炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

東方地霊殿・異聞/第2幕・第1場


 扉をノックする音が、パチュリーの耳朶に触れる。 

 紅魔館の主だった住人の中で、図書館にわざわざノックをして入ってくれる人物は、残念ながら一人しか彼女は知らない。 

パチュリー様、お茶をお持ちしました」 
「有難う。すぐに行くわ」 

 ティーカートを押しながら現れた咲夜に小さく頷いて、書棚からパチュリーがふわりと舞い降りた。 

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 ほどなく紅茶の芳醇な香りが、かび臭い図書館の中の空気を上書きする。 
 薄く切ったオレンジを浮かべ、一口すすると、パチュリーはひと心地ついたようにため息をついた。 

「あら、茶葉変えたのかしら?」 
「ええ、最近パチュリー様がオレンジティーを好まれているようでしたので。それに合うものを探してみました」 

 咲夜の心遣いに微笑んで感謝の意を示し、再びカップを口に運んだ。 

「ところで、今日は何をされているのです? 珍しく魔理沙をここに招いていたようですが」 
「ええ、ちょっと厄介ごとがあったのでね。動かしやすい奴を連れてきたのよ」 

 姿を見せない魔理沙を視線を巡らし探す咲夜に、今は地底に向かっていることを伝えると、経緯を知らない咲夜はしばし首を傾げたが、妙なことはいつものことかと小さな嘆息とともに納得した。 

「地底と言いますと、先日博麗神社の近くに温泉が湧き出たそうですが、それと何か関係が?」 
「まぁね。……自分の目の前に厄介ごとを抱えておいて、何もしない異変解決の専門家にはまかせておけなくて」 
「はぁ……?」 

 神社に赴いた際の、のんびり境内を掃いていた紅白巫女の姿を思い出す。 

 友人が起こした異変には真っ先に動いてきたくせに……と小声で毒づくと、語尾が喉に引っかかり抱えていた喘息が顔を出した。 

「だ、大丈夫ですか?」 
「……ええ」 

 数度の咳の後、深呼吸をして調子を取り戻す。100年近く付き合ってきた持病ではあるが、こればかりは未だに慣れないパチュリーは、少しさめた紅茶を含んで喉を潤わせた。 

「そういえば、魔理沙はわかりましたけれど、パチュリー様は何をされていたんでしたか?」 
「端的に言えば、魔理沙の監視ね。後は趣味もかねて地底の妖怪のことを…………あ」 

 咲夜の入れてくれた紅茶の香りですっかりさっきまでの自分の目的を忘れていた。 

「いけない、調べ物の途中だったわ。咲夜、お茶ありがとう。私は蔵書の捜索に戻るから、あとは片付けておいて頂戴」 
「ふふ……かしこまりました」 

 常に沈着冷静な魔法使いの、少々抜けた部分を垣間見て、咲夜は小さく含み笑いを浮かべながら頷いた。 



   東方地霊殿・異聞 -An archive doesn't move. 

   第2幕-The way which connects the past to the ground- 







 丸々1ヶ月近くを特撮関連のSSにのみ費やし、すっかり忘れてたわけじゃないですが、久方ぶりの特撮以外の題材でゴザイマス。 
 東方に関しては、ちょっとした頼まれごともあったりするので、感覚を思い出すのもかねて地霊殿ノベライズ再開としゃれ込もうか、といったところで。 


 さて、今回はゲーム内容からちょっと離れて、劇中ではほとんど表に出ないパートナーサイドを主に。 
 いやまあ、この作品自体パートナーのパチュリー視点で話が進んでるんでこのシーンはある種あってしかるべきなモノではあるんですが。 

 パチェマリコンビでのストーリーでちょっと気にかかったのが、調べていた妖怪を次の面でようやく魔理沙に伝えるという鈍亀ぶり。 
 いかな蔵書が多いとはいえ、パチュリーが目的の情報を探し当てるのにそんなに時間はかからないんじゃないかなぁと思ってたんですが、今回はそれに対する一つの答えを提示したつもり。 

 ちなみに、パチュリーがオレンジティーを好むと言う描写は原典には当然ありません。多分二時設定でもないはず。 
 執筆中急に「カナリア諸島にて」が脳内で流れただけです(ぇ 



 ……あ。アレ、ホットじゃなくてアイスティーに浮かべてた(滝汗