炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】紅蓮の剛刃:シーン6【紅蓮騎士篇】

シーン6~帰還、そして~


 ―――地上とは隔絶された異空間。そこに設けられた細く長い廊下を、コツ、コツと乾いた足音が進んでいく。
 真っ直ぐな視線を進行方向にのみ向け、斬はひとり…正確にはヴィスタと“ふたり”だが…拠点である南の番犬所へと急ぐ。

「…ん? よぉ、紅蓮の。しばらくぶりだな」
 と、斬に追い抜かれた大男の魔戒騎士が声をかける。が、聴こえないのか、斬は黙々と歩を進め、やがて見えなくなった。
「おーお、生き急いでやがる。若いってのはいいねぇ~」
『ふむ。焦燥は相変わらず…かの』
 軽口を叩く大男に、首から下げられた数珠の髑髏が嗄れ声で呟いた。


「あっ! おかえり、斬♪」
 番犬所に着くなり、少女の弾んだ声が響く。神聖な場所にしては、少々そぐわない雰囲気の声の持ち主は、番犬所を預かる神官であった。
「……」
 斬は返事をすることもなく、傍らの狼の頭の像に自らの魔戒斧を噛ませる。ホラーを断った武器をここで浄化することにより、封印することが出来るのだ。
「ねぇ、何処行ってたの~? あたしに黙って1週間も管轄から離れるなんてっ。寂しかったんだよ、あたし」
 甘えるような口調で問いかける神官。その姿は中学生くらいの少女然としており、なぜかメイド服一式にその身を包んでいる。
『気色悪い声出さないでもらえるかしら? いい年してみっともないったらありゃしない』
 ソウルメタル製の顔をゆがめ、ヴィスタが皮肉たっぷりに言った。
「あーら、魔導具如きにそんなこと言われる筋合いなんてないわね。これは“あたしの”声なんだからっ。どう使おうがあたしの勝手じゃない」
 神官も負けじと口を尖らせる。

「黙れ…!」
 斬が、低く声を漏らす。その迫力に、ヴィスタも神官も口を噤んだ。
 やがて浄化が終わり、斬は魔戒斧を収める。狼の像に集められた瘴気がカタチとなり、短剣の姿を形成する。
「…さて」
 短剣を納め、斬は神官に向き直った。
「神官…」
「やだなぁ、斬。その呼び方はやめてっていつも言ってるじゃない。【エウルディーテ】って呼んでよ☆」
 あははっ、と鈴が転がるような声で神官…エウルディーテが笑うが、斬は表情一つ変えずに小瓶を…バイアラァスの血液より造られた血清を取り出し、突きつける。
「7年越しの成果だ」
 それを見たエウルディーテの表情が一瞬凍りついた。
「ようやく、取り戻せる…“あいつ”を」
 小瓶の封を解こうとした斬を、
「…待って」
 エウルディーテの声が留めた。
「その前に…やってほしい事があるの」
 彼女の手にぼうっと指令書が浮かび、それはくるくると舞って斬の手元に飛び込んだ。
「…」
 無言で指令書を燃やす。魔界文字を解読した後、斬はエウルディーテに視線を向ける。
「…お願い☆」
 柔らかな笑みを浮かべ、媚びるように神官が命を下す。
『ちょっ、斬は戻ったばかりなのよ!? …赤銅騎士がいたわ。そいつに任せれば済む話じゃない! それに斬は…』
ヴィスタ
 声を荒げるヴィスタを制し、斬はエウルディーテの足元に傅く。
「…紅蓮騎士ベガ。神官エウルディーテの命により、ホラー討伐に向かいます」
「はい、よくできました♪」
 褒め言葉に耳を傾けることなく、斬はすぐに踵を返し、番犬所を後にした。








 祭壇に納められた短剣…バイアラァスが封じられたもの…を手に取る。
「…ふふ」
 人知れず含み笑いを浮かべ、エウルディーテはそれをいとおしそうに抱きしめた。


  -つづく-


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 mixiで知り合った方が作成したオリジナル魔戒騎士をこっそり出演。以前、氏の小説に斬を出させてもらったのでそのお礼も兼ねて。

 なお、神官・エウルディーテの名前の元ネタは「オルフェウスの竪琴」に登場する、オルフェウスの妻・エウリュディケです。