炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】流麗の楽師:後編【瑪瑙騎士篇】

「はあっ!」
 気合一閃、白夜槍が空を切り、二つに分かたれたカラクリの片割れを襲う。
 が、ぐねぐねと軟体動物のように動く魔獣は、打突の連撃を悉く交わした。

「はっ、ほっ、やっ、とっととと!」
 一方、アゲハは防戦を余儀なくされていた。矢継ぎ早に繰り出される敵の爪による斬撃を、瑪瑙扇でいなすのが精一杯だったのだ。

「むー…ちょーっとばかり厄いわねこりゃ」

 仮面の向こう側で、光の頬を汗が伝う。
 ふと背後に気配を送ると、翼も苦戦を強いられているらしかった。

『…ふむ、互いに相性が悪いようだな。…光』
 セラの意図を汲み、光が頷く。
「ん、おっけー。翼! 入れ替わるわよ!」
「…よし」
 ホラーの攻撃を防ぎ躱しいなしながら、タイミングを見計らう。

「「いまだッ!」」

 背中合わせになった両者が、振り向きざまに立ち位置を変え、それぞれ打突と斬撃をくりだす。

『…うむ、手ごたえアリじゃ』
 ゴルバが感嘆の声を上げた。

「一気に畳み掛けるわよ!」
「応!」

 瑪瑙扇では破壊力に欠け、攻撃を受け流すことが精一杯だった爪を、白夜槍が完膚なきまでに砕き、その身体を衝く。

 槍の直線的な攻撃を受け付けなかった身体を、変幻自在なアゲハの舞が捉え、切り裂く。

「とどめッ!」
「はあああっ!!!」

 白き光が、白夜槍の穂先に集まる。
 投げ上げた瑪瑙扇が、幻想的に舞いながら、二つが四つ、四つが八つへと、その姿を増やしていく。

「せぇぇぇい!!」

 渾身の力を込めた槍の一撃が、ホラーの身体を深々と抉る。

「やぁぁぁ、っは!!!」

 アゲハの法術で、敵の周囲を取り囲んだ無数の瑪瑙扇が、一斉にとびかかる


 ―――僅かに、沈黙が流れる。


 と、高低二つの断末魔が響き、カラクリであった二体の魔獣がゆるゆると崩れ落ちた。

   *


「……やれやれ、まったく厄介なヤツだったわよ」

 戦いののち、工房に戻った光が、魔戒扇の表面をせっせと磨いていた。

「もうあんなのいないでしょうね?」
「確証はないが、恐らくはな」
『そのときは、また手伝ってもらうぞい』
 ゴルバの言葉に、光はげんなりとした顔をした。
「ま、いいけどね。…ほら」
 ふと手を出され、翼が訝しげにそれを見る。
「あんたの魔戒槍出しなさい。手入れしといたげるから」
『ほう、珍しいな。お前から手入れすると言い出すとは』
 セラの言葉に、「うっさい」と一言返し、光がもう一度手を差し出す。今度はすこし強めに。

「…わかった、頼む」
 翼から魔戒槍を受け取ると、おもむろに魔導火を焚いた薪の中に穂先を突っ込む。
 真っ赤になった穂先を魔戒筆で撫でていくと、少しくすんでいたソウルメタルの刃が、少しずつ輝きを戻していった。

「ま、ちょっとだけ待ってなさいな。今までよりいい感じに仕上げたげる」

 不敵に微笑む光。男にしては妖艶すぎるその表情に、翼は微苦笑しながら「ああ」と頷き、工房を後にした。


 閑岱を吹き抜ける風は、今日も穏やかであった。



   -了-



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 瑪瑙騎士篇、まずはコレまで。

 むー、ダンと共演させたからなのか戦闘描写を集中して書けなかったなぁ(滝汗
 いや、言い訳ですね。
 うがー、スキルの低さに我ながら呆れる。

 魔戒法師としても並以上の実力を持つ光。瑪瑙扇での戦闘スタイルは法術を絡めたものが多く、今作でみせた、瑪瑙扇の分身で敵を切り裂くのはその一端です。

 一方、武器の手入れのシーン。
 牙狼本編で武器を手入れするシーンってなかった気がするので、これまたかなりでっち上げてるんですが、まぁそれっぽくなったかなと。魔戒法師が主にするであろう以上、法術的なノリで手入れとかするんでしょうし。

 さて、これで残すは水晶騎士篇の後編のみとなりましたが…

 いや、まだまだ続くつもりですよー。

 …などとまた自らの首を絞める発言をしてみる。