「あれが……緑青騎士・咎牙」
「鎧を纏っただけで心が折れそうになる気魄を放ちやがるぜ……ったく、とんでもねえ」
びりびりと皮膚に受ける殺気を感じ、斬と紅牙がごくり、と固唾を呑んだ。
「――来る!」
誰かの声が聞こえた刹那、錆びた鎧が飛び掛り、大きな鉈状の剣を振るう。猛烈な剣圧が大気を薙ぎ、地面を裂いた。
「っち!」
「いいわね皆、手はずどおりに! 斬、あんたは魔導火であかねちゃんの治療を手伝って!」
初撃をかわす面々に、光から指示が飛ぶ。まず前線に躍り出るは紅牙、透、律の三人。手にした得物が空に輪を描いた。
「おりゃああああああっ!!!」
猿叫もかくやの咆哮を上げ、皆朱の十文字槍が先陣を切る。咎牙が着地した瞬間を狙い、ソウルメタルの穂先が横殴りの雨のように煌いた。
「ちぃっ!」
「おっと、そっちばかりに集中はできないぜ!」
守りが甘くなった脇に、透が肉薄する。鎧の右目部分に変わらず鎮座するナラカが含み針を以って迎撃するが、その全てが透の眼前で見えない壁に阻まれるかのように弾かれた。
『……むぅ、水晶騎士の“不可視の太刀筋”か。ここまでの完成度を見るのは久しぶりだな』
「そいつはどうも。ほめてもらっても、手は抜かないぜっと!」
透明な刃が一瞬だけ光り、すぐさま闇夜に溶け込む。すれ違いざまの一撃が、咎牙の鎧に火花を走らせた。
「はっ!」
次いで律が、鬼の金棒のごとき金剛棍を振るい、一息に叩きつける。それを緑青剣で受け止めた咎牙との鍔迫り合いを仕掛け、力を籠める。
「ぐぅぅぅぅぅ……」
「ふん……っ」
と、咎牙が不意に力を緩め、勢いを殺しきれなかった律が大きく踏鞴を踏んだ。そのわき腹を蹴り上げられ、鈍色の鎧が地面を転がった。
「ってて……こんにゃろう!」
鼻を鳴らし、腰に下げていた酒瓶に手を伸ばす。
『待ちなさい。今それを使ったらすぐ潰れちゃうわ!』
「っく……わかったよ!」
相棒に窘められ、律は渋々手を放した。
*
「光さん、斬さん、もう大丈夫。いけるわ」
「ホントに? 無理してない?」
光の治癒術と斬の魔導火による治療が終わり、あかねが立ち上がる。光の問いに、力こぶを作って見せて答えとした。
「あんまりのんびりもしてられないじゃない? もうすぐ紅牙さんたちも“時間切れ”だし」
魔戒騎士が鎧を装着していられる時間は、僅か99.9秒である。それを過ぎると彼らは鎧に食われ、“心”を“滅”してしまうのだ。
そう呟いたあかねの声のすぐ後に、紅牙たちが鎧を返召する。一旦下がる彼らに代わり、斬、光、そしてあかねが前線に立つ。
同じく鎧を一度返召した譲一郎と対峙する三人が、彼と同時に召喚輪を描く。
鎧を纏った刹那、大鉈と双槍と戦斧が重なり合い、重々しい金属音が木々を揺らした。
「はあっ!」
紅蓮斧を逆手に持ち替え、間合いをギリギリまで詰めた斬が、アッパーカットのように剛刃を咎牙の顎に打ち付ける。
「ぐっ……!?」
頭を揺らされ、咎牙が大きくバランスを崩す。好機とみた光とあかねが、舞うように槍と扇の斬撃を繰り出した。
「ふっ……ふふふ……」
膝をついた咎牙が、低く嗤う。
「これだ! ……こういう戦いを、俺は望んでいたのだ」
感謝するぞ、貴様ら。
そう言って、剣を握りなおす。
「もっと強さを見せろ。俺はさらに上をゆく強さを以って……貴様らを叩き潰してやる」
ゆっくりと立ち上がり、咎牙が吼えた。
-つづく-
前回のゴーカイ後日談でバトルシーンのリハビリになったかなーとやってみたけど……
うーん……?
なんか物足りないような気がするんだが……まぁ、ホントの本番はもうちょっと先になるから、ここで盛り上げすぎると息切れしかねないんだけどね(ぇ
※初出:2012年2月26日・mixi日記