炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【レジェンド大戦】Episode:MAGIRANGER/魔法が無くても~ルルド・ゴルディーロ~


 あの、地球全土が戦場と化した大いなる戦い……<レジェンド大戦>と銘打たれたそれが終結し、半年が経過しようとしていた。

 各スーパー戦隊及び、そのバックアップ組織の支援・資金提供により、脅威のスピードでの復興が成った今、大戦以前となんら変わらない生活を、人々は送ることができていた。

 その恩恵を受けているのは、市井の人々のみならず……
 あの戦いの果て、力を喪った<彼ら>もまた、同じであった。

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「~~♪」

 穏やかな休日の朝。
 鼻歌交じりに朝食の準備をすすめる、年若い女性。

「っと、できた」

 今日も自信作! と小鼻を膨らませて、意気揚々とプレーンオムレツを皿に盛ろうとフライパンを傾ける。

「あっ!」

 が、珍しく手元が狂い、オムレツは皿への着地を失敗。床へと向かいまっしぐら。

「いけないっ!」

 朝食の準備を手伝っていた青年が、右手をかざし、オムレツに意識を集中させる。

「ゴルド!」

 凛とした声が、空気を震わせるもただむなしく響き……

「……あ」

 哀れオムレツはフローリングにダイブしてしまった。

「ああ、またやっちゃったか。……ごめんよ、麗」
「ううん。気にしないで、あなた」

 申し訳なさそうに頭をかく夫に、妻である小津 麗は笑顔でフォローした。



     AFTER of LEGENDWAR
     Episode:MAGIRANGER/魔法が無くても~ルルド・ゴルディーロ~



 レジェンド大戦ののち、全てのスーパー戦隊はその力を喪った。
 魔法を駆使して戦う、麗たち<マジレンジャー>は、変身能力と同時に、有していた魔法の全ても喪ったのだ。
 それは、麗たち人間とは異なる、<天空聖者>である、夫・ヒカルも例外ではなく……

「もうあれから随分と立つはずなのに、未だに魔法を使えない自分に慣れないものだね。マジエル様は、『いい機会だから、天空聖者として魔法を使わず生きることも修行と心得よ』なんて言ってたけど……」

 かつて、人間だった頃の僕は、そうであったはずなのに――そう言って、ヒカルは自らの手のひらを見る。魔力をこめようと力を入れてみても、そこに何が起こるでもなく、彼は小さくため息をついた。

「その頃のこと、憶えてるの?」
「いいや、僕が天空聖者になったのはもう何百年も前のことだからね。それに、以前君たちにも言ったと思うけど、天空聖者になると、人であった頃の記憶はなくなってしまうのさ」

 ヒカルのその言葉に、麗がすこし悲しげな表情をする。

「どうしたの?」
「だって、人としての記憶をなくして、ずっと長い時間を生きてきて……やっぱり、辛かったよね?」

 わが事のように過去を思い憂いてくれる妻に、ヒカルは穏やかな笑みを浮かべ、その頭をなでた。

「確かに……辛くなかったといえば、やっぱり嘘になるかな。でもね、長いときを経たからこそ、君という、愛する人にも出会えた。僕は今、とても幸せなんだ」

 だから、君が悲しむ必要は、どこにも無いよ。

 ヒカルがそう言うと、麗もようやく笑顔を見せた。目尻に滲んだ涙を、ヒカルが指でそっとぬぐう。

「ヒカル先生!」

 と、不躾に扉が開いて、黒いローブ姿の青年が飛び出してきた。

「ちょっ、ノックぐらいしなさいよ魁!」

 恥ずかしいところを見られたかも、と顔を真っ赤にして起こる麗を、彼女の弟・小津 魁は「まーまー」と宥める。

「そんなことよりっ! ヒカル先生、ちぃ姉もこっちこっち!」
「えっ、ちょっ、ちょっと!?」
「な、なんだい?」

 頭にクエスチョンマークを浮かべる二人の手を引っ張り、魁が連れ出すのは、小津邸最大の秘密である<魔法の部屋>。
 魔法をうしなっても出入りすることのできるこの場所に通された二人は、いつもとは違う後継を目の当たりにし、一瞬目を丸くし――すぐに破顔した。

「ちぃ姉、ヒカル先生……」


   結 婚 記 念 日 お め で と う ! ! !


