ギラが目を開けると、さっきまでいたはずの謁見の間ではなく、シュゴッタム城下町の外れであった。見覚えのある道の先にはギラがつい最近まで過ごしていた児童養護院があるはずだ。
「…大丈夫かい?」
「うん、大丈夫。助かったよ…ジェラミー」
心配そうにギラを覗き込む青年の顔が、彼の返事に頬を緩める。チキューにおける6つ目の王国である【狭間の国バグナラク】の王、ジェラミー・ブラシエリだ。
「…いまのところ…城から追っ手は…出されてないようです…」
ジェラミーの蟲臣…もとい忠臣たるゲロウジームが音もなく現れ、ジェラミーに報告する。
「それどころではないのか、お前さんはもう用済みだってことなのか…ふむ」
とりあえず事情を説明してくれるかい?と尋ねるジェラミーに、ギラは頷いて事のあらましを話し始めた…
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「順調なようですねぇ」
「あん…なんだアンタか…"ゲームマスター"」
キングコーカサス城の玉座にて、ふんぞり返るように座る仮面ライダーエクスギーツの背後に、奇怪な仮面を被った人影がぬっとあらわれた。
「その姿、無事王の力を奪えたご様子で…いや、重畳重畳。さて…」
ゲームマスターと呼ばれた仮面の男は、大げさに咳払いをして見せ、エクスギーツの前に跪く。
「おめでとうございます!今日からあなたは王様で…仮面ライダーです」
「ふん…」
「他の”プレイヤー”の方々もすでに王となられております」
あなた様が最後でしたよ。とゲームマスターが告げると、エクスギーツは「やれやれ…」と肩をすくめた。
「ちょっと抵抗を受けてな…まぁ、大物は遅れて出るものってことさ」
「フフフ…それでこそ"ギーツ"の名を冠するお方…期待しておりますよ?」
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「ふぅむ…【仮面ライダーエクスギーツ】を名乗る得体のしれない戦士に王様戦隊の力を奪われた…と」
「それだけじゃない。王権?っていうのも奪われちゃったみたいで、兵士がみんなあいつのことを王様と認識しちゃってるんだ。ドゥーガさんは大丈夫だったけど」
ギラからの説明を聞いたジェラミーは、少し考え込むそぶりを見せる。
「…俺が最初に異変を感じたのは、ゴッカンだ」
「うん。いきなり宣戦布告だって言いだして…」
「おそらくその時点で、リタもその仮面ライダーとかいうのに王権を奪われてたんだろうね」
そうでもなければ、リタの性格上突然各国にケンカを売るなんてありえない…というのがジェラミーの見解であり、それはギラもドゥーガも頷ける話だった。
「ゴッカンに、シュゴッタム…この2国にだけ仮面ライダーが現れた…とは考えにくい。おそらくは他の国にも…」
ジェラミーがキングスホットラインを操作するが、通話は繋がらない。
「やっぱり…でも、何のために?」
「お前さんやリタにしたのと同じさ。王様戦隊の力と…王権を奪う」
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「あなたがこのシュゴッタムの王になったことで、【デザイアグランプリ】のすべてのプレイヤーが第一フェーズをクリアしたことになります」
ゲームマスターが指を鳴らすと、空中に映像が浮かび上がる。チキューの地図が表示され、それぞれの国の紋章が浮かび上がった。
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「リタを倒して王に成り代わった仮面ライダーが、囚人を解き放って他の国に侵攻している。連中の目的は…まさか王国間で戦争でもしようっていうのか?」
「そんな!バグナラクと仲直りして、せっかく平和を取り戻したっていうのに…!」
ギラが悲痛な面持ちで拳を握る。
「…仮面ライダーを、止めるほかないねぇ」
「でも今の僕には戦う力がない。オージャカリバーもないし…いや、もし持ってても王鎧武装もできないんじゃ…」
「待ちなよギラ。シュゴッタムには少なくとも、もう一振りのオージャカリバーがあるじゃあないか」
ジェラミーの言葉に、ギラがはっと思い出す。
「そうか…オージャカリバーZERO!」
かつて先王であったギラの実兄、ラクレス・ハスティーが所持し、オオクワガタオージャーへの変身にも用いられた黄金の剣。始まりの王ライオニールの代から脈々と受け継がれてきた由緒正しい遺物である。
「今は、城の秘密研究所に保管されている筈…」
「なら、そいつを回収して、あの仮面ライダーにリベンジマッチだ。そっちは任せるよ」
愛剣・クモノスレイヤーを携えて、ジェラミーが踵を返す。
「ジェラミーはどうするの?」
「いったんバグナラクに戻るよ。俺の国が同じように仮面ライダーに狙われている可能性もあるしねぇ」
落ち着いたら各国の様子も見てくるというジェラミーにギラは無事を祈り、ジェラミーも「お互いに」と返す。
「では、私も城に戻りましょう」
「ドゥーガさんも?」
「どういうわけか私には彼奴の王命は効かないようですからな。兵を動かすのを阻止できるやもしれません。それに…」
少し言いよどんでから、ドゥーガが重く口を開く。
「あのエクスギーツと名乗る男…その正体に少し心当たりがあります」
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「そういや、ゲームマスターさんよ」
「なんでしょう?」
画面に映るシミュレーション映像を眺めながら、エクスギーツが問いかける。
「アンタ、これを”ゲーム”と言ったな?一体、なんてぇゲームだい?」
「ふむ…そういえばまだ伝えておりませんでしたな」
では改めて…と咳ばらいを一つ。
「ンコソパ、イシャバーナ、トウフ、ゴッカン…そしてこのシュゴッタム。プレイヤーの皆様には、王としてこれらの国をそれぞれ治めていただき…さらに!お互いの国を競わせ、争い…このチキューを統一していただきます。その偉業をなしたプレイヤーはデザ神…もとい、"デザ王"として、チキューの歴史に永劫に刻まれることでしょう!」
ゲームマスターがさながら宮廷道化師の如く、おどけて円卓に躍り出る。
「名付けて【異世界デザグラ】!さぁ、今回のゲームは──」
→To be Contend…→
というわけでプロローグはここまで。ゲロウジーム出せて嬉しいけど、セリフ一言だけで終わっちまった…次に期待(ぇ
オージャカリバーZEROについては、ギラとラクレスの2回目の決闘裁判の中でキングクワガタオージャーの攻撃を受けた際にラクレスが手放してるので、少なくともふっとばされたラクレスともども行方不明…とかではないのは確定かと。21話以降、誰の話題にも挙がってないのがちょっと不穏っちゃ不穏なのですが。まさか23話で運び出された棺の中に入っちゃおるまい…?
というわけで、少なくとも2部までの間にはオージャカリバーZEROは一応シュゴッタム預かり…ということにしてます。作中では。
次回から本格的にストーリーが進行します。まずはギーツ陣営が動き出しますよ~。