―――どこまで走り続けただろう。
髪はぼさぼさになっていた。
服はドロドロで、靴はボロボロだ。
力が抜けて、膝が折れる―――そして、倒れる。
地面を通じて、早鐘を打つ心臓の音が聞こえる。
「……ああ、まだ生きてるんだ。僕は」
海東大樹が、そう呟いた。
この<世界>は、歪んでいた。
今日、初めてそのことを知った。
今日、初めてそのことを知った。
そして、信じていたもの全てに裏切られ……大樹は、持っていたもの全てを捨て、逃げ出したのだ。
「……僕は……何を信じればいい?」
ひとり問う。だが、誰も答えてはくれない。
ぽつり。顔に暖かな水滴が掛かる。やがてソレは無数の雨粒として、無遠慮に大樹に襲い掛かって来た。
「……僕は、いったい“何”なんだ……」
雨を拭うこともせず、降られるにまかせる大樹。顔を濡らすのは、雨なのか涙なのか。
それは大樹本人にも、解りはしなかった。
それは大樹本人にも、解りはしなかった。
「兄さ……ん」
初めて知らされた、<世界>の本当のこと。
それを知った今…いや、知ったところで、僕に何が出来るのか。
大樹の虚ろな目は、何を映すわけでもなく、ただ、がらんどうであった。
「………ん?」
ふと、そんな大樹の眼が、何かを捉えた。
古代遺跡のような仰々しい建物。
自分のいた<世界>にあんなものがあったであろうか?
そんな疑問が、ふとよぎる。
自分のいた<世界>にあんなものがあったであろうか?
そんな疑問が、ふとよぎる。
(……まぁ、僕には関係ないけど…ね)
疲れ果て、意識を手放そうと眼を閉じかける。
が、その刹那、彼は、建物の中央にある紋章を眼にする。
二羽の大鷲が合わさったような、雄々しさと禍々しさが同居したようなエンブレム。
そして、その翼に刻まれた、3つのアルファベット。
「…D…C…D……ディ…ケイ…ド……?」
知らず、その“名”を口にした大樹は、引き寄せられるように、よろよろと建物に向かって歩き出した。
* * *
『侵入者アリ! 侵入者アリ!』
『賊はシークレットルームから、“オブジェクトX”を奪い逃走中! 総員出動! 総力を挙げて確保せよ!!!』
建物…<大ショッカー>の居城が騒がしくなる。黒尽くめの衣装に身を包んだ男たちが、イー! イー! と慌しく駆け回っていた。
「ええい! よもや“アレ”が奪われるとは!」
黒い兜を被った男が、カギ爪を振り回し激昂する。
「ううむ……賊め、他には目もくれず一直線にアレを狙っておったようだ。アレがなんであるか、知っているかのようにな」
金色の大男が、苦々しく呟く。
「どうする? アレを奪われ、利用されれば我ら<大ショッカー>の大いなる弊害になることは間違いない!」
「……いや、ここは逃がすしかあるまい」
「正気か、ジャーク将軍!?」
<ジャーク将軍>と呼ばれた金色の大男が、重々しく溜息をつく。
「アレを奪われた以上、これ以上の追跡は無意味。……なら、いっそ待ってみるのも一興だろう」
「……?」
「アレ…<ディエンドライバー>と、我らが大首領がお持ちになる<ディケイドライバー>は似て非なるモノ。互いに引かれあい、やがてヤツはあのお方に出会うであろう」
そうすれば、いずれヤツはここに戻ってくる。……あのお方を連れて、な。
「……なるほどな」
<地獄大使>と呼ばれたカギ爪男がほくそえむ。
「…よし、各々の世界にいる<大幹部>に伝えよ! 全ての仮面ライダーを……この地へ! この<世界>へ! 我らが<大ショッカー>の舞台へ導くのだ!!!」
地獄大使の高らかな声に、イー! としわがれた叫び声が響き渡った。
* * *
「はぁ……はぁ……」
奪ったものを胸に抱いたまま、大樹が荒く息を吐き出した。
「これが……<ディエンドライバー>……」
改めてそれを目にする。シアンとブラックを基調とした、銃器のような形。そして、付随するカードホルダーに入っていたカード。
「…はは」
乾いた笑いが、唇を持ち上げる。
「なんだ、意外と簡単だったな」
なにかに…否、ディエンドライバーに導かれるように、<大ショッカー>アジトの最深部に進入した大樹は、それを奪い、まんまと逃走に成功した。
いいようのない高揚感が、身体を支配する。
あの<世界>では、ついぞ得られなかった感覚。誰でもない、海東大樹の、“生きている”証が、感じ取られた。
あの<世界>では、ついぞ得られなかった感覚。誰でもない、海東大樹の、“生きている”証が、感じ取られた。
「よかった…これでまだ、“僕”は“僕”でいられる」
呟きが空気に溶けていく。その想いが、まだ仮初めのものであると気付かぬまま。
『イタゾ!』
『海東大樹! 裏切リ者ハ…抹殺スル!』
『海東大樹! 裏切リ者ハ…抹殺スル!』
不意に飛んできた声に、大樹が緊張する。独自に彼を追っていたらしい怪人が三人、立ちはだかった。
「……悪いけど、僕の邪魔はさせないよ」
大樹の目が鋭くなる。ディエンドライバーにカードをセットし、構えた。
-KAMENRIDE-
「僕は…僕の意思で、歩いていくんだ。 ……変身!」
-DIEND-
トリガーを引いた瞬間、光の散弾が迸り、それが大樹の姿を変える。
―――<行き止まりを往く者>仮面ライダーディエンド。
-FINAL ATTACKRIDE-
手馴れた動きで、ディエンドライバーに再びカードをセットする。
-DI DI DIEND-
強烈な光の奔流が、怪人たちを包み込み―――
・
・
・
・
・
「……別の世界、か…」
光のオーロラをくぐり、ひとり呟く。
「そうだな…なにをしようか」
手にしたディエンドライバーを弄りながら自問自答する。
「…うん、決めた」
目に付いた時計台に、指鉄砲をむけ、撃つジェスチャーをしてみせる。
「この<世界>のお宝を奪うんだ。こいつを奪ったように」
いや、この世界だけじゃない。
「僕は…全ての世界のお宝を手に入れる」
それが、“僕”が決めた、僕だけの生き方だ。
言い聞かせるように呟き、大樹は駆け出す。
<通りすがりの仮面ライダー>の物語が、動き出した。
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さて、今回は珍しく「書き直した」作品です(ぇ
前回ディエンド編を書いた後、海東がディエンドライバーを入手した経緯が劇場版で描かれるという情報を入手して凹んだのでorz
んで、あらためて劇場版を観て、書き直したわけですね。
…まぁ、一部シーンとセリフを改変したくらいなのですが。
ふつーだと、元ある作品をそのまま入れ替えることが多いんですが、以前書いたバージョンも個人的に気に入っているので、こちらを<改訂版>として独立させて見ました。
ちなみに、書き直し前のバージョンはコチラ。
いかに手をかけていないかがよくお分かりでしょうw
さて、テレビシリーズもいよいよ大詰め。
士たちの旅の終焉や、いかに?
士たちの旅の終焉や、いかに?