炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1幕/第3場


 放たれた言葉が、文字が、形を成す。 

 スペルカード。<命名決闘法>とも名づけられた、幻想郷における戦いの<ルール>だ。 

「……まさか地底にまで普及しているとはねぇ」 
『まぁ、今更驚くようなことでもないさ。……っと!』 

 渦巻く弾幕がしなる糸のように広がり、魔理沙を捉えんと舞う。降りしきる瘴気の雨のわずかな隙間をかいくぐり、魔理沙も魔力弾で迎撃する。流石に数々の異変……あるいはそれに近い騒動……に博麗の巫女と(勝手に)関わってきただけのことはあり、思い切りのいい動きは蔵書捜索にいそしむパチュリーの手を止めさせてしまう。 

「……っと、いけないいけない」 
 あわてて書棚に視線を戻すパチュリーであった。 


『うえ、なんだこの弾幕、避けた感じがしないや。べたべたするぜ』 
 げんなりした表情を見せる魔理沙。そういえば、広域映像に映し出された<キャプチャーウェブ>の弾幕配置は、クモの巣をモチーフにしているようだった。 

魔理沙の前にも糸とともに現れたわね……) 

 集まってきた情報を整理し、幾つか本を持ってきた小悪魔に再び指示を与えてから、視線を再び地底へと向けると、ちょうど戦況が一段落するところであった。 


   * 


『おっと、糸切れだねぇ。私の罠符、結構自信あったんだが……こうもさらりと避けられてしまうといっそ清々しいよ』 
『お褒めに預かり光栄だね』 

 ヤマメと魔理沙が互いに不適に笑ってみせる。スペルカードの効果が切れ、繋ぎの瘴気弾を放ちながら、ヤマメは再び懐に手を忍ばせる。取り出した紙片に描かれていた紋様を目にし、パチュリーは自分の中での仮説が少しずつ真相に近づいていくのがわかった。 

『だけど、こいつは流石に躱せまいよ。なにせ病と人とは切っても切れない、強靭で厄介な糸に絡まれているからね!』 

 周囲の空気が変わったのが、魔理沙にもわかった。気を抜いたら瞬時に風邪を引きそうな厭な寒気のような、あるいは熱気のような空気だ。 



『息吹は疫を招く風。昏き熱呼びその身を焦がす。特効薬などありゃしない! 

 黒谷ヤマメが宣する―――』 


 ―――瘴符「フィルドミアズマ」!!! 


 一瞬風向きが変わり、刹那の後再び向かい風が魔理沙の帽子をはためかせる。 

『うわっ!?』 

 風にあおられた箒をなんとか押さえ込むも、魔理沙の動きは明らかに精彩を欠いていた。 

魔理沙?」 
『っは……大丈夫だ』 

 平静を装うその語尾に荒い息遣いが混じる。先ほど聞いた符には<瘴符>なる銘がついていた。やはり人間の身に地底は荷が重かったかのかも知れない。パチュリーの視線は、水晶球の向こうでヤマメの瘴気弾を歯を食いしばりながら躱す魔理沙を捉えたままになっていた。 


   * 


『……なんかヤだぜ。このなんかまとわりつくような感じ』 

 危なげなく躱す魔理沙が苦々しく呟く。先刻の<罠符>による糸の影響がまだ残っているらしく、ベトついた空気が魔理沙を包み込んでいた。 

『やるねえ人間。だが、そろそろかな?』 

 ヤマメの言葉を聴いた次の刹那、箒がガクン、とぶれ、魔理沙の動きを止めた。 

『なっ!?』 

 掠めた瘴気弾が糸の欠片を集め、箒を絡めとったのだ。その隙を逃さんとばかりに、毒々しいながらも鮮やかな瘴気弾の群れが迫る。 

 額を厭な汗がよぎる。 

魔理沙、<エブリアングルショット>のユニットに貴女の魔力を送り込みなさい」 

 と、不意に届くパチュリーの声。 

『っ……こうかっ!?』 

 目の前を浮遊する球体を引っ掴み、普段八卦炉にやるのと同じように魔力を注ぎ込む。刹那、球体が解け、5つの輪が魔理沙を中心に展開した。 

『むっ!? 私の瘴気を掻き消したっての!?』 

 悔しそうに声を荒げるヤマメ。一方の魔理沙は魔力の奔流で向きが変わった風に帽子を押さえながら、ふむと顎に指をあてた。 

『こいつぁ……お前の得意な属性魔法か』 
「ご明察」 

 厳密には、五行思想の要素を絡めている。5色を秘めた輪には、それぞれ火、水、木、金、土の魔力が備わり、それらが生滅盛衰を呼んで、ヤマメの弾幕を打ち消したのだ。 

「名づけて……そうね、<ファイブシーズン>なんてどうかしら?」 
『珍しくシンプルなネーミングだな』 
「スペルカードじゃあないのだからそこまで凝る必要はないじゃない?」 

 五行の要素は不調をきたして魔理沙にいい影響を与えたらしい、軽口に調子が戻ってきた。 

『さぁって……知ってるかいヤマメさんとやら!』 

 不敵に微笑む魔理沙が、魔力弾の密度を上げ、対峙する少女を狙う。 

『人間ってな、病気から回復すると、同じ病気には罹りにくくなるんだぜ!!』 

 ――もう一度、私を病気に……できるもんならしてみろってな!!! 

『おわっ!?』 

 符を使い切ったらしいヤマメは、反撃に転ずることも出来ず、魔力弾の嵐をまともに受け…… 
 飽和した魔力が破裂した、その爆風に巻き込まれ、明後日の方向へと吹っ飛んでいった。 

『……ふえっくしょん!』 

 去り際に瘴気が残っていたらしく、魔理沙が盛大にくしゃみをひとつする。 

『ほんとだ、身体に悪そうだな』 
「地底には忌み嫌われた妖怪ばかりよ……」 

 先ほどの病を操る妖怪もそうだ。普段幻想郷を闊歩する連中などが随分とかわいく思え…… 

(……ないわね) 

 と脳裏に浮かぶのは、人を食ったような笑みを浮かべるスキマ妖怪。 

「ともかく、心してかかりなさいな」 
『それで自分で行かないで私に行かせたのか? ずるい奴だなァ』 

 ――まぁ、面白いからいいけどな。 

 肩をすくめながらも、魔理沙はそう言って笑ってみせた。 



   -第1幕・了- 





 前回から1年弱放置してたorz 
 いやちまちまと書いてたんですよ? 完成が遅れただけで(ぉぃ 

 巷ではもう神霊廟もEXネタバレしているというのに、私はまだ買ってすらいないわ!(いばるな 


 さて、どーでもいい(詳しい人にとっては釈迦に説法レベルの)解説 
 五行思想を踏まえたパチュリーの遠隔霊撃<ファイブシーズン> 
 シーズンなのに五つ? 
 木火金水がそれぞれ春夏秋冬を表し、残りの土が「土用」を示すんだそーです。 

 パチュリー自身はこれにプラス2の属性(日と月)を加えた「七曜」の属性を駆使して必殺のスペカ「賢者の石」を用いてますが(誰だ王気七星破とか言ったのは) 
 流石に属性魔法に明るくない魔理沙にそのまま使わせるのは躊躇したんでしょうかね。 

 西洋魔術に傾倒してるとはいえ東洋人の魔理沙だから、五行思想のほうが扱いやすいかも、とか思ったのかもしれません。 


 さて、第1幕が終わったって事は…… 
 動画、やんないとなあ……(トオイメ