その日……地球は、その滅亡を免れた。
のちに<レジェンド大戦>と銘打たれる戦いが終結し、10分ほどが経過していた。
大地は砕け、緑は焦げ、空はくすんでいた。
だが、それでも。
地球は守られたのだ。
……そのために、多大な代償を払ったことを知る者は、まだほんの一握りしか居ないのだが。
*
「……なんとか、勝てたんだな……」
「そうみたいっスね……えっと、先輩?」
ボロボロになった忍び装束の男が振り返る。声をかけてきたのは、赤いジャケットに、刀を背負った青年。その身のこなしから、自分と同じ<忍者>であると察する。
「そうか、君がハリケンジャーの……」
「ああ。椎名鷹介だ」
先刻の戦いのさなか、何度か背中をかばいあい、忍びの技で連携をした仲だ。素顔を見るのは初めてだったが。<仲間>である事実の前には些かの障害にもならない。
サスケだ。と忍び装束の男が握手を求める。二つの赤い魂が、強くつながった。
「おーい、鷹介ーっ!」
と、鷹介たちの耳に別の声が届く。見ると、鷹介によく似たデザインのジャケットをまとった忍者が二人、駆け寄ってきていた。
「仲間かい?」
サスケの問いにうなづく。早く行ってやれ、と促し、サスケは一足跳びに姿を消す。彼も仲間と合流しに向かったのだろう。
ひとまず仲間の無事を確認できた鷹介は、二人に手を振り返し跳びあがった。
AFTER of LEGENDWAR
Episode:HURRICANEGER/手裏剣とカラクリ武者
「無事だったか、お前ら!」
「あんたが無事なのに私たちが無事じゃないわけないでしょー?」
鷹介の軽口に、七海が口を尖らせてみせる。まぁまぁ、と諌める吼太。相次いだ戦いで疲労の色は隠せないものの、空気はいつしか平穏な頃の3人のものだ。
「……あっ」
ふと、七海の視線があるものを捉える。どこの戦隊のものであったか、大破した巨大ロボットの腕の一部らしきパーツが転がっていた。
「天雷旋風神、早いトコ回収しないとな」
「そうだな……」
緒戦において、ザンギャック艦隊相手に先陣を切ったのは、リボルバーマンモスを駆る天雷旋風神であった。しかし奮闘むなしく、他の巨大ロボ同様、圧倒的な物量を前に大破してしまったのだ。
「……うっ…うぅ……」
残骸に踵を返し歩き出そうとした3人の耳朶に、微かなうめき声が触れる。
「うん、誰だ!?」
声を頼りに駆けつける鷹介たちは、その主の姿を見て目を丸くした。
「「「風雷丸!!?」」」
――ハリケンジャーとともに戦う仲間……カラクリ武者・風雷丸であった。
*
「お……おぉ……ハリケンジャー……皆、ご無事であったか……!」
「ちょっと! 私たちより自分の心配しなさいよ!」
「でもよかったよ、お前も無事でさ」
風雷丸は、ザンギャック艦隊との戦いで、リボルバー天雷旋風神による絶対究極奥義<アルティマレインボー>照射の際に突貫して以来、行方知れずとなっていたのだ。
「いやはや、これを無事と言っていいものやら……」
風雷丸のボディところどころパーツが欠損し、回路や配線が露出している。ダメージは深刻であった。
「ぐっ……!」
ひときわ激しいスパークが弾け、風雷丸が苦悶の声を上げた。
「風雷丸ッ!」
「むぅ……どうやら拙者はこれまでの様子……」
諦観した口調で、風雷丸が呟いた。
「馬鹿野郎! なに弱気になってんだよ! 俺たちの仲間ならもっとシャンとしろよっ!」
鷹介の言葉に、風雷丸が心なしか笑ったような気がした。
「拙者……そなたたちと共に戦場に立てた事、誇りに思うでござるよ……」
有 難 う … …
その言葉を最後に、風雷丸の体が掻き消え、横たわっていた場所には、割れた2枚のメダルが残された。
「風雷……丸……?」
「うそ……でしょ……?!」
メダルを拾い上げる七海。その瞳には涙がにじみ……
「Don’t Give up! 諦めるなハリケンジャー!」
失意に沈みかける3人を、叱咤する声が引き戻す。
「誰だ……あんた?」
鷹介と同じ赤いジャケットを身にまとう男。おそらくは空忍の……しかし、かつてのジャカンジャとの戦いで、ハリケンジャーたち以外の疾風流忍者は居ないはずである。
「っ! ひょっとしてあんた……!」
「ミーのことはどうだっていい! それより彼だ!」
空忍の男が指差す先には、七海の手の中にある割れたシノビメダル。
「まだ彼は死んじゃいない! 助けられるのは、君たちハリケンジャーだ! そうだろう!?」
男の言葉にはっとなる。
「そ、そうだ! おぼろさんなら!」
