ギーツが切り拓いた異世界へのゲートを潜り…五十鈴大智は見知らぬ世界へと降り立った…はずであった。
「…なんだ、異世界というからどうにもファンタジックなものを想像していたんだけど」
とりあえず目につくものは、ややデザインが近未来的な点を除けば、概ね自分が生活する街に近い。
(というか今僕が歩いているところなんかまるで、さい●まスーパーア●ーナじゃあないか…)
とはいえ実際には、看板などに記されている文字らしきものが日本のそれとは全く違うため、おぼろげながらここが異世界だというのには納得している。少々肩透かしを食らったのは事実だが。
「さて…ギーツが言うには、この世界の誰かの願いをアンテナにして僕をここに送り込んだということだけど…一体誰と繋がったのやら」
その願い主に会うことができれば状況の把握はできるだろうが…現状住人らしい住人と出会っていないので、確認のしようがない。まったく見かけないしすれ違わないのだ。
(ジャマーエリアにだって一般人は閉じ込められる。デザグラの運営が誰に変わったかは知らないが、わざわざ逃がすなんて手間をかけるとは思えないし…)
考え込みながらも、とりあえずは目についた一番目立つ建物へ向かってみようと歩みは止めない。
「それにしても暗いな…時間的に夜なんだろうけど、建物の照明も街灯も点いてないなんて…?」
「うひゃああああっ!!?」
と、素っ頓狂な悲鳴が耳朶に飛び込んで、大智は思考を止める。振り返ると、ウェーブがかった黒髪の青年が、転がりながら逃げている様子が見て取れた。その後ろには…
「…ジャマトか!?」
丸腰の一般人を容赦なく襲う怪人の姿を見つけて、大智は即座に駆け出す。
「変身!」
−MONSTER−
仮面ライダーナッジスパロウに変身し、拳に宿ったモンスターバックルの力を思い切り振るう
「…はっ!」
ワンパンで勢いよくふっとばされたジャマトはやがて見えなくなり、しばらく中空を睨んでいた大智はすこししてから警戒を解いた。
「ふぅ…大丈夫かい、君…?」
「ひえっ!?また"仮面ライダー"っすぅぅぅ!!?」
ナッジスパロウの顔を見るやいなや、青年は白目をむいて意識を手放すのだった。
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「…はっ!?」
「気がついたかい?」
気を失っていた青年が息を吹き返し、大智は彼にかけていたプレイヤージャケットを羽織り直した。
「…あんたが、オイラを助けてくれたっすか?」
「まぁ、なりゆきでね。それより、仮面ライダーと言ったけど…キミはなにか知ってるのかい?」
「か、仮面ライダー!あ、あああああアンタ、ヤンマくんをやっつけたヤツの仲間っすか!?」
どうやら別の仮面ライダーに既に遭遇しており、何かしらの被害にあっているらしい。そのため同じ仮面ライダーである自分に敵意を向けているのか…と大智は理解した。
「その仮面ライダーについて知りたいんだけど…もしかして君は、こう願ったんじゃないかな?」
━━ヤンマくんを助けて欲しい、って…
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シオカラと名乗った青年が言うには、突然城に現れた仮面ライダーを名乗る謎の戦士により、自分が使える王…総長ヤンマ・ガストが襲撃を受け、王の力を奪われたのだという。
「オイラとヤンマくんは咄嗟に緊急避難用の隠し部屋に逃げたんす。そしたら、そいつ王の力を使ってチキュー中のネットワークを手中に収めるなんて言いだしたもんだから、オイラはヤンマくんに頼まれて隠し部屋を出て、この国…ンコソパのシステムをシャットダウンさせたんす」
それで夜にも関わらず国中が真っ暗だったのか、と大智は得心した。
「でもそのせいでヤンマくん、隠し部屋から出られなくなっちゃって…あの部屋、食料の備蓄もあんまりないから…このままじゃヤンマくん、干物になっちゃうっすよぉ…!」
曰く、国のシステムの復旧には王であるヤンマ本人と従者であるシオカラの生体認証が必要らしい。敵もそれを察知して、ああやってジャマトを送り込んで捕らえようとしていたようだ。
「ンコソパの国民はみんな、ハッキングタイマン挑んだんすけど、全員返り討ちくらって捕まっちゃって…」
「ハッキングタイマン…なにそれ…?」
明らかに相反する言葉のドッキングに、大智が思わず聞き返すが、シオカラは「ハッキングタイマンはハッキングタイマンっすよ?」と首を傾げるだけだ。
「…まあいいや。とりあえず現状を整理しよう」
1つ、この国…ンコソパに現れた仮面ライダー…プレイヤーが国王たる総長ヤンマ・ガストの力と王権を奪った。
2つ、プレイヤーはこの星のネットワークを掌握しようとしたが、それはヤンマが阻止した。
3つ、ンコソパ国内のシステム復旧にはヤンマとシオカラの生態認証が必要だからヤンマはシオカラを逃がし、シオカラは逃亡中の身。
4つ、ンコソパの国民はほぼ全員掴まっており、孤立無援…
「3つでまとまんなかったっすね…」
「いや別に3つ縛りしたつもりないからね?ともかく、ここまでで認識できる僕たちと相手の勝利条件は…」
大智&シオカラ…相手プレイヤーの撃破ないし無力化。同時あるいは別途ヤンマ総長の救出。その後システムの復旧。
相手プレイヤー…シオカラの確保とそれによるシステム掌握。
「僕たちは相手の勝利条件を避けつつ、僕たちの勝利条件を得る必要があるわけだ」
「でも、あの仮面ライダーめっちゃ強かったっすよ!?ヤンマくんがあっさりやられちゃったんすよ!?あのヤンマくんが!」
「落ち着きなよ…僕はヤンマくんとやらがどんな人物かは知らない。少なくとも君が絶大な信頼を置いていること以外はね。ただ、君も僕を知らないだろう?」
自分がデザイアグランプリのプレイヤー=仮面ライダーであり、かつて優勝…デザ神の座をも争ったトッププレイヤーの一人であることを伝えるが、シオカラは疑いのまなざしを見せるだけだ。
「さっき目の前で変身してジャマトを倒したんだけどねぇ…まぁいいや。僕も例の仮面ライダーには用がある。きみもヤンマくんを助けたいんだろう?利害は一致してるはずだ」
──僕を彼のもとに連れて行ってくれないか?
手を差し伸べる大智に、シオカラは意を決してその手を取る。
「…交渉成立だ。よろしくね、シオカラくん」
「頼りにさせてもらうっすよ…ダイチくん!」
-つづく-
というわけでようやく本編です。前振りが長ぇ!w
仮面ライダーナッジスパロウこと五十鈴大智。この人物が本編であそこまで変遷し、人気キャラクターになるとはたして本放送中に誰が信じられたのやら…僕もその一人ではありますが。
さて、そんな大智がメインを張るのはンコソパ編。シオカラを相方に闇に沈んだテクノロジーの国を駆ける!…はず。