炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【シンケンSS】閑話/夜稽古談話-よるげいこだんわ-【緑×黄】

 夏も通り過ぎ、少し涼しくなった夜空の下。

「やっ!」

「はあっ!」

 若い声と、竹刀のしなやかな打撃音が響く。

 4、5度ほど軽快なうち愛が続いたと思えば、しばし鍔迫り合いの後、互いに飛びのいて間合いをとる。

 片方が懐に飛び込もうとした刹那、もう片方が、柄のぎりぎり下を握って、その間合いの外からやりの様に突き出す。慌てて竹刀で防ごうとしたが、鋭い打突は相手の竹刀を押し出し、額に打ち付けさせた。

「あいた!」
「…へへっ」

 思わずしりもちをつき、目から火花が散ったかのようにしばたかせる少女に、勝ち誇ったように笑いながら、青年が手を差し伸べた。

「ちょっと休憩にすっか」
「…うん」

 青年―――千明の手をとり、少女―――ことはがうなづいた。



   侍戦隊シンケンジャー・幕間
   閑話/夜稽古談話-よるげいこだんわ-




「それにしても、千明、強ぉなったなぁ…」
 スポーツドリンクを一口飲んでから、にこにことことはが言う。
「まだまだだっての。ことはにだって一本とるのは3回に1回くらいじゃねえか」
 こんなペースじゃ丈瑠に届くのはすげー先になっちまうぜ…と頭をかきながら千明がぼやく。
「でも、焦ってもええことないよ。千明は千明のペースで強くなったらええって思うわ」
「…そっか。サンキュな」
 素直に礼を言って、千明がことはの頭をくしゃっとなでた。くすぐったそうにことはが微笑む。

「でも、うちら、みんなの中では強いほうやないけど、彦馬さんの言うとおり、前よりは強ぉなったと思うわ」
「へぇ、お前にしちゃ自信満々な発言だな」
「もぉ、茶化さんといてよ」
 からからと笑う千明に、ことはが頬を膨らませる。

「…まぁ、実際強くなけりゃ、俺らだけでアヤカシと戦って勝つ…なんて出来なかったかもな。昔の俺のままだったら、あっというまに体入れ替えさせられて、やられてたかも知んねぇ」

 しみじみと呟き、先のアヤカシ・アベコンベとの戦いを思い出す。

「あれは千明の機転もすごかったわ。あんなこと、うち、よう思いつかんもん」

 そう言って、ことはが目を伏せる。

「…でもな」
「ん?」

「あーいうこと、できれば二度とせんで欲しい」
 ふっと千明を見上げる瞳が、わずかに潤んでいた。
「な……」
 その瞳が語る想いに気圧され、千明が言葉を失う。
「で、でも…お前だって賛成したじゃん…」
「それは、あの時はそーやないとダメやって思ったからで…」
 口ごもることは。

「と、ともかく。あんな危ないこと、これっきりにせなあかんよ!」
 勢いで釘を刺され、思わず千明も「お、おう…」とうなづいた。

「そら、うちら侍やもん。危ないこととかいっぱいせな、人は守れんよ……」

 呟きながら、そっと千明に近づく。

「せやけど……あの戦いのこと、後から思い出したら……ちょっと怖くなって」

 不安げに千明を見つめることは。千明はふわっと笑って、ことはの髪をなでる。

「……そうだな。俺も、今思い出したらちょっとビビった」

 おどけたようにそういうと、ことははくすっ、と笑った。

「ま、無茶しない程度に無茶するよ」
「なんやのそれ」

 へんな言い草に、ことはが苦笑する。

「ことはが心配しない程度にってことさ」
「も、もぉ…」
 茶化した風の千明に、ことはが再び頬を膨らませた。

「さ、てと」

 よっこらせ、と立ち上がる千明。

「そんな無茶しなくても済むように、もっともっと強くなんなきゃな」
「…うん」

 それに倣い、ことはも立ち上がる。互いに礼をし、竹刀を構える。

「いくぞ!」
「うん!」

 再び、竹刀の音が秋の夜空に響き渡った。



   -了-




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 緑×黄! 緑×黄! 緑×黄!

 というわけで、俺的に神回だった第二十七幕「入替人生」の後日談ネタ。

 にプラスして、実は以前執筆した「寒稽古夜噺-かんげいこよばなし-」の後日談でもあったり。


 あれ以来、ちょくちょく二人で夜稽古してますよー、という裏設定。

 …いや、活かせばよかったんですが入れにくくて断念(ぉぃ

 執筆中、なんかことはが精神的に弱い子っぽくなりかけて軽く焦る。

 違うんだ!ことはは待つタイプのヒロインじゃないんだよ!
 いっしょに並んで共に戦うんだよ!

 …などと自らに叱咤激励しながら書いてました。修造さんのよーに。

 さて、それが功を奏しているかどうかは、皆々様の判断にお任せしますが(マテ


 ちあきー!ことはー! おれだー! 結婚しろお前らー!(ぇ