強風と妖精と落石が舞う地底を、魔理沙が乗る竹箒が淀みなく進む。
自然の具現がもたらす圧力が増すのを水晶越しに感じ、少しずつ核心に近づいていっていることをパチュリーは感づいていた。
『なかなか終点にたどり着かないな。もぐってから随分経つと思うんだが』
いま地下何階あたりかねぇ、などと暢気に魔理沙が呟く。
「洞窟に階数の概念はないと思うけれど?」
『そうかい? ダンジョンにはツキモノなハズなんだがな』
――なにやら楽しそうな声がするわ。
「?」
――何がそんなに楽しいのかしら。妬ましいわね。
「ねぇ魔理沙。貴女、何か喋って?」
『いいや?』
魔理沙のイタズラの線はなさそうだ。となるとこの場に誰かが……いる。
「魔理沙、さっきから声が聞こえるの。何か見つけられない?」
『あー? 私は聞いてないぜ? 空耳じゃあないのか? 大体なにも……む?』
「どうかした?」
『いや、なんか一瞬緑色の何かがチラっと見えた気がしたんだが……』
気のせいか……と言い掛けた魔理沙の耳に、今度こそ声が届いた。
――さぁご用心、ご用心。
『うん?』
――それは見えない緑色の目の怪物。
『この感じ……スペルカードの宣言か?』
――人の心をなぶり、ねぶり、一飲みにしてしまうのさ!
空気が変わる。
魔理沙が身構えた刹那、その眼前に、ふたつの緑色の光が浮かび上がった。
――××××××が宣する!
不意に突風が魔理沙の耳をふさぎ、叫んだ名がかき消される。が、次に発せられたスペルカードの銘ははっきりと耳に届いた。
――<妬符「グリーンアイドモンスター」>!!!
浮かび上がる緑色の光が膨張し、大小さまざまな緑色の球体が連なって魔理沙を狙い来る。
『おっと!』
手首のスナップで竹箒を操り、苦もなく躱す。
『おどろおどろしいネーミングの割には、避けやすいぜ』
「魔理沙、後ろ!」
『んな?』
すわ衝突か、と目を見開いた次の瞬間、魔理沙の身体がふっと消えた。
『やれやれ、こいつ追っかけてくるぜ。厄介なタイプだ……なっと!』
『なるほど。奴隷タイプのスペルカードだな。この手のヤツは奴隷の操作に集中しすぎて動きが制限されちまうんだよな。ましてや、私を追っかけてるってことは……』
まだそこにいるな!
『っと、やったか?』
「みたいね」
完全に気配が消え、耳に届くのは風の音ばかり。ひとまずは静かになりそうだ、とパチュリーが再び蔵書に手を伸ばした。
-つづく-
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2面の中ボス戦。
ゲーム中ではこの時点で名前が紹介されるわけでもなく、唐突に現れて唐突にスペカぶっこんできます。作中では彼女の姿が見えない、ということにしていますが、ゲームではちゃんと視認できてますのでご注意(ぇ
その辺を地味に再現しつつ、他のキャラがパートナーの場合の会話ネタも織り込みつつ……とまぁ、いろいろやってます。
ノベライズ、という類のはこの作品が始めての体験なので、面白そうな手は使うに限るのですよ。
さて、次回から本格的に俺の嫁が参戦!
素敵なスペカ宣言をやらせたいんだぜ……!