穏やかな土と緑の香が、風に乗って新たな季節の到来を告げ往く。
全てを癒し慈しむ森の自然の中で、一人の男が佇んでいた。
「……すぅ」
静かに、深く呼吸をひとつ。
刹那、閉じていた目をかっと開き、腹の底から声を搾り出すように発する。
「炎のぉ……」
ざわ、と周囲の木々が色めく。大きく開いた両の手のひらを重ね、やおら前に突き出した。
「たてがみぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
轟いた叫び声は、数秒反響した後に風に混ざり、辺りは再び静かになる。
「……うーん、やっぱりダメか」
ため息をついて、男……かつて<ギンガレッド>であった、リョウマはそう呟いた。
After of LEGENDWAR
Episode:GINGA-MAN/チカラの喪失
「またやってたのか、リョウマ」
「兄さん……」
背後から声をかけられ振り返ると、リョウマの兄・ヒュウガが茂みの奥から現れた。
「あの戦いから、もうじき半年になる。力が……“アース”が使えないのは、もう既に散々試して解りきってるだろうに」
「そりゃ、そうだけどさ……」
あの戦い……<レジェンド大戦>と称された、宇宙帝国ザンギャックとの戦いの中で、彼ら<ギンガマン>をはじめとしたスーパー戦隊の戦士たちは、持てる全ての力を集め、地球存亡の危機をなんとか退けることに成功した。
しかし、その戦いの果てに、戦士たちは戦う力を……スーパー戦隊としての力を完全に喪ってしまったのだ。
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「兄さんは……前に“アース”を捨てたことがあっただろう? そのときって、どんな感覚だったんだい?」
ふと、リョウマが兄に尋ねる。
レジェンド大戦より以前、3000年前の封印からよみがえった<宇宙海賊バルバン>との戦いの中、一時ギンガマンとの戦列を離れたヒュウガ……黒騎士は、バルバンの首魁・ゼイハブを倒せる唯一の武器を振るうために、自らアースを捨てたことがあるのだ。
「そうだな……あれは、正確にはアースを封じただけだったから、随分感覚が違うよ」
自らの手を数度握っては開いて、ヒュウガが呟く。
「今は、自分の中にアースを感じないのはもちろんだが……この地球(ほし)との繋がりも、薄れて言ってる感じがして……」
「うん、そうだ……。それが、すごく怖いんだ。今までそんなこと、一度だってなかったからさ」
ギンガマンの力の源である“アース”は、元来地球から借り受けた力である。
ギンガの森に住まう民たちは、大なり小なりこの力を操る術を生まれながらに有しているのだ。
「モークが言うには、俺たちがアースを使えるのは、自然の力を引き出すアンテナみたいなものを持っているから、らしいんだが……レジェンド大戦の時に、そのアンテナを丸々喪ってしまったんだろうって」
「そうか……」
大地に手を触れる。風に手をかざす。
リョウマは全身を使って自然と重なろうとしたが、風はただ通り過ぎ、大地は何も応えてはくれない。
「俺たちの……スーパー戦隊の力って、どうなったんだろう?」
「さあな……デカレンジャーや、協力者の異星人たちは、集まった俺たちの“力”は、小さな光のかけらになって宇宙中に散らばった、って言ってたが……」
それは、いつか自分のもとへ戻ってくるのだろうか。
答えの見つからない問いを、意識の向こうへ追いやって、ヒュウガはふと空を見上げた。
「……きっと、戻ってくるよ」
「うん?」
ふと、明るい声でリョウマが言う。
「俺たちの力。それが、どんなカタチでかは、わかんないけど。……いつかまた、俺たちの力が、本当に必要な時が来ると思うんだ」
――その時に、きっと。
リョウマが空を見上げ、その先の宇宙へと目を向ける。
確証はない。でも、ヒュウガもなぜか、そんな気がして……
「ああ……そうだな。きっとそうだ」
大きく頷いた。
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ざざん。と、風が木々を揺らす。
力を喪った戦士たちを慈しみ、励ますように。
-fin-