終的に選択し総当たりしたんですよね…あとでアイス屋確認したら答えが出てきた…なんやこれ…💧