街では、大小さまざまな爆音と、人々の悲鳴がこだましていた。
その光景たるや、まさに阿鼻叫喚をそのまま顕したかのように。
「リンギ・吸血針(キュウケツシン)!」
逃げまどう人々の首筋に、人差し指程度の針が浮かび上がり、突き刺さる。悲鳴を上げる隙すら与えず、それは血液を一気に吸い上げ、人をただの抜け殻に変えた。
「ヒョホホ…その悲鳴、その絶望! 我等臨獣殿の為に搾り出しなさい!」
京劇役者のような風体の男が、高笑いを上げた。
「待てぇっ!!」
その男の前に、ジャンたちが立ちはだかる。
「フン、あらわれましたか…激獣拳!」
「オマエ、みんなをこれ以上苦しめるな!」
ジャンの咆哮に、男は表情ひとつ変えず鼻で哂う。
「そうはいきませんねぇ…人間どもに出来ることは、その悲鳴と絶望を我々に捧ぐコトだけ。我々は、無能な者たちに役割を与えているのですよ?」
神経を逆なでする口調で言い放つ男に、ジャンだけでなく、レツもランも怒りを露にする。
「そんなことはさせないわ!」
「ケモノの力は、そんなことのためにあるんじゃない!」
「オショショ…邪魔をしますか? 邪魔をしますね? ならば…獣人邪身変!」
男から禍々しい気…臨気が迸り、その身を異形の怪人へと変えた。
「我輩の名は、臨獣フリー拳のミノ! あなたがた如きの邪魔を受けるわけには行きませんッ! リンギ・大跳躍ゥ!!」
次の瞬間、ミノの身体が宙へ跳んだ。乱立する高層ビルの屋上を、その驚異的な跳躍力で次々と飛び移り、その体は見る間に小さくなっていく。
「って、いきなり逃げンな!!」
「お生憎ですが…我輩は大命ある身。それを終わらせるまで…あなた方の相手はリンシーズが務めましょう!」
その声とともに、いたるところからキョンシー然とした怪人が群をなして飛びかかってきた。臨獣殿の下級拳士・リンシーだ。
「くっそぉ! こんなやつらさっさとブッ飛ばして、あのノミ野郎のところへ急ぐぞ!」
飛び込むジャンに、ランとレツも続く。
「ハッ、ヤァッ!」
「タァッ、ハイッ!」
「リャァ! ダァッ!!」
個の存在しない死体人形に過ぎないリンシー程度、彼らにとっては脅威ではない。
しかし、これらは数でかかってくる。
ミノを追うこともかなわず、時間だけが過ぎていった。
「くそっ…キリがない!」
「急がないと、被害が大きくなるだけだわ!」
ランたちに、焦りの色が見え始める。
―――その時!
「はぁっ!!」
強烈な飛び蹴りが、リンシーを5体まとめて吹っ飛ばした。
「リュウ!」
ジャンの声に、リュウがよう、と返す。
「美希姐さんから話は聞いたぜ。お前たちははやくリンリンシーを追うんだ!」
「でも…」
「ここのザコどもなら俺に任せとけ。きっちり片して後で合流してやるからよ」
ランにそう言って、リュウはリンシーの群れにファイティングポーズを見せる。
「わかりました。…ジャン、ラン。ここはリュウさんに任せよう!」
「おう、任されたぜ!」
「たのんだぜ、リュウ!」
ジャンがはっぱをかけ、ランとレツが一礼して、ミノが跳び去った方へ駆け出していく。
それを追いかけようとするリンシーたちを、リュウが留める。
「おっとぉ、てめーらの相手はこの俺だ!」
近づいて来た一体を蹴り倒し、不敵に笑う。
「…それと、さっきからそこで気配消して様子見してる誰かさんもな」
「………なかなかやるわね。カクシターズの仲間にしては」
リュウの背後で光が揺らめき、チャイナルックの女性が姿を顕した。
「ま、獣拳に関しては俺の方が先輩だからな。あいつらの邪魔はさせねぇぜ。てめーが誰かは知らねぇが、ここで足止めしてやらぁ」
振り返り、構えなおすリュウに、女は冷たい視線で蔑む。
「ハン! 格下のクセに面白いこと言うじゃない。…いいわ、遊んであげる!!」
ニヤリ、と紅い唇が哂う。次の瞬間、その姿が禍々しい獣人のそれへと変貌した。
「理央様の愛の為に生き、理央様の愛の為に戦うラブウォリアー! 臨獣カメレオン拳使いのメレ!!」
「激獣グラスホッパー拳・跳多リュウ……参るッ!!!」
互いの名乗りが、ゴングの代わりとなった。
-つづく-
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いきなり強敵とのバトルかよ! どうすんだコレ!?
つーか敵のモチーフがノミとかどんだけ~
以上、セルフツッコミでした(ぉぃ
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↑web拍手の為に生き、web拍手の為に戦うラブウォリアー!(言ってみただけ