 いつの間にか集結していた両親、そして兄弟たちが、魔法の部屋をいっぱいに飾り、麗とヒカルの新たな1年の始まりを祝福した。

「み、みんな……」
「ま、まいったなぁ……僕たちの結婚記念日、覚えててくれてたのか……」

 誰も話題にしないから、今日は二人っきりでデートでもしようかとか話してたんだよね。と、二人顔を見合わせて苦笑する。

「大事な家族の記念日だ、忘れるわけが無いだろう?」
「さ、二人ともはやくこっちこっち。まずは家族写真を撮りましょう」

 父・勇と、母・美雪が手招きする。ヒカルが頷き、麗に手を差し出して頷く。

「うん!」
 桜色に頬を染め、麗がその手を取った。


「さぁ、それじゃ撮るでございますですよ~っ」

 マンドラ坊やが、カメラのタイマーをセットすると、マジランプ越しにスモーキーに引っ張られて魁の手の中に納まる。

 数秒の後、フラッシュが瞬き……

 小津家の、幸せな時間が、またひとつ、形となる。

「……麗」
「なあに?」

 ふと、みんなに聞こえないくらいの小声で、ヒカルが麗に囁く。

「誓うよ。……魔法が使えなくても、僕は君を守る。――そして、新しい家族も、ね」

 ヒカルの手が、麗のお腹をいとおしそうに撫で、麗はその手に自分の手を重ねて。

「うん……」

 心の底から幸せそうに、満面の笑みで頷いた。


   -fin-





 さて、レジェンド大戦SSシリーズ、ひとまずの脳内ストック最後を飾るのはマジレンジャー編。 
 ネタ自体の考案は、前作のカーレン編よりも前だったんですが、ちょっと纏めるのに時間かかっちゃいました。 

 今作のネタの出発点は「スーパー戦隊の力を喪う度合い」について。 
 それこそ、単純に科学力のみで構成されたスーパー戦隊なら、変身能力を喪う程度ですむでしょうが(例:ゴレンジャー、デンジマンなど)、変身にその身に得た特殊能力が必須のスーパー戦隊はその特殊能力ごと喪ってしまうものもあるようですね。 

 実際、ゴーカイ第3話の魁ちんの発言から、マジレンジャーは魔法ごと喪っているというのは確定ですし。 

 ちょっと判別がつかないのがアバレンジャーのダイノガッツやダイレンジャーの気力、ゲキレンジャーの激気・臨気でしょうか。 

 この辺は修行次第(ダイノガッツは心が折れない限り)無限でしょうから、今もその身に宿っている可能性はありますが。 

 ただその理屈でいってしまうと天空聖者たるヒカル先生も魔法なくならないじゃないか、ってことになりそうなのでここらで思考停止(マテコラ 


 サブタイの呪文は、マジレンジャー原典の第47話のサブタイと同じもの。 
 この呪文自体は勇パパによるものですが、麗とヒカル先生が結ばれる名エピソードということで、そのまま採用いたしました。 
 本当は同名の魔法がなくても魔法部屋の飾り付けをしたよー、などという演出をするつもりでこのタイトルにした、という理由もあるのですが、展開の都合で入れにくくなりそれは断念(ぇ 

 終盤の展開は少々蛇足かな、と思いつつも、さすがにアレから数年経ってるし、そーいうことになっててもおかしくないよね、という独断と偏見で敢行。 
 個人的には結構いい感じに締まったんじゃないかなー、と自画自賛。 


 さてさて。 
 これでひとまずレジェンド大戦SSのネタは尽きたので、これからは別の脳内ストックからひねり出さないと…… 

 ネタの出発点が無くはない、というか、尽きないのがゴーカイジャーであり、レジェンド大戦であると思うので、またネタが温まったらやりますよー。 

 みなさんのコメントから、ひょっと思いつくこともあるかもしれませんので、その時はどうぞよろしく♪(他力本願