気が動転していたのか、今の今まで忘れていた、疾風流が誇る天才科学者の存在。彼女なら、仲間に新たな命を吹き込む事だって不可能ではないはずだ。
「よし、急ごう!」
「うんっ!」
メダルを握り締め、駆け出す七海と吼太。
鷹介もそれに続こうとして、ふと一瞬立ち止まる。振り返った先に、もうあの男の姿は無い。
「……ありがとよ」
小さく口の中で、“あの男”に礼を告げ、鷹介は二人を追って駆け出した。
*
「風雷丸! 風雷丸! 起きろ!!」
――数ヶ月後。
ハリケンジャーの秘密基地のラボにて、横たわる巨大な影が目を覚ました。
「う……む……?」
「よっしゃ、成功したみたいやな」
ま、当然やけどな。と満足げにうなづくのは、ハリケンジャーのメカニックにして天才科学者の日向おぼろ女史である。
「拙……者は……確か……あの戦いで……」
「ああ、ボロボロになっちまったけど、大丈夫だぜ! いま、こうやって生きてる!」
満面の笑みで、戦友の帰還を喜ぶ鷹介たち。
「元の体はかなりガタがきてしもうとったからな。のこっとった量産型天空神の予備パーツをメインに新しく組みなおしたんよ。他にも旋風神やら轟雷神やらのパーツも使ってしもたから、そっちの修理は当分無理そうやね」
「そんなことは後でもできるよおぼろさん。俺たちの仲間を助けるのが先さ」
介護士仕込みのマッサージでおぼろを労う吼太。七海も、駆けつけたゴウライジャー・霞兄弟も、帰ってきた仲間に『お帰り』を伝える。
「あぁ……帰ってきたのでござるな……ただいま、みんな……!」
風雷丸が、心からの言葉でそれに応えた。
*
「眠っている間……なにやら、夢を見ていた気がするのでござる」
「夢? カラクリ武者が?」
うむ、と鷹介の疑問に首肯し、月が浮かぶ夜空を仰ぎ見る風雷丸。
「拙者はこの身体で……鷹介殿たちハリケンジャーと……まだ見たことも無いスーパー戦隊と一緒に戦ってござった」
「俺たちはわかるけど、その見たことも無いスーパー戦隊って誰なんだろうな? 一緒に戦ってた連中じゃあないのか?」
吼太の問いには、首を振って否定とする。
「なにやら……そう、“海賊”のような出で立ちであったような……?」
思い出そうと首をひねる風雷丸の頭からプスプスと煙が覗く。
「わ、わ。無理しなくていいから! また壊れちゃうよ!?」
七海があわてて止めて事なきを得た。
「海賊ねぇ……案外、俺たちに続く35番目の後輩だったりしてな」
「夢は夢でも予知夢ってことか? いくらなんでもそれは……」
「……でも、出てきたらいいよね。35番目。……今の私たちは……」
そう。
先のレジェンド大戦において、全ての力を結集しザンギャックを撃退したものの……その代償として、戦士たちはその力の全てを喪ってしまったのだ。
「へっ、そんないるかどうかもわかんないやつら、アテにできるかって」
七海の弱気な発言を一蹴し、跳びあがる。風雷丸の肩に飛び乗って、鷹介は胸を張ってみせた。
「俺たちは伝説の後継者……ハリケンジャーなんだ。たとえ変身できなくたって、たとえどんな奴らが相手だって……ぜったいに負けるもんか! そうだろ、七海、吼太!」
鷹介の言葉に、二人が頷く。
スーパー戦隊としての力を喪ったとて、魂までも喪ったわけではないのだ。
――この日。ハリケンジャーは風雷丸とともに誓う。
決して負けない、と。
・
・
・
そんな彼らが、風雷丸が夢に見たという“海賊”たちと本当に出会うことになるのだが……
それはまた、別のお話。
-了-
久々にレジェンド大戦SSでゴザイマス。
今回は後日談にしてゴーカイレジェンド回につながる前日談。
突っ込みポイントは「変わりすぎだろ風雷丸」
ウィキペでの記述に
『海賊戦隊ゴーカイジャー』に登場した際は本作での青基調のデザインから緑基調のデザインに変わるなど細部に差異が見られる。
とありますが。
細 部 っ て レ ベ ル じ ゃ ね え だ ろ コ レ は 。
ちなみに、あのガタイで、オリジナル版より50センチほど大きいだけらしいです。
重量は倍化してますが。
で、コレを「どうしてこうなった」という理由付けも多少加えてのネタ発想というわけです。
やたら緑緑してて手裏剣ゴリ押しなのは、修繕時に(量産型)天空神のパーツをメインに使用したから。という答えにしてみました。
こーいった劇中で語られていない部分を妄想して形にするのって、二次創作の醍醐味ですよねーw
さて、現在のレジェンド大戦ネタストックはあと2つほど。
やってみたいネタを含めると3つくらいですかね。確実に書けるのが2つってコトで。
まぁ、ゴーカイジャーが終わる前に形にできれば、と。