日本にありながら、誰のその所在を知らない場所がある。
全ての影、全ての闇の奥の奥に住処を構える――秘密結社ショッカーの、その日本支部にて、あらたな大幹部が招聘された。
「服装が乱れているッ!」
空気を切る音のすぐあとに、強烈な破裂音。それが電撃鞭による攻撃とわかる前に、ショッカーの戦闘員の一人が弾き飛ばされた。
「服装のたるみは、精神がたるんでいる証拠だ!」
たるみは絶対に許せんと、激昂するのは軍服姿の男。
『我がショッカーの偉大なる大幹部<ゾル大佐>よ! よく来てくれた……』
「この私が日本に来た以上……必ず、ショッカーの敵・仮面ライダーを始末します!」
『フフフ……頼もしいな。では先ず、手始めにこれを使って仮面ライダーとその仲間どもを蹴散らしてくるのだ』
首領の声に、白衣を纏った科学班員がゾル大佐に巨大な機械を見せる。
「これは……一体?」
怪訝な視線でそれを見やるゾル大佐に、科学班員が説明する。
「ここに、かつてライダーに倒された蜘蛛男の体組織があります。これを、このカプセルに入れて……」
巨大なレバーを下ろす。と、カプセルの中に不可思議な色の溶液が満ち、中の体組織が膨張を始めた。空気の泡を大量に放出しながら、それは少しずつヒトの形を象っていく……。
「これは……怪人を再生……いや、クローニングしているのか?」
『その通りだ……この<細胞増殖クローニング装置>があれば、ある程度以上の体組織さえ残っていれば、即座に怪人を復活させることが出来るのだ』
「なるほど……これはすごい機械だ。しかし、これを造ったのは誰だ? <死神博士>か?」
彼の口に上った死神博士とは、ショッカースイス支部に籍を置く天才科学者にして大幹部の一人である。彼ほどの人体改造技能の持ち主……突き詰めれば生化学の権威であれば、これだけのものを造り上げるのも容易だろうと予想したゾル大佐だったが、それは科学班員の否定の言葉に打ち消される。
「いえ、確かにこの機械を組み上げたのは死神博士ですが、設計図自体は別のところから持ち込まれたようです……」
「別のところ?」
「もっとも、出所は死神博士にもわからなかったそうですが……」
『見ろ……蜘蛛男が再生されるぞ!』
首領の声に、ゾル大佐がカプセルを見る。数分も経たず、握り拳大の肉片は、元の姿を取り戻していた。
「ほう、たいした性能だ。この機械を設計した者への興味は尽きんが……まずはこいつを使ってライダーどもをおびき寄せる!」
ゾル大佐の隻眼が、未だまみえぬ宿敵への敵意にギラギラと光った。
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「フフフ……気に入っていただけたようで何より」
その様子を、陰ながら見届ける人影ひとつ。口元はマスクで隠され、その表情は杳(よう)として知れないが、その眼はゾル大佐に劣らぬギラつきをみせる男であった。
「さて、次は新人類帝国へデータを送りましょうか……アレを組める人材がいるといいですがね……」
そう呟いて、男は影にまぎれて姿を消した。
スーパー特撮大戦200X/CRISES_OF_NAAGER
第3.5話:蠢く悪意/直向(ひたむき)なる正義
このゲームのノベライズをやるにあたり、版権組のみのシーンというのは基本的に書かないようにしている、と言うことを過去に何度かあとがきで言及していますが、今回はちょっと例外的に。
名前とかは伏せていますが、ちろっとナガー側のキャラクターも出してますしね。
さて、今回は3.5話ということですが、ストーリーのメインとなっているのは、ゲーム3話「恐怖の新人類」のAct2。ウルトラ警備隊と、ゲームオリジナルのTDF警備班の合同演習のエピソード。
(ゲーム中では一度マップが終了したあとデモを挟んで同じあるいは別のマップでまた戦闘が再開されるパターンが多くあり、攻略本ではそれらをActとして区別しています)
まぁこの辺は、ナガーをストーリーに絡ませるためにちょっとフライングしてもらったいきさつが。この時点ではまだ幹部クラスがショッカーにいなかったので、科学班員だけの会話だとちょっと寂しい気がしたのです(ぇ
ところで、こんなのなくてもショッカーには怪人再生技術がありますし、実際ゲーム中でも後のエピソードで蜘蛛男が再登場して1号ライダーが「再生させたな!?」と言及するシーンもあるんですが……まぁ、他の組織も(ゲーム上仕方ないとはいえ)同じ怪人を何体も出すので、その辺を「まとめてナガーの所為」にしておこうと思ってこうなりました(ひでえ
さて、再生した蜘蛛男の活躍は如何に?