炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【SS】ハロウィンですから

「「に~い、ちゃぁ~ん!!!」」

「うおぉっ!?」
 元気な声がダブって聞こえたと思うと、背中に重みを感じる。
「こら、亜美真美! 乗っかるなってば」

 よっこらせっと体を持ち上げると、二人はぱっと背中から降りた。
「やれやれ…って、なんてカッコしてるんだお前ら?」
 振り返る僕の目は、多分点になっていただろう。
 亜美はアクセサリーの“悪魔セット”を用いた小悪魔スタイル。真美は…なんだ、照る照る坊主か?
「てるてるぼーずじゃないよー、おばけだもんっ」
 こらこら、人の心を読むなよ。

「それはともかく、なんでそんなカッコを…」
「んっふっふ~。それはね~」
 亜美がオレンジ色の封筒を僕に押し付ける。
「いおりんのおうちで、ハロウィンパーティーするの~」
「765プロのアイドルみんなでやるんだよっ」
 にぱにぱと笑顔で二人が答えた。
 なるほど、これは招待状か。

「ほんとは女の子だけでやるつもりだったんだけど、兄ちゃんはとくべつにごしょーたい、なんだよ~」
「こーえーにおもいなさいっ、っていおりんが言ってたよ」
 ははは。そりゃあ確かに光栄ってやつだな。

「さ、それじゃさっそくいくよ~」
「何、今からなのか?」
「「そーだよー! じゃ、しゅっぱつしんこーっ!!」」

 お、おいちょっと待て! 俺はまだ仕事残ってるんだけどーっ!?





     Trick or treat!!!





「あ、プロデューサーさん来たよ!」
 会場…水瀬邸に着いた途端、春香の声が聞こえた。大広間にはハロウィンカラーのテープチェーンが張り巡らされ、中央には巨大なジャック・オー・ランタンが控えている。
 幾つか置かれたテーブルには無数のお菓子というかスイーツというか…
 まぁ、ハロウィンの特性を考えればそーいうものなのかな。

「うっう~っ、よーこそプロデューサー!」
 ミイラスタイルのやよいが出迎えてくれた。お菓子を頬張りながらも、手にしたタッパーにクッキーなどを詰めていく。妹達へのお土産かな?
「お仕事、終わったんですか~?」
 そう聞いてくるのはシックなナイトドレスに身を包んだあずささんだ。さすがにコスプレはしてないのかな…と思いきや、頭にコウモリの羽を模した髪飾りが着いていた。曰く、サキュバスなんだとか。

 …なんか、妙にえっちい。

「いやぁ、それが仕事の最中に亜美真美に引きずり出されちゃいまして…」
「やれやれ。まぁそんなことだろうとは思ったけど…」
 溜息交じりの声が背中から聞こえた。振り返ると、アラモードっぽいポップな魔女っ娘スタイルの律子が苦虫を噛み潰したような顔で仁王立ちしていた。
「う、律子…」
「まぁ、今回ばかりはしょうがないかな。明日ちゃんと終わらせてくださいね」
 と、なにやら今日はツッコミが緩い。まぁ、悪くは無いからいいけど。
 それにしても…
「壊滅的なまでに違和感あるな、そのカッコ」
「…ほっといてください」



 …そういえば。
 僕はここにいるべき人物の姿を探した。
 会場を提供してくれた主催者はどこにいるんだろうか…っと、いたいた。

「…?」
 壁にもたれかかり、小さく溜息をついているのは…
 伊織だった。

「主催者が壁の華ってのは、いただけないな」
「!!?」
 声をかけた僕の存在に、彼女はとても驚いたようで。
「ど、どうして…?」
「どうしてって…伊織が呼んでくれたんだろ? ほら、招待状」
 オレンジ色の封筒を見せる。伊織はぷい、と横を向いた。
「で、でも…アンタ、最近忙しそうだし、今は担当じゃない私のことなんか、どーでもいいんでしょ…」

 ああ、そうか。

 ムリヤリに僕をひっぱってきた亜美真美も。
 仕事ほっぽってしまった僕を咎めなかった律子も。
 伊織が心配だったんだ。

 やれやれ。僕もまだまだ、だな。


「…ごめんね、伊織」
 腰を屈めて、視線を彼女に合わせる。
「確かに、忙しさにかまけて、伊織のことちゃんと見て無かったよな」

 たとえ担当から降りたとしても。

「僕は…君の…」

 ええっと…その…

「恋人…なのにさ」
 照れくささに顔が熱くなる。

「…まったく。恋人だっていうなら、もっとはっきりと言いなさいよね。カッコ悪いったらありゃしない」
 う…ごもっともです。
「でも…」
 僕に向き直る彼女の目は、少し潤んでるように見えて。
「来てくれて…嬉しかった…」
「うん…」
 伊織の目がそっと閉じられ、顔が近づいてくる。僕は肩をそっと抱き寄せ、それに応え…



   「うあ…だ、大胆だなぁ…」
   「ちょ、ちょっと真! そんなに凝視しちゃダメでしょっ…」
   「そーゆー千早もしっかり見てるのなの」
   「あわわ…み、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃいますぅ~」



「…って!」
 強烈な視線を感じて我に帰る。いつの間にやら遠巻きに僕らを見守るみんなの姿…というか、これは“見守る”じゃなくて“覗かれてる”だな…

「あー、その…お、お構いなく! 続き、やっちゃってください!」
 …いや、やっちゃってくださいはないだろう春香…。

「あーんーたーたーちーねーえー!!!」
 うわ、伊織が怒髪天だ。
 その迫力に、蜘蛛の子を散らしたように去っていく面々。…で、その後何食わぬ顔でパーティーを再開している。…なんだかなぁ、もう。

「まったくもぉっ」
 憮然とする伊織。その様子がおかしくも可愛くて、僕は思わず含み笑いを浮かべる。
「何よっ!?」
「いや、なーんでも」

 …あ、そうだ。

「なぁ、伊織」
「何?」
 本当はまだオフレコなんだけど…伊織は当事者だし、ちゃんと伝えなきゃな。
「今度、ウチで新しいプロジェクトが始まるんだ」
「?」
「で、それに伴って新しくトリオユニットを結成することになった」
 ユニット名はまだ未定なんだけどね。
「そのユニットに…君も参加することになる」
「!?」
「担当するのは、僕だ」

 その言葉に、伊織の顔がぱぁっと明るくなる。

「そ、それじゃ…!」
「ああ。もう一度、いっしょに仕事できるぞ」
 ソロだった以前と違って、トリオユニットでのプロデュースだ。以前と全く同じ…とはいかないだろうけど。
「それでも、今よりは…一緒にいられる」
「うん…」
 伊織がにぱっと笑った。
「よおっし、やる気出てきたわよ~っ!」
 ぐっ、とガッツポーズをして、改めて僕に向き直る。
「プロデューサー!」
「お、おう」
「今度も目指すところは一つよ!」
 びしっと、人差し指を上に向ける。
「ああ、そうだな」

 ソロだろうが、トリオだろうが。伊織と進む以上、到達点は一つしかない。
 それはすなわち、頂点の座。

「「アイドルマスター!!!」」

 ぴったりハモって、僕たちは笑いあった。 



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 …というわけで、ハロウィンです。
 あれ?いつの間にか伊織メインのお話になってるよ?

 …まあ、いいか(こらこらこらこら


 ちなみに、結局語られてないアイドル候補生の衣装ですが…

 皆さんの想像にお任せってことでいいですか?(丸投げ




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