炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】血錆の兇刃:シーン14【緑青騎士篇】

 咎牙と同じく、錆びた銅の色を持った甲蟲の鎧が、少しずつ黒ずんでいく。心なしか、少しずつ大きくなっているようにも思えた。 

『ソウルメタルが、デスメタルへと変貌している……』 
デスメタルって、確か闇に堕ちた魔戒騎士の鎧の……?」 

 相棒の呟きに反応したあかねの問いに、『ええ』と応えるリルヴァ。 

「心滅ってわけでもねえのに、なんでまた……」 
『ホラーの力によって浸食されたのだろう。数体程度のホラーを取り込んでいるならこのようなこともない筈なのだが……』 

 魔導具たちの探知の結果、甲蟲の内部には500を超えるホラーが内包されているとのことだった。 

「あんた達、びびってる場合じゃないわよ!」 

 と、そこへ響き渡る光の叱咤に我に返る。手にしていた剣を放り投げ、力の赴くままに、荒ぶりに身を任せるかのごとく、咎牙が暴れまわり、振るった拳の風圧が、騎士たちのコートを剥がんとばかりに吹き荒れた。 

「なんかさっきよりでかくなってるな……こいつは、戦力の出し惜しみなんてしてる場合じゃないねぇ……」 
「そうね……。全員、鎧を纏って。全部ぶつけるわよ!」 

 光の鶴の一声に、次の瞬間、6つの鎧が立つ。 

「俺の炎を使え!」 

 魔導火を纏う、<烈火炎装>を発現した紅蓮騎士・紅我……斬が斧を振るい、魔導火を残る5人に投げ渡す。 
 受け取ると同時に、各々の鎧が炎に照らされて煌いた。 

「霍乱はこっちに任せなさいな!」 

 咎牙の懐に飛び込む5人の背後で、瑪瑙騎士・揚刃こと光が炎をたたえた鉄扇を投擲し、法術を以って操る。 
 次いで数本の短剣を取り出し、同じく魔導火の加護を与えると法術で撃ち出す。 

 暴れる咎牙の眼前にそれらを操りちらつかせると、獣のように吼える咎牙は攻撃の矛先をそちらへと向ける。 

 その隙を逃さず、斬と紅牙が渾身の力で足元を切り崩しにかかった。 

「はあっ!!」 
「そいやぁっ!!」 

 強烈な反動と鈍い音が響く。衝撃は伝わったらしく、大きく踏鞴こそ踏んだものの、装甲には傷ひとつついていない。 

『なんて堅さ! 烈火炎装を纏った紅蓮騎士の攻撃を受けてるのに!?』 
『魔導甲蟲は、ホラーを封印するという特性上、ソウルメタルの密度は並みの魔導獣を遥かに超えるというが……こいつは予想以上だわい』 
「感心しとる場合か、ジジイ!」 

 どうする……と呟いた紅牙……赤銅騎士・朱狼の背後で、喉が鳴る音。 

「っぷは……なら、力押しで行くしかねえだろう!」 

 酒瓶に詰まっていた赤酒を一気飲みした金剛騎士・殴牙……律がしゃっくりをひとつして躍り出る。 

 口に僅かに含ませていた赤酒を金剛棍に吹きかけ、烈火炎装の魔導火を勢い良く燃やす。 

「んっだらああああ!!!」 

 フルスイングを咎牙の膝裏に見舞う。さすがに装甲はやや薄めの部分であったらしく、まともにダメージが通り、咎牙の巨体がもんどりうって倒れた。 

「今のうちに……いくよ!」 
「了解!」 

 倒れた咎牙の両の手のひらめがけ、水晶騎士・氷翠こと透が、碧玉騎士・麗牙ことあかねが、各々の武器を突き立てる。地面に縫い付けるつもりであったが、強固な装甲が、やはりその侵攻を阻む。 

「っやべえ! 二人とも離れろ!」 

 紅牙の声が飛ぶが、それに反応するより早く咎牙が動き、巨大な手のひらが二人を掴み、強靭な握力を以って握り締める。 

「透、あかねちゃん!」 

 光が法術を駆使し、短剣を鎧の隙間に突き刺す。ダイレクトな衝撃に咎牙が唸り声を上げ、手を離すと、戒めから逃れた二人が地面に転がった。 

「……あの装甲が厄介だな」 

 ぐっ、と紅蓮斧を握りなおした斬が、傍らの紅牙に声をかける。 

「紅牙……アレを使う」 
「アレって……ああ、アレか!」 

 紅牙に頷き、「フォローを頼む」と告げると、紅牙は大きく頷き、僚友たちの元へと走る。 
 ほどなく斬による作戦(というほどたいそうなものでもないが)に同意した面々が、斬の傍へと駆けつけ、彼を守るように集まった。 

「こっちは準備OKだ、いつでもいってくれ!」 
「おう! ……来い、火影!」 

 強き仲間……魔導馬・火影を召喚し、それにまたがった斬は、魔導火のライターを握り締めて、大きく息を吸った。 


     -つづく- 




 久方ぶりに大技出すぜ! 



※初出:2012年2月28日・mixi